ブライアン・エヴンソン 『ウインドアイ』

★★★☆☆

 薄気味の悪さや不穏な雰囲気に満ちた25篇を集めた短篇集。ホラーやゴシック感に満ちていますが、ただの恐怖小説というわけではないです。人間の認識と世界の実相とのギャップ、感覚のずれ、狂気といったところに踏み込んでいるので、一口に「怖い」とは片づけられない奇妙な据わりの悪さがあります。

 恐ろしいけれど、なにが恐ろしいのかわからない、そのせいで余計に恐ろしい、という複雑な味があります。エドガー・アラン・ポーを現代的にチューンアップするとこうなるでしょうか。

 文章が滑らかに進んでいかないので、決して読みやすくはないしょう。けれども、その不滑性具合が神経症的不安感やゴシックホラー感を醸すのに一役も二役も買っており、文体と作風がマッチしています。とても。

 余談ですが、ホラー漫画の絵の恐ろしさは、線を描く際のスピードと関係しているそうです(浦沢直樹が言ってました)。素速く描いた線ではあまり怖くならないということらしいです。恐怖心を煽る線はじっくり、じわじわと描かれている、と。
 文章も同じで、さらさらと読めるものは怖くならないと思います。じわりじわりとにじり寄ってくるような速さでしか読めないものが怖いです。

 単行本未収録(雑誌Monkey Vol.2に収録)ですが、『ザ・パニッシュ』という一篇が印象に残ってます。遊びがエスカレートしていく際の狂気と、描かれていることと描かれていないことの配分が秀逸で、淡々と進んでいくところにかえってぞっとします。

 好き嫌いが分かれるタイプの作家であるのは間違いないです。

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