"First Person" Richard Flanagan (Knopf)

『ファースト・パーソン』 リチャード・フラナガン(クノップフ社)

 この小説の語り手である小説家志望の悩めるティーンエイジャーは、代筆の仕事のためにタスマニアからメルボルンに呼び出される。
 ジギーという悪名高いペテン師について書くことになるのだが、その話は腹立たしいほどはっきりしない。「産まれたときからおれは行方不明なんだ」ジギーは出自を打ち明ける。裏社会で危ない橋を渡り、出版業界のばかげた姿勢とやり合い、金言めいた発言をする相手に取り組んでいるうちに、語り手は虚構と現実の境界に取り憑かれていく。
 フラナガンがジギーの魅力や悪影響をうまく扱えたとは言いがたい。だが本作は、テンポよく切り替わる回想、くり返される会話、感動的な誕生ひいては死の場面によって、捉えがたく魅力的な作品になっている。

The NewYorker [May 28, 2018]

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