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1年住んでおもう、ブリュッセルの住み心地のよさの理由

こんにちは。去年の9月からブリュッセルの大学院に通い、アーバンスタディーズ(都市にまつわるあれこれ)を専攻しているものです。コロナの影響で3月から授業は全てオンラインに切り替わりましたが、無事に1年目の授業は全て終了し、6月末に試験も終わり、7月から長い夏休みに入っています。ちょうど先週まで約1ヶ月間の日本一時帰省も果たし、今またブリュッセルに戻っています。

ブリュッセルに移住してみて約1年たち、個人的にはとても暮らしやすい街だ、というのが今の印象です。空気が乾燥し過ぎている、水が硬水すぎて肌荒れがやばいなどの気候条件、日本食が高すぎる、食材が手に入りにくいなどネガティブな点もありますが、今回はなぜ住み心地良い街だと思えるのか、その理由を考察してみたいと思います。

1. 多様性を受け入れる街

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「良い街とは、誰が住んでいるかではなく、誰が歓迎されるかで測られる」
これは、学校の都市の移民政策に関する授業で引用されていた文章です。ブリュッセルにはさまざまな移民が押し寄せ、住んでいる人たちはとても多様です。路面電車に乗ると、皆ちがう見た目をしています。ベルギー人、その他の欧米系、アジア系、アラブ系、アフリカ系、ラテンアメリカ系など、想像しうる世界のあらゆるところから来た人が住んでいるんだな、と実感します。

同じ都市の中でも、アフリカ人街、トルコ人街、ブラジル人街などのカラーが出た地区が点在しています。そうした地区に入ると、ここは本当にベルギーなのか?と疑ってしまうほど、小旅行をしたような気分になれます。お店の看板が読めない文字だったり、異国情緒溢れるスーパーがあったりします。私が住んでいるイクセル地区は、アフリカ系の人たちが集まっている場所があり、色鮮やかな伝統衣装を身につけている人がいたり、プランテーンバナナを揚げた匂いが漂っていたり、アフリカのポップ音楽が流れているバーがあったりと、刺激がたくさんあります。

他のヨーロッパの都市でもそうかもしれませんが、日本人含めアジア系の移民はそこまで多くない印象で、柴犬の方が街で頻繁に見かけるくらいです。街歩きをしていると、どこから来たの?と話しかけられることもあるくらい、アジア人は少し珍しい存在のようです。「日本から来たよ」というと、100%皆興奮し「日本に旅行するのが俺の夢なんだ」、「日本が大学の卒論のテーマだったわ」と目をキラキラさせる人もいるくらい、なぜだか日本は好印象をもたれています。日本人はマナーが良い、綺麗好きと言ったイメージがあり、得することが多い。

これだけいろいろな人がいると、何が合わせるべき「スタンダード」なのか、それほど意識することがなくなります。すると、自分自身でいられるような気がしてくるのです。海外に出たことがある方で共感する人も多いのではと思いますが、共同体や和を尊ぶ日本社会では、目指すべき理想像があり、しかるべき振る舞いをしなければならない、という暗黙の社会ルールが存在するように感じます。本当は多様性があるのに、均質的な社会が生み出され、それがいわゆる日本人のアイデンティティ形成に貢献しているのかもしれない。自然災害が多く、人口が密集していて、しかも島国といった条件から、助け合いの精神が生まれたというのも納得です。しかし、人に合わせることが好きじゃない、自分らしさを持ちたい人にとっては、そうした社会からの期待・空気を読むなどの集団的強制力が、日本で暮らすことの息苦しさの原因になってるのではないか。

私は日本にいると、自分の肌は焼けすぎでは、太り過ぎでは、と日本の基準に照らし合わせて、自己受容が揺らぐことがあります。ブリュッセルにいると、皆ちがうのだからありのままの自分でいいじゃん、と思うことが容易になる気がします。均質的な日本社会でも、奇抜な格好をして自分を出している人はいますので、そういう方に見習って自分を鍛えればいい話ですが、やっぱりちょっと難しいと思ってしまいます。

2. 言論の自由

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写真:昨年10月のClimate Strike

上記の自分らしさを出しやすい、とつながるのですが、ブリュッセルでは政治的発言を含め自分の意見を言いやすい、デモをしやすい環境があります。むしろ、自分の意見を言わなければならない場面も多く、日本の教育制度とのちがいを感じます。現地人に聞くと、小さい頃からディベートの時間が授業に組み込まれていて、ナチュラルに議論ができるようになるみたいです。私の学校でも意見を組み立てて議論をする時間が多く、書き取りや、聞いているだけという授業は少ないです。しかし意見を組み立てるのに慣れていないので、なかなか発言できず凹みます...。

プライベートな場面でも、いつもベルギー人たち、ヨーロッパの人たちはずっと議論をしています。意見がぶつかり合いすぎて、日本人の私からするとこれはもはや喧嘩では?とオロオロし、介入しようとしても、ただディスカッションしているだけだから、と返されたこともあります。本当によく喋るし、意見を求めてくるので疲れます。笑 でも、これが言論の自由がある、健全な民主主義社会を底座さえしているんだろうなと思うと、とても大事なことだなと感じるのです。

街中では、よくデモをやっているのを見かけます。若者たちが気候危機を訴えるClimate strikeも、若者だけでなく社会人、リタイアしたおじいさんおばあさんも参加し、社会的な大きなうねりになっていましたし、最近では、Black life mattersにもたくさんの人が自分ごととして捉え、大きな活動になっていました。私もClimate系のデモに参加することがあり、毎月最終金曜日に自転車好きの人たちが「道路のデザインをより自転車フレンドリーに」というメッセージを発信し、ブリュッセルの中心的な道路を自転車で行進しています。

日本だと、デモって怖いとか、意味あるの?とか、特に若い世代にはあまり根付いていない気がします。友達や家族ともネット空間でも、あまり政治的な発言はしない方が、すると叩かれる、レッテルを貼られるというイメージがあります。政府の政策に不満があったらデモにつながるブリュッセルに比べ、日本では受容するか、諦める人が多いんではないかと。メディアの言論自由度を示す世界ランキングがあるのですが、日本は低下していっているそうです。ブリュッセル流の意見求められまくるのも疲れますが、言うべきことは言える環境って、とてもありがたいことなんだと気がつきました。

3. ヒューマンスケール

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写真:ブリュッセルの中でもっとも整備されてて気持ち良い自転車道の一つ

次は、都市のサイズが影響する暮らしやすさ。ヒューマンスケールとは、デンマークの建築家ヤン・ゲールさんの表現で、人間が暮らしやすい都市の規模を指します。高層ビルが立ち並び、鉄道や高速道路などで人々が長距離移動しなければならない都市は人間的ではなく、徒歩や自転車でめぐることができる、通りで子どもたちが遊んでいるのを窓から見れるような高さの住宅街がある都市を人間的だと提案しています。ブリュッセルはヨーロッパの中では大きい都市の部類に入りますが、それでも人口は100万人、大体の所には徒歩や自転車、路面電車で移動することができる規模。私の家からも、食品スーパー、市役所、美術館、レストラン、カフェ、公園、デパートなど徒歩で行くことができ、大学には自転車で20分。友人の家にもいつも自転車で行っています。

この度久々に東京に帰って、住まいが23区の外れにあるので、どこに行くにも家から1時間くらいかかり、コロナで乗客数が減っていて満員電車は避けられたものの、移動だけで結構疲弊しました。日常的にも移動にかける時間が浮くのはありがたいですが、こうした感染病の発生時に電車やバスに乗らないとどこにも行けない都市の規模は、リスクが高いのかなと。ヒューマンスケールの都市はこうした面でも強く、今後は一極集中の巨大都市から、中小規模の都市に移住する人が増えるのではないかと想像します。

4. 心の余裕

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写真:日本食を友人宅で作ったとき(平日夜です)

最後は、ブリュッセルに暮らす人たちの心の余裕。住んでるアパートではドアを開けて待ってくれる住人がいて、道端で知らない人とボンジュールと挨拶を交わし会話し、坂道を自転車で登っていると頑張れと声をかけてくれる人も。とにかく皆スローで温かいです。その理由として、一番大きいのは働き方だと思います。こちらには残業という概念がないに等しく、最近はフリーランスの人もすごく増えて、定時まで働くと言ったスタイルも変わりつつあるよう。定時になるとオフィスの電気が消える、ビルの鍵が閉まる、上司がいるから、周りの皆がまだ働いているから帰れないということはない。アフターファイブの過ごし方は、大体18時には家に帰着しているか、近くのバーで友人や同僚とビールを数杯飲んでから帰宅して家族とご飯、というパターンが多いみたい。平日なのに、ホームパーティをやる強者もいます。18時くらいには家にいるから、友人を招いて遅くまで楽しく飲み食べ...。

スーパーなどのお店は、平日は19時くらいに閉まり、日曜はほとんどのお店が閉まっている、というのが普通。キリスト教の影響が強いヨーロッパの国では普通のことのようですが、日本だったら平日働き疲れで土曜日は休息、日曜日にお店が空いてないと買い物困るって感じですよね。あと、24時間営業のお店はありません。これまでの営業時間で皆買い物できる働き方だから、必要がないのかも...。日本も24時間のコンビニは縮小方向ですよね!

そして、夏休みの取り方が半端ないです。夏にヨーロッパ圏と仕事をしようと思うと、スムーズにいきません。担当者にメールすると自動返信メールで、1ヶ月後に復帰しますと平気で返ってきます。6週間くらいとる強者もいます。ベルギーの法定有給休暇は20日から24日間ですが、明らかにそれ以上とっている人も存在しますから、企業によってはもっと付与しているよう。そして皆完全に消化している気が...皆休んでも、社会は回っています(やや問題もあります笑)。これだけ仕事時間が短いから、心の余裕があるというのが、私の分析結果です。日本は世界でも米国・韓国と共にもっとも労働時間が長い国と言われていますから、休める時間を精力的に増やして行きたいですよね。私は東京で働いていた時、長めの休みをとる、次の日でも良いことは次の日にやる、ランチはゆっくりちゃんととる、家に帰ったら仕事のことは考えないなど、オンオフつけることを目標にしてました。コロナで自宅勤務が増えて、移動や「おいちょっとこれやっといて」的な仕事の発生も防がれ、自分時間が増えた方も多いのかな...??

以上が、ブリュッセル暮らし1年目のまとめです。スローな分、電車の遅延やお店が閉まるのが早く、夏には連絡つかない人も多いですが、これくらいでも社会は回っていくし、このスピードが私にはちょうど良いです。
ここまで読了ありがとうございました!

私の発信が、何かの役に立てたら嬉しいな。「心の声に耳を傾け、自然体で生きていく。」よりナチュラルで自分らしい暮らしに興味のある方に、今後も日々発見したことを共有していきたいと思います!