不満は自分自身への期待に繋がる力を秘めている
誰しも身体的特徴で不満な部分を持っている。
爪の形がいびつだとか、骨格が気に食わないだとか、理想の伸長ではないだとか。他人はそんなこと見てないはずと言い聞かせても、気にしてないと気が済まない。
例外なく私も持っており、それは”手が異様に暖かい”ことだ。別にいいじゃんと思われがちだが、私としては困ることのほうが断然多い。
私は料理を作ることが好きなのだが、お菓子作りに使うバターやチョコレートといった、温度で形状が左右される食材の扱いが難しく、素手で触ったところからどろどろと溶けてしまう。
夏場は手のひらが常にヒートアップ状態のため、保冷剤を常に握りしめていないと暑さが不快で生活できない。
カッチカチに冷えた保冷剤も、手のひらサイズであればものの5分でフニャフニャになってしまう。
小学生の頃に、人よりも手が暖かいことに気が付き、周りから「なんでそんな手が熱いの?」と聞かれることも多かった。
「手がつめたい人は心があったかい」とかいう昔からの言い伝えをもじって、「手が熱いってことは心が冷たい人なんだ」と、謎理論でいじられることもあった。
不満に思ったことを数えだしたらきりがない。
だが、それでも私は、この手が好きだと胸張って言える。
そうしてくれたのは、『焼きたて!!ジャぱん』というパンを題材にした漫画のおかげだ。
急になぜパンの話?
と、思われるかもしれないがちょっと聞いてくれ。
端的にいえばパンを作って作って作りまくる物語だ。漫画の主人公というものはどの作品でも、秘めた能力や突出した才能を持っているのがセオリーであり、この作品でも同じように、主人公の和馬は【太陽の手】という名の能力を持っている。
その【太陽と手】というのが、『人よりも手のひらの温度が暖かい為、パン生地の発酵に適しており、その手で作られたパンは美味しくできあがる』というものなのだ。
それを知った当時の私は衝撃を受け、「完全私の事じゃん、もしかするとパンを作る才能があるのかもしれない!」と心臓がどきどきして胸が高鳴ったのを覚えている。
自分が主人公と同じ能力を持ってるなんて夢みたいだと。
そしてパンを作りはじめ、学校では自由帳に、将来建てるパン屋さんの設計図を書いたりもした。
20代となり、パン屋さんを開くことはなかったが、趣味として今でもパンを家で焼いている。
漫画で描かれていた【太陽の手】というものが実在するのかは知らない。
だが、きっかけさえあれば、変えようのない不満も、自分自身を豊かにする個性として受け取ることもできるのだ。
今はもう潰れた古本屋で、『焼きたて!!ジャぱん』を買った当時の私を誉めてあげたい。
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