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「理想のマネジャー」は怖い言葉だなと思った──LITALICO渡辺さんに聞く、 #理想のマネジャーってなんだ

「理想のマネジャーってなんだ?」を考えるにあたって、まずはいろいろな書籍を読んでみることにした。

けれど、それだけじゃ足りないよなあ、と思った。

実際に世の中のマネジャーの方々は、何を考え、何に悩んでいるのだろう? そういった、現場の声を知らずして「理想のマネジャー」を考えることはできない、と思ったのだ。

そこで私は、書籍を読んで知識をつけることと同時に、素敵な組織を作っているさまざまな人たちに話を聞きにいくことにした。答えはいつだって現場にあり、である。


その日、私は中目黒である人を待っていた。

その「ある人」とは、「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、就労支援、幼児教室・学習塾などの教育サービスを提供している株式会社LITALICO(りたりこ)の渡辺龍彦(わたなべ・たつひこ)さんだ。

渡辺さんは、現在は子育てメディア「コノビー」の編集長を務めている。そして新卒でLITALICOに入社してから現在に至るまで、福祉施設や新規事業など、さまざまな組織のマネジャーを経験されていた。

(写真は以前知人と渡辺さんのおうちに遊びに行ったときのもの。キッチンが似合いすぎです……)

そんな渡辺さんに、はじめてのマネジャー経験から現在に至るまで、マネジメントに関するお話を根掘り葉掘り聞かせていただいた。その一部を、ここに記したいと思う。


はじめてのマネジメントは新卒1年目のとき

渡辺さんがはじめてマネジャーを経験されたのは新卒1年目のとき。とある障害者福祉施設のセンター長に抜擢されたという(新卒1年目でマネジャーなんて、サイボウズではありえないので驚いた)。

1つの施設の運営──予算管理、採用、外交などをすべてまるっと任された渡辺さんは、手探りでマネジメントに向き合っていったそうだ。当時のチームは約6人。全員年上で、「きっと『なんでお前が』と思われていたんじゃないかな。ぼくも『なんで俺が』って思ってたし」と渡辺さんは当時を振り返る。

最初にマネジャーになることが決まったとき、渡辺さんは先輩から「マネジメントってなんだと思う?」と聞かれたという。そのときに渡辺さんが答えたのは、「メンバーが喧嘩しないように、業務を管理して円滑に回すこと」

そんな渡辺さんに先輩は、「マネジメントとは結果を出すことだ」と言い、その答えは当時の渡辺さんにとって目から鱗で、マネジメントをする上での考えの礎になったという。

最初のマネジャー経験で難しかったことを聞いてみると、「自分のスタンスをつい押し付けてしまった」とのことだった。渡辺さん自身が当時ガツガツと仕事をするタイプだったので、「なんでみんなやらないんだろう」「自分にだってできるからやるべきだ」と、そのスタンスを他のスタッフにも押し付けてしまったそうだ。

マネジメントのむずかしさにぶつかる

福祉施設のセンター長を担当されたあと、渡辺さんは本社異動になって、発達障害児むけの支援事業の立ち上げ〜展開を4・5年間担当。10つほどの教室を作り、エリア統括を任された。

そのときに、渡辺さんは前述の「押し付けるスタンス」も起因して、スタッフと信頼関係が築けなくなった時期があったという。渡辺さんについていたスタッフがどんどんやめていってしまって、「やり方を見直さないと、と思った」と渡辺さん。

その当時から渡辺さんがずっと大切にされているのは、「相手の立場に立つこと」だ。「相手と向き合う」ではなく、「相手の立場に立つ」。全く同じ視点は無理でも、そのメンバーが見ている景色を見ようとすること。それは「肩を組んで同じ方向を向くイメージ」だ、と渡辺さんはおっしゃった。

そしてその頃から、施設長を渡辺さんが兼任することをやめ、施設長を育成する方向に変わっていったそうだ。「自分が直接マネジメントをする」のではなく「マネジメントできるメンバーを増やしていく」。マネジャー候補のメンバーたちには、日報などで日々コミュニケーションを取り成長をサポートをしていった。

マネジメントとは「ミッションを進捗させること」

渡辺さんに、そういったこれまでのマネジャー経験を踏まえ、いま、あらためて「マネジメントって何だと思う?」と聞かれたらどう答えるのかを聞いてみた。

すると渡辺さんは、「ミッションを進捗させることかなあ」と少し間を置いて答えられた。

それは「KPI」としてのミッションという意味ではなくて、もう少し大きな意味でのミッションです。

「今月は10件受注を取ろう!」という数値目標に対してコミットすることはとても重要だけれども、もっと大切なのは「その受注件数は、本当に自分たちが目指しているものにつながる数値なのか?」という問いが立てられることだったりする。

いくらKPIを達成できていても、自分たちがつくりたいビジョンに向けて、事業のミッションが進捗しているのかどうかを説明できないとしたら、なんのためにやっているのかわからなくなってしまう。マネジメントとは、というより、僕が特にそういうタイプなだけなんだと思うんだけど。でも、そう思います。

これにはなるほど、と思った。つい「成果」や「結果」「ミッション」というと数値的な目標を思い描きがちだけれど、「大きな意味でのミッションの進捗」の方が、はるかに大事だと私も思う。サイボウズでいう「理想に近づいているのか?」というコミュニケーションと通ずる部分があるな、と思った。

「理想のマネジャー」はマネジャーにとって怖い言葉

最後に、渡辺さんにとっての「理想のマネジャー」について聞いてみた。すると渡辺さんは、「理想のマネジャーという言葉は、少し怖いなと思った」とおっしゃった。

「理想のマネジャー」というnoteのタイトルを見て、正直怖いな、というか、ドキッとしました。

僕も昔そうだったんですが、僕たちって「上司」や「マネジャー」といった役職者に対して期待値が高いですよね。人格者で、仕事もできて…、いろんな項目で高い評点を求められる。でも当然そんなスーパーマンめったにいないじゃないですか。

だから「理想の上司」や「理想のマネジャー」を定義されてしまうと、それに照らされて評価される側は、窮屈に感じるんじゃないかと思う。

「理想の母親」とかもけっこうプレッシャーをうむ考え方だけど、「肩書き+理想」の組み合わせってそうなりやすいというか。

スタッフ一人一人に活躍の仕方があるように、マネジャーはマネジャーでいろいろあっていい。熱い心を持って人を動かすのが得意なマネジャーもいれば、働く環境整えるのが上手なマネジャーもいる。誰よりも数値を出せるマネージャーがいることで生まれる求心力もあるかもしれない。

結局はその時のチーム全体の生態系としてうまい具合かどうかということだから、「マネジャー」という言葉だけ抜き出して定義づけして良し悪しをつけるのは、難しいんじゃないかな。

だから、理想のマネジャーっていうのは、僕にはちょっと言葉にするのが難しいです。


「理想のマネジャーは難しい」──。これは私にとって新しい気づきだった。たしかに多様な人がいて、いろいろなマネジメントの方法がある中で、「理想」というひとつの答えを導き出すことは難しいのかもしれない。

これは、「理想のマネジャーってなんだ?」の答えが、「ない」という答えになる可能性も出てきたぞ……と頭を悩ませるあかしなのでした。


(つづく)


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