見出し画像

YUMEMIにおけるサービスデザインの"WHY"

この内容は、2022年6月6日(月)にReDesigner Online Meetup 特別企画として開催された「デザイン職種研究:デザインコンサルタント / デザインストラテジスト / サービスデザイナー」のイベントにて、ゆめみからの代表として登壇した内容をまとめたものです。

ゆめみからは「クリエイティブなデザインプロジェクトとしてのビジネス」と評してゆめみの内側と外側の両面にアプローチしているサービスデザインチームの取り組みを紹介させていただきました。本記事では、私(本村)で話した内容のみをまとめています。


そもそもサービスとは何か?

サービスとは、端的にいってしまうと価値の交換です。例えば、電車は移動を提供するサービスです。目的地に歩くよりも遥かに効率的な速度で移動を可能にするため、私たちはそこに対価を支払います。

サービスはたくさんの体験から形作られます。電車で移動するにしても、目的地を調べたり、チケットを購入したり、改札を通ったりと複数の体験から成り立ちます。

そして一つ一つの体験は、情報、インタフェース、物理的なモノによってサポートされています。ICカードのアプリもあれば、改札機があり、時刻表などがありますよね。


これまでは、サービスを上面図から見ていましたが、側面図で考えてみましょう。これまで話していたのは、ユーザー側の体験、いわばサービスのフロントステージに当たります。

しかし、サービスは、フロントステージだけでは成り立ちません。駅には駅員さんがいて、電車には運転手さんがいて、それぞれ異なる役割を持った従業員の方々の業務が、サービスを全体性と一貫性を保っているのです。さらに、現在のサービスはアナログだけではなく、デジタル、データ、AIなどさまざまな要素が絡み合い、それぞれの分野においてより専門性が高いメンバーのコラボレーションが求められています。

そのような中、顧客目線で一貫性のあるサービスを提供し続けるために、サービスデザインなどの必要性が語られているわけですが、サービスデザインにおけるデザイナーとは一体何を担うのでしょうか?

サービスデザインにおけるデザイナー

私個人や私が所属するサービスデザインのチームが、サービスデザイナーとして仕事をする上で、重要な役割だと感じていることは、先ほど触れた高度なスキルを持つ専門家たちがコラボレーションをするための場づくりや足場かけといった役割です。

具体的には、デザイン思考や人間中心設計に基づいたプロジェクトデザイン、チームの関係性、プロジェクトの結果を高めるチームビルディング、そして、創造的な場を提供するためのファシリテーションです。

これまで、業務やプロジェクトにおけるコミュニケーションは「一人一人が意識するもの」でしたが、それは「誰かが明示的にデザインする対象」ではありませんでした。サービスデザインでは、ユーザーに愛されるサービスづくりをするとともに、それを支えるチームが顧客目線で持続的に成長できる環境を作ることをその役割の射程にしています。

もう少し視野を広げて考えると、サービスデザインで目指しているのは、企業組織内でデザインを当たり前にするということです。マーケティングリサーチなどで登場する市場調査やアンケート調査などの量的なデータに基づいたリサーチに加え、利用者の生活や普段の行動に着目し、1人の人間として質的なデータを参照する活動やデザイン方針を決めていく過程を外部に丸投げするのではなく、サービスを支えるチームの日頃の業務とりして取り込み、に少しずつ顧客目線での活動を実践することを目指しています。


そのためには、無意識的な日常に、全集中が必要な非日常を持ち込み、その繰り返しの中で組織にデザインを埋め込んでいきます。サービスデザインにおける非日常とは、端的にいうと、デザインプロジェクトやワークショップです。その中で、全ての集中力を導入して、ユーザー、サービス、組織のことを考えていきます。クライアントワークにおいては、私たちが、クライアント企業の代わりにアイデアを導くのではなく、クライアントとともに対話の中でアイデアを紡いでいくのです。


サービスデザインのサービス化

さて、ここまで一般論的な形でサービスデザインについて紹介しましたが、ここではゆめみでサービスデザイナーとして何をしてるのかについて触れたいと思います。

ゆめみにおいては、サービスデザインは内側と外側に対して機能します。先程のフロントステージとバックステージの話です。ゆめみ内部に対するサービスデザインとクライアント企業に対するサービスデザインとが存在します。野々山さんの方で、内側の部分についてフォーカスを当てた話があると思いますので、私の方では、外側とその中間ぐらいの話ができればと思います。

ゆめみのサービスはもともと、エンジニアリングを主体としたものでした。

その高い技術力を持って、クライアント企業のデジタルビジネスと連携し、数多くのデジタルサービスを作ってきました。

近年ゆめみが力を入れているのがデザインです。特に私が入社した年である2019年以降その流れが加速しています。

一方で、初期はデザインが、エンジニアリングの工程の一部として主にUIデザイン、ビジュアルデザイン、マイクロインタラクションなどいわゆる表層部分での価値発揮に会社としてもデザイン組織としても注目が集まっていました。

そこに変化をもたらしたのが、ゆめみにおけるサービスデザインです。クライアント企業のデジタルビジネスとの接続部分をつなぎ、デザインとエンジニアリングとの接続においても、単なるアウトプットとしての活動ではなく、デジタル事業を成長させるためのアウトカムを意識した活動へと変わってきています。

こうして、現在のゆめみは、クライアント企業のデジタルビジネスの成長をデザインとエンジニアリングの両側面からサポートできるようになったわけです。組織づくりも実績づくりもまだまだ道半ばですが、2019年から2022年まで約3年で、ようやく少しずつ、ゆめみというブランド認知そのものも変化してきています。


加えて、クライアント企業のニーズも変化してきています。昨今のDX推進の流れの中で、これまで外部に委託していた業務を内部で拡充させるという内製化の流れが起こっているのです。

こういったニーズに対して、ゆめみのサービスも、単純にゆめみがクライアント企業の代わりにクライアント企業のサービスを作るのではなく、クライアント企業のデジタルスキルの内製化をサポートしながら、一緒に作り上げていくアプローチへと変化しています。


特にデザイン領域においては、私の方でサービスデザイナーとして、クライアント企業にデザインをインストールすることを目的として、

  • レクチャー型

  • 壁打ち型

  • ワークショップ型

  • プロジェクト型

などさまざまなアプローチで支援しています。そして、それらのアプローチをサービス化することで、ゆめみビジネスとして成立する価値の循環を日々模索・検討しています。

デザインの対象としてのビジネス

最後に少し、デザインとビジネスの関係、1人のデザイナーがビジネスに踏み込むための視点について引用を使いながら、お話ししてみたいと思います。

デザインとビジネスの関係性が深まるきっかけになった最も古い事例の一つにIBMがあります。IBM二代目社長であるトーマス・ワトソン・ジュニアは、大企業として戦略的にデザインを活用し、より優れたポジションを確立しようと試みました。そして、その取り組み結果について、「良いデザインは、良いビジネスである」という言葉で説明しています。

トーマス・ワトソン・ジュニアの言葉ですと、かなり1人のデザイナーとしてどのようにビジネスと向き合えばいいのかを捉えるのは難しいと思います。

Mule Design Studioの共同創業者であるエリカ・ホールは、デザイナーにとっても馴染みが深いメタファーを使い、「ビジネスモデルは、新しいグリッドである」と表現しています。

みなさんもデザインをする時に、グリッドを利用すると思います。ビジネスにもグリッドがあり、それを下地に様々な要素を組み合わせ、価値の循環が最大化するような形でビジネスモデルをデザインできると捉えることで、デザイナーとしての活動の幅が大きく広がることがわかります。

そして最後に、Plankというクリエイティブエージェンシーを経営するウォーレン・ウィランスキーの言葉です。これは、デザインリーダーシップという本のから引用しているのですが、彼自身が1人のデザイン学科出身のデザイナーだった中で、デザインとビジネスが繋がった瞬間に「経営のプロセスはそれ自体がクリエイティブなプロジェクトだと気づいたのです。」という言葉を残しています。これは、デザインとビジネスというような二元論的な捉え方ではなく(ページのタイトルは「デザインとビジネス」となっていますが笑)、ビジネスをデザインの対象として捉えることを可能にする重要な意味の転回だと感じます。

まだまだ、私自身も日々いろんな試行錯誤をしている最中ですが、1人のデザイナーが、自分が持っているスキルとビジネスを繋げて考えるためのきっかけは、先ほどまで紹介したような引用に現れているような観点を持つことができるかどうかだと感じます。

抽象的なものや形がないものに関しても、具体的なデザインの対象として、要素を分解し捉え直すことで、より良い形への再構築することができるかどうか、それこそが最初の一歩となると思います。


参考・引用文献

[1]
Daniel Kim.
"What is your organization's core theory of success?"

[2]
Sabine Junginger.
"Design in the Organization: Parts and Wholes (2009)"

[3]
Thomas J. Watson Jr.
1973年のペンシルベニア大学でのとあるレクチャーより

[4]
Erica Hall.
2020年1月19日の彼女のツイートより

[5]
リチャード・ベンフィールド(著)、三浦和子(翻訳)
『デザインリーダーシップ:デザインリーダーはいかにして組織を構築し、成功に導くのか?』、207ページの引用文より


基本的に今後も記事は無料で公開していきます。今後もデザインに関する様々な書籍やその他の参考文献を購入したいと考えておりますので、もしもご支援いただける方がいらっしゃいましたら有り難く思います🙋‍♂️