鳥肌が/穂村弘
ブツブツした装丁の手触りに鳥肌が。
小学低学年くらいの頃、近所の友達のおうちに遊びに行った。
友達の小さな弟くんをおんぶしたとき「小さくて軽くておもちゃみたい」と思った。
そのままジェットコースターのように上下に加速度をつけて強めに部屋を走り回った。
その子はキャッキャしていたが、私は隣の部屋にいるであろう大人の気配をちょっと気にしていた。
私の力加減ひとつでどうにでもできるというフラグ。
こんな残酷な気持ち、私だけかと思った。
何十年も沈めていた記憶がすうっと浮上して、空気を吸って、やっと消えた。
これは今すぐどうにかしなければマズいのではないか?
はっきりとはわからないが、なにかが点滅している感覚だけがあった。
そういう時の自分を私は信じるようにしている。
「帰りにさ、実家に寄って少し休みなさいよ」
そこから母に連絡し、妹が精神的にギリギリな状態である、今カウンセラーの人に相談している最中らしい、なにも聞かずに家に上げてほしい、ざっくりいうと離婚を考えているようだ、自分から話したときはお願いだから今だけは否定の言葉を発しないでほしい、たぶんだけどポッキリ折れる気がする、と一気に説明した。
母は、なんとなく感じてた、と言った。
のちに妹から、母と抱きあって泣いたと聞いた。
そこからは嘘みたいに物事が進んだ。
運命の分岐点、今振り返ると鳥肌が。
飼っていた鶏を父親が絞めている現場をみた。
カーテンのすきまから興味本位でみた。
正真正銘の原材料鶏。
それからいい大人になるまで鶏肉が食べられなくなった。
特に羽をむしった鳥肌が。