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【詩小説】教科書に落書きを

はじめて隣の芝生が青くみえたのは
石川啄木をおさげの乙女に変身させた
君の鉛筆

私は自分の書く字を好きになれなかった
だからわざと濃く大きく書いて誤魔化した
自信がないことを見抜かれないために
とめ、はねをこれでもかとわざとらしく

枠からはみ出しては先生に注意された
消しゴムの跡が浮き彫りで
クラスの日誌で私のページは一番黒かった

私は君の鉛筆がうらまやしかった

そのうち君がうらやましくなって
君の真似ばかりした

真似すらまともに出来ない私は
いつしか君をうらやんだ

真っ直ぐ書けない日誌と
ひねくれて曲がってく憧れ

君が落書きを見せてくれても
わざと笑ってあげなかった

落書きを消して書いてを繰り返す
次第に写真の印刷は薄れて顔は消えた

私はもともとの顔を覚えていなかった
与謝野晶子も宮沢賢治も
夏目漱石も森鴎外も
私の教科書から消えた顔は

私は升目のないノートを買った
まっさらな白紙に自分の好きなものだけ書いた
文字のサイズも気にしないで
君の真似事はやめて

不格好だったけど
書くことが楽しいと思えた

先生が毎日続けて偉いねと褒めてくれた

進学すると君は絵を書かなくなった
君は私に何も見せてはくれなくなった

それからの君を私は知らない
知らない方がいい気がした

これ以上消えない教科書の顔

私はあれからずっと鉛筆を離さなかったよ
それだけは
胸を張って
君に言える



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