不満は自分自身への期待に繋がる力を秘めている

誰しも身体的特徴で不満な部分を持っている。

爪の形がいびつだとか、骨格が気に食わないだとか、理想の伸長ではないだとか。他人はそんなこと見てないはずと言い聞かせても、気にしてないと気が済まない。

例外なく私も持っており、それは”手が異様に暖かい”ことだ。別にいいじゃんと思われがちだが、私としては困ることのほうが断然多い。

私は料理を作ることが好きなのだが、お菓子作りに使うバターやチョコレートといった、温度で形状が左右される食材の扱いが難しく、素手で触ったところからどろどろと溶けてしまう。

夏場は手のひらが常にヒートアップ状態のため、保冷剤を常に握りしめていないと暑さが不快で生活できない。
カッチカチに冷えた保冷剤も、手のひらサイズであればものの5分でフニャフニャになってしまう。

小学生の頃に、人よりも手が暖かいことに気が付き、周りから「なんでそんな手が熱いの?」と聞かれることも多かった。
「手がつめたい人は心があったかい」とかいう昔からの言い伝えをもじって、「手が熱いってことは心が冷たい人なんだ」と、謎理論でいじられることもあった。

不満に思ったことを数えだしたらきりがない。
だが、それでも私は、この手が好きだと胸張って言える。

そうしてくれたのは、『焼きたて!!ジャぱん』というパンを題材にした漫画のおかげだ。

この手で”ジャぱん”を創るんじゃ!!
世界に誇れる日本のパン”ジャぱん“を造る夢をかなえるために多くの強敵や試練に挑んでゆく東和馬の物語。
2001年~2007年まで小学館「週刊少年サンデー」に連載された橋口たかしの漫画。
https://www.sunrise-inc.co.jp/work/detail.php?cid=260

急になぜパンの話?
と、思われるかもしれないがちょっと聞いてくれ。

端的にいえばパンを作って作って作りまくる物語だ。漫画の主人公というものはどの作品でも、秘めた能力や突出した才能を持っているのがセオリーであり、この作品でも同じように、主人公の和馬は【太陽の手】という名の能力を持っている。

その【太陽と手】というのが、『人よりも手のひらの温度が暖かい為、パン生地の発酵に適しており、その手で作られたパンは美味しくできあがる』というものなのだ。

それを知った当時の私は衝撃を受け、「完全私の事じゃん、もしかするとパンを作る才能があるのかもしれない!」と心臓がどきどきして胸が高鳴ったのを覚えている。
自分が主人公と同じ能力を持ってるなんて夢みたいだと。

そしてパンを作りはじめ、学校では自由帳に、将来建てるパン屋さんの設計図を書いたりもした。
20代となり、パン屋さんを開くことはなかったが、趣味として今でもパンを家で焼いている。

漫画で描かれていた【太陽の手】というものが実在するのかは知らない。
だが、きっかけさえあれば、変えようのない不満も、自分自身を豊かにする個性として受け取ることもできるのだ。

今はもう潰れた古本屋で、『焼きたて!!ジャぱん』を買った当時の私を誉めてあげたい。

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