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カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル 『読者に憐れみを――ヴォネガットが教える「書くことについて」』

★★★★☆

 2022年6月刊行。訳者は金原瑞人さんと石田文子さん。
ヴォネガットの作品といえば早川書房の文庫シリーズですが、短篇集やエッセイなどは各出版社から出ている気がします。その昔、ヴォネガットにハマって順番に読んでいき、読破したあとは短篇集やエッセイ集などを読んだので、訳されたものはほぼすべて読んだと思います。

 今作は、厳密にはヴォネガットの著作ではなく、ヴォネガットの講義を受講したスザンヌ・マッコーネルが、テーマごとにヴォネガットの作品や発言から言葉を選び出し、まとめたものです。ですが、そのまとめ方が秀逸なので、かなり楽しめます。
 マッコーネル自身が作家のため、ヴォネガットの言葉を客観的に紹介しつつ、自分のフィルターを通して租借し、自身に適用できるところとできないところをクールに峻別した姿勢に好感がもてます。
 ヴォネガットは偉大な作家ですが、その発言がすべて正しいわけでもなければ、現代の感覚からすると首をかしげるところがあってもおかしくありません。ただ崇拝してもてはやすのではなく、そのあたりを冷静に判断するのは必要なことでしょう。

 死後、時間がたってもこうして関連本の訳書が刊行されるのですから、ヴォネガットには根強い読者がついてるのですね。ヴォネガットはさまざまなスタイルで執筆しましたが、その作品に通底するヒューマニズム、やさしさが、時代を超えて読者の心をつかむのでしょう。そのようなヴォネガットの性質が本書からもしみじみと伝わってきます。
 アフォリズムに満ちた名言集として読むこともできますし、作家志望者が薫陶を受ける1冊として本棚に並べてもいいと思います。

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