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120冊

紙の本が好きだ。
小さい頃から、たくさん本を読んできた。私の人生は、本と漫画と雑誌が無いと語れない。
電子書籍がどんどん広がる中でも、積極的に紙の本を買っている。本屋に行くのは、もはや習慣のようで特別なことではない。旅行先でもその土地にしかない個人書店を調べて行く。息をするように本を買ってしまう。

今日、120冊の本と漫画を手放した。

ここ数日、部屋の大掃除をしていて、これを機に本も手放すことを決めた。
部屋に本棚は3つ。マスがたくさんあるカラーボックスと、二段のボックスが2つ。どれもパンパンに本が詰まっている。時々、全部出して本を並べ替えたりするけど、ほとんどが一度読んだらもう読まない。たまに開いて、この一行が好きなんだよな〜と味わったりするのは、本当に気に入っている数冊だけだ。
それでも、普段は本を手放すことを考えていない。この部屋に本はあるもので、本のために棚を増やすもので、手を伸ばせばあちらにもこちらにも本があるのは当たり前だ。

中には全部読んでいない本もある。
本好きにはわかってもらえると思うが、本を買うことはコレクションを集めることと同じだ。
本好きは、コレクターなのだ。

この作家のはとりあえず買っておこう、この系統のは並べておきたい、この特集はどの雑誌のでも欲しい、などなど。

買って満足、という本が何冊もある。
けど、反省は全くしていない。

本を買う理由はいくらでもある。2000円出せば一般的な本は大抵買える。そのお金は惜しくない。数冊買って、5000円になろうがそんなに気にならない。だって、お値段以上のあたらしい世界が今私の腕の中にあることを知っているから。なんて価値のある買い物なんだろう!と思っているから。

最初は、もう集めていない漫画と、本当にもう読まないやつだけ捨てようと思っていた。結局そんなに捨てられない、と半ば諦めながら作業を始めた。
まずは本棚から本を全部出す。床に並べながら、手放すものと残すものを決める。
これはあの時買ったやつだな〜、この作家好きだったな〜、思い出が邪魔をして作業はなかなか進まない。とりあえず一通り選別を終えたけど、残す本がまだ大量にあった。

今回の片付けは、結構気合を入れてあらゆるものを捨てると決めていた。本だけじゃない。洗面台の下にしまった化粧品とか、もう着ない服とか(服は大きなゴミ袋6つ分捨てることになった)、荷物を減らすことが一番の目的だ。

それなのに、本は減っていない。
このままじゃまずい。今回の片付けの意味がない。これは、本格的に本とのお別れを考えないと行けないのではないか!?と思った。

残す本の山をもう一度解体する。

10年前に実家から持ってきた村上春樹の「1Q84」文庫本6冊、同じく実家から持ってきた宮部みゆきの「ソロモンの偽証」文庫本6冊、時間のある時にもう一回読もうと思っていた新書、知ることが面白いと思った文化人類学の本、心が救われていた益田ミリの漫画、シンプルな絵なのに本当に音が聞こえてくるかと思った漫画で今年の5月に映画化される「バジーノイズ」、同じく映画化が決まった「はたらく細胞」、「海が見えるエンドロール」「町田くんの世界」「田中くんはいつもけだるげ」


全部面白かった。
私の日常を楽しくしてくれた。
文庫本6冊の作品はそんなに無いし、長いことを忘れて読むことが楽しくて仕方なかった時間を私は覚えている。
友だちから教えてもらって出会った学問の文化人類学は、ここ数年の私のテーマのようなもので、人の生活、文化、関係の作り方がフィールドワークから紐解かれて面白かった。難しいし、理解できたかと言われれば素直に頷くことはできないけど、でも文化を知ること、優劣を決めるのではなく異なる文化をそのまま見つめること、生活の中で生まれる様々な関係性の面白さを教えてくれた。私自身、地元から離れ生活する中で、この土地の文化を知った。私もフィールドワークしているのかも?なんて考えると、生活の中にいろんな発見が転がっているようでワクワクした。

思い出がたくさんある。
一冊一冊に、新潟での生活が染み付いているようだと思った。
この本は、私を表すものだ。
私がどんな人間なのか、表現するものだ。
本からもらった言葉は、私の血と肉になる。
脳に焼かれた思い出は、一生消えない。

本を手放すことは、これまでの私を手放すようだった。
寂しいな、と思った。私が好きだったものを手放すのは、やっぱり寂しくて、切ない。

でも、決めたんだ。今回の片付けを、私の人生の中で意味のあるものにするために。今回は本気なのだと、私が私にわからせるために。

また出会わせてください、と思って、120冊手放した。
意味のある別れだと、自分に言い聞かせた。
きっと、新しい出会いがある。断捨離のセミプロのような母曰く「手放すと、その場所に今の自分に必要な新しいものが入ってくる」らしい。私に必要なものが入ってきてくれる。その隙間を、今回はいつもより多めに確保した。

本に興味のない人も、自分の大切なもので考えてみてほしい。服でも鞄でも靴でもゲームでも、きっと別れは辛くて、出会いは鮮やかだ。

120冊手放したけど、もちろんまだ本はある。
この本たちと、これからを歩いていくよ。



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