20240217HPVワクチン政策提言

お急ぎであれば「筆者の問題意識と私的な提言」だけ読んでください


●背景・基本情報


HPV感染症は公衆衛生上の課題である。
子宮頸がんを筆頭に、肛門がん、中咽頭がん、尖圭コンジローマなどの疾患とHPV感染が関わっている。
子宮頸がんだけでも日本で年間1万人ほど罹患し、そのうち3000人弱が亡くなっている。
子宮頸部高度異形成・上皮内がん(≒浸潤がんの一歩手前)で治療する人を含めれば、さらに多くの女性がHPV感染によって健康を害していると言える。
その数は、子宮頸がんと上皮内がんをあわせて年間約3万5000例である。

規模感を比較する例として、日本の年間自殺者数は男性1万4000人、女性7000人ほど

子宮頸がん対策でやるべきことは、ハッキリしていて

・12/13歳:定期接種でのHPVワクチン接種
・20歳~:細胞診単独法による子宮頸がん検診 or 30歳~:HPV検査単独法による子宮頸がん検診
・検診で見つけてがんの手前で治療

この3つを充実させることである。

WHO目標は以下の通り

vaccination: 90% of girls fully vaccinated with the HPV vaccine by the age of 15;
screening: 70% of women screened using a high-performance test by the age of 35, and again by the age of 45;
treatment: 90% of women with pre-cancer treated and 90% of women with invasive cancer managed.

Cervical Cancer Elimination Initiative

ワクチンと検診どちらも大事ですが、今回はワクチン中心に検診ちょろっとでいきます。

HPVワクチン実施状況として、生まれ年度ごとに推計すると数%~10%程度である。

HPVワクチンの接種率低迷による死者増加が推計(推計1推計2)されている。

接種率低迷の要因の一つに、ワクチンへの安全性に対する不安(資料議事録)が考えられる。

●HPVワクチン政策の概況


2013年4月 定期接種化 (12~16歳相当 女性 2価4価)
2013年6月 積極的勧奨差し控え (定期接種は維持)
2020年10月 積極的勧奨差し控えの取り扱いを検討する審議会開催
2021年11月 積極的勧奨差し控えを廃止
2022年4月 積極的勧奨再開、キャッチアップ接種開始
2022年8月 男子のHPVワクチン定期接種化を検討する審議会開催
2023年4月 9価ワクチン定期接種化、2回接種運用開始
参考

●HPVワクチンの薬事承認状況


2009年10月 2価ワクチン承認
2011年7月 4価ワクチン承認
2015年7月 9価ワクチン薬事承認申請
2020
年7月 9価ワクチン承認
2020年12月 4価ワクチン男性追加承認
2023年3月 9価ワクチン2回接種追加承認


要するに、積極的勧奨再開の方向性を出すのに7年4ヶ月、再開に9年、ワクチン承認に5年、男子の定期接種化の議論は1年半以上も進捗なしなど、HPVワクチン政策に関して厚労省(とその関連機関)の動きがとても遅いということが言いたいです。

●専門家機関による提言


2020年日本産科婦人科学会「HPVワクチンに関する要望書」
2021年日本産科婦人科学会「HPVワクチンに関する要望書」
2023年国立がん研究センター「子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV) 関連がんの予防ファクトシート 2023」7章 日本で今後必要な方策

●筆者の問題意識と私的な提言


HPVワクチン接種率が低い原因の一つは、政府が「積極的におすすめしない」として積極的勧奨差し控えが8年半続き、安全性への不安に繋がっていることでないのか?
そもそも、HPVワクチンに安全性への懸念があるならば、定期接種どころか薬事承認を取り消すべきであって、それらを維持しながら「積極的勧奨差し控え」では、いち一般国民の筆者からすると意味がわからない。
平成25年通知の5「合同会議において、今後、早急に調査すべきとされた副反応症例について、可能な限り調査を実施した時点で、速やかに専門家による評価を行い、積極的な勧奨の再開の是非を改めて判断する予定であること。」って、嘘でしょ。

【提言1-1】厚労省は、HPVワクチンの医学的科学的な安全性の説明に加えて、積極的勧奨差し控えを8年半も続けたのが合理的な政策だったのか説明するべき(国会質問でも質問主意書でもいいので)

【提言1-2】キャッチアップ接種の期限が残り1年となる中で、現状の広報では不足と考え、HPVワクチンの広報の予算増はできないのか?(来年度予算組み替えとかで)

【提言1-3】接種までのハードルを下げることで接種率向上に寄与できると考えられる。かつて実施していた学校での集団接種を復活できないのか?コロナワクチンはいわゆる職域接種など大規模会場での接種をやっていたのだから、HPVワクチンでも可能なはず。

男性のHPVワクチン定期接種化の動きが遅すぎる。多くの海外先進国では男女ともに公的接種プログラムになっているのに、日本は未だに検討中である。
一部自治体で独自の補助を出すなどの政策がとられている。

【提言2】プロセスを加速してほしい。ファクトシートはよ

9価だけ2回接種の運用が認められて、2価4価が放置なのはおかしい。

【提言3】2価4価も2回運用を目指して、薬事承認申請を出すように厚労省と製薬メーカー間で連携してほしい。せめて4価だけでも。薬事承認後、定期接種の運用変更の検討を。併せて、海外の動向を参考に1回接種の検討を。
理想図の一例

子宮頸がん対策はHPVワクチンと検診+治療が大切だが、それぞれ独立して政策が進められている感があって改善の余地がありそう。
今後、HPVワクチンの接種率が上がっていけば子宮頸がんの有病率が下がっていくと予想される。そのため検診のあり方についても、推奨される最適な対象年齢や受診間隔が変動しうると考えられる。

【提言4】ワクチン接種歴を考慮した子宮頸がん検診の受診推奨をするなどの、ワクチンと検診を一体的に進める政策を検討できないのか?マイナンバー制度を活用すれば現実的に運用可能ではないのか?

●参考文献


●おまけ(読まなくてもよい)

・ワクチンに関してデマが多く流れるがHPVワクチンもそう
国会議員の中にはこういう人もいる

・HPVの種類とワクチンの種類について
HPVは型ごとに番号が付いていて、発見された順番に1.2.3…となっていて200種類以上ある。
このうち、がんの原因とされるハイリスクタイプが15種類ほどあり、16型18型が悪性度ツートップ ※なので、どのHPVワクチンでもこれらの型に対応している
尖圭コンジローマなどの主な原因とされるローリスクタイプが6型11型
日本で使われるワクチンは3種類

サーバリックス:2価(16・18)
ガーダシル:4価(6・11・16・18)
シルガード9:9価(6・11・16・18・31・33・45・52・58)

2価/4価ワクチンのハイリスク2種で子宮頸がんの5~7割をカバーし、
9価ワクチンのハイリスク7種で子宮頸がんの8~9割をカバーする

「HPVワクチン」名称問題
「子宮頸がんワクチン」と「HPVワクチン」は同一のものであるが、HPVが子宮頸がん以外の疾患の原因になっていることから、「HPVワクチン」と呼ぶのが相応しいと思います。

・子宮頸がん検診とマイナンバー活用
がん検診のガイドラインを定める検討会の中で、HPV検査単独法をあらたに盛り込む話があがっている。
これをやるには精度管理をする必要があって、マイナンバー制度を活用してはどうかという意見に対して厚労省が検討しますと回答している。

第40回がん検診のあり方に関する検討会(議事録)


マイナンバーフル活用を目指す足立さんであれば、関心があるかなと思いました。

るんるーん♪