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本から学んだこと 「 THE LONELY CENTURY - なぜ私たちは孤独なのか」

先日、ノリ―ナ・ハーツさんの著書「 THE LONELY CENTURY - なぜ私たちは孤独なのか」を読んで、そのひとつひとつの内容が、我々、多くの日本人の未来を暗示するかのような内容で非常に身につまされるものがあった。

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この2年近く、コロナ禍でたくさんの人たちが自宅で缶詰状態となり、リモートワークを強いられ、友人たちや、時には家族とも離れていて、接触できないような状態が続いたりしてきた。

この間、私の知り合いとの電話やメールのやり取りの中で、人との交流がないので「気分転換ができずストレスがたまる」というような話も多かった。

然しながら、この本の作者、ノリ―ナ・ハーツさんによれば、孤独の世紀は、新型コロナウイルスが、世界を襲うもっと前から始まっていたものだそうで、多くの人が孤独や孤立を感じていたとのことである。

例えば、新型コロナウイルスが起こる前から、米国人の成人の61%が「自分の孤独を深刻な問題である」と。

また、ドイツでは人口の68%が、オランダでは33%が、スイスでは38%が、スウェーデンでは25%の人たちが「自分は孤独である」ということを感じているとのことである。

そして、日本。

日本では、この20年で65歳以上人による犯罪が、4倍も増えたそうである。

また、この年齢層の受刑者の70%が、5年以内に再犯を起こし、その理由は「孤独だから」と。

刑務所には、自宅では得られない、コミュニティがあるというのがその理由らしい。

事実、米国でも、英国でも、高齢者の孤独は深刻のようであり、そのためか、高齢者の40%が、テレビが一番の友達と語っているそうである。

しかし、これは、高齢者に限った事象では決してなく、英国では、ミレニアム世代の約60%の人たちが、また10歳から15歳の50%近くの人たちが、時々、或いは、しばしば、孤独を感じているそうである。

コロナ禍でこの数字はさらに増えている可能性も高いと作者は述べている。

私も含めて多分、多くの人たちが、高齢者から若い世代に至るまで、これほど「孤独感」が広がって蔓延しているということをわかっている人が、どれだけいるだろうか。

また、最近の研究結果では、孤独による死のリスクは肥満の2倍以上で、統計的に明らかに人間の健康を損ねるものであり、孤独は死に結びついているという。

米国のある大学の調査では、孤独感が死亡率を26%高める、そして一人暮らしは32%、社会的孤立は29%も高めると結論づけている。

にもかかわらず、孤独というものを、もっと真剣にとりあげたり、真正面から向き合わないのは、何故だろうか?

ひとつには、孤独感というものに、明確な客観的な基準があるわけではなく、あくまでも主観的なものであるということ。

また、自らが孤独であるということを認めることは、自分が弱い人間であるということにつながるため、これが、ある種の劣等感や一種の不名誉さ的なものにつながるので、つい目を背け、無理を重ね、ますますストレスがたまってしまうのではないだろうか。

孤独というテーマを突きつめていくと、現代社会のさまざまな歪みが浮上してくる。

これは、偶然起こったわけではない。

この要因として考えられるのは、現代のライフスタイルや仕事や人間関係の性質、都市やオフィスのデザイン、人と人の接し方、スマホ依存症、そして人の愛し方、全てが現代人の孤独を悪化させているといわれている。

コロナ禍の前から、我々、現代人が積極的に選択するライフスタイルになりつつある、「コンタクトレス」という行動が、ライフスタイルの根本的な変化などにより、伝統的な意味での「人とのかかわり」が著しく減っている。

そして、もうひとつは、「新自由主義の台頭」である。

これにより、
・世界の幅広い国々で所得と富の格差が大幅に拡大。

・大企業と大手金融機関に一段と大きなパワーと自由を与えたため、株主や金融市場が世の中のルールや雇用条件までもを決めるようになった。

この新自由主義は、経済関係だけでなく、人間関係にも大きな変化をもたらした。

お互いが協力者ではなく競争者、市民でなく顧客、共有者ではなく独占者、与えるものではなく奪うもの、手を貸すものではなく巻き上げる者とみなすようになってしまった。

忙しくて隣人に寄り添わないどころか、隣人の名前さえも知らない。

自己中心的な社会では、誰も頼りにできないから、自分で自分の面倒は見なくてはいけないと誰もが感じている。

結果として、社会が孤独になるのは当然である。

自己中心的な社会は、自己永続的なサイクルにもなる。

新自由主義では、親切で優しいことは、非常に価値の低い資質と考えられている。

事実として、教員や介護やソーシャルワークなど、親切や優しさが求められる仕事等の賃金は、非常に低い。

仕事の場でも親切で温かくフレンドリーな人間は、仕事ができる人とはみなされず、そのスキルも見落とされがちである。

ヘーゲルやジャックラカン等、多くの思想家達が指摘してきたように「人間の自尊心は、他者からの承認が大部分を占める」ということになると、現在の風潮では、相互に認め合うとか、敬いあう等といった、人間が「生きているという実感を感じること」が、ますます、難しくなってくると思われる。

日本においても独居世帯が、全体の1/3を超え、生涯未婚率も高まってきている状況では、周囲とのつながりが持てず、一気に孤立化が進展してくるのは、必定であろう。

この本でいうところの「孤独感」を感じている多くの人が存在し、また、増え続けているという実態は、決して無視できるものではないだろう。

そのためには、孤立化を防ぐ、戦略的な政策が、求められるのではないだろうか。


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