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【短編】 ベイビーボム世代

 かつて、赤ちゃんが爆弾として戦争に利用された時代があった。
 それはベイビーボムと呼ばれ、爆撃機から投下されると爆発するのだが、不思議と赤ちゃんが死ぬことはない。
 地上に残った赤ちゃんは後で回収されるが、戦火で死んだりして、いつも半分ほどの赤ちゃんは返ってこなかったという。
「この世界大戦において、赤ん坊は最重要の戦力であり、その数によつて戦争の趨勢が決まるです」
 当時、街頭演説をした政治家の言葉だ。
「赤ん坊は爆発しても死にませぬ。しかも、我が子が爆弾になつて、国家の存亡を救う英雄天使になれるのですから……」
 
 戦後になると、人道的な観点からベイビーボムの使用が国際条約で禁止された。
 しかし、ベイビーボム世代はその後、爆発の影響で、病気になりやすい体になったり、寿命が短くなったりしたという報告が多く上がった。
 結局、因果関係がよく分からず、後遺症の問題はうやむやにされてしまったが、彼らの子どもにあたる第二世代には奇妙な特徴がハッキリ現れた。
 それは、第二世代の彼らに何らかの超能力が備わっていることであり、強い力を持つ者は、隕石を地上に落としたり、通信を一瞬で混乱させたりすることができた。
 
 その後、超能力を利用しようとする国家に嫌気がさした彼らは、南極大陸を実効支配し、自分たちの超能力国家を誕生させた。
「我らの南極国は、まだ憲法もなく、国際的な承認もない、一時的な拠り所に過ぎません」
 南極国のリーダーは、白い氷で作られた台の上に立って演説をした。
「我らは、超能力を使って人類を支配することも可能です。しかしそれをやると、かつてベイビーボムを使って世界を支配しようとした人々と、同じ道を辿ることになるだけです」
 
 五年後、南極国は人類を支配すべきとする強硬派と、人類との対話を求める穏健派に激しく分裂した。
 強硬派は、人類の半分まで支配したが、反対勢力による抵抗やテロで統治が上手くいかず、面倒臭くなって南極に引きこもってしまった。
 一方の穏健派は、人類との対話をいろいろと試み、一部に理解者も現れたが、強硬派の行動を抑えることができず、結局は人類の敵とみなされた。
 
「とりあえず宇宙に出て、人類と距離を置きましょう」
 新しく出てきた、南極国のリーダーはそう宣言した。
「我々は、人類の支配にも、対話にも失敗した。ただそれだけです」
 
 これが、われわれ火星人の歴史の始まりだと思うと、何だか……。

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