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「もう恋なんてしない」は、どうしてもう恋なんてしないのか?を読み解くPart2

前回は、Aメロの4行を読解力推理力考察力で読み解いていきました。
今回は、その続きをやっていきます。

この記事を読み続けていくと、『もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対』の意味についての考察が読めます。
僕なりにスジが通った内容となっていますので、疑問に思っている方は読み進めてもらえると嬉しいです。

前回の内容はこちらから。

物語のセットアップが終わって、ここから主人公である「ぼく」の心情が変化していきます。

歌詞読解Bメロ

一緒にいるときは きゅうくつに思えるけど
やっと自由を手に入れた ぼくはもっと淋しくなった

「もう恋なんてしない」Bメロ

メジャー調(明るい雰囲気)の幸せなイントロで始まって、マイナー調(暗い雰囲気)でAメロが進みました。

Bメロでは、転調を使いながら起承転結の承の部分に突入。
音楽的にも、主人公の気持ちが複雑になっていることが表現されています。

字の使い分けとして、”淋しい”を使っているのは、以下の使い分けがあるからです。

寂しい=人の気配がない、物静かな
淋しい=誰かを失った、孤独な心情

調べていて、日本語の表現力に驚きました。
字が違うだけで、微妙なニュアンスが変わっているんですね。

■きゅうくつに思える”けど”

”けど”という言葉は、まだ言葉に続きがあります。
他にも言いたいことがあるのです。
言えば角が立つけど、言わずに濁しておきたい、含みをもたせたい場合に多く使われます。

たまに”けど”を口癖にしている人がいますが、含みのある言葉だなぁと思われているかもしれないので注意してください。

あの人、良い人なんだけど……。
と言われたら、あの人に何か問題があると感じますよね。
この歌詞は、それと同じ”けど”の使いかたです。
たいてい、反対の意味を含んでいます。

ここを深掘りしていくと、

『きゅうくつに思えたけど、自分ができないことをやっていてくれた。
甘えさせてもらっていた』

になります。

「やっと自由を手に入れた!」と喜んでいたはずなのに、自由の代償として自分の暮らしが不自由になった。
「君」との暮らしは、きゅうくつじゃなかったってことですね。

物語によくある皮肉が含まれています。

ここから「ぼく」は、「君」に甘えていた部分を少しずつ理解していきます。

彼女がいないと何にもできなかった。
彼女が支えてくれたから、自分が楽しく自由に暮らせていた。

皮肉なことに、失ってから大切さが理解できたのです。

Bメロの時点では、Aメロのときより、時間が進んでいます。
「ぼく」が冷静になって、理解するくらいの時間です。
おそらく、数日から1週間ほど経過したのではないかと思われます。

さらに「ぼく」の心情は変化していき、物語はどんどん進んでいきます。

歌詞読解サビ

さよならと言った君の 気持ちはわからないけど
いつもよりながめがいい 左に少し とまどってるよ
もし君に一つだけ 強がりを言えるのなら
もう恋なんてしないなんて 言わないよ絶対

「もう恋なんてしない」サビ

■君の気持ちはわからない

別れてしばらくしても、まだ相手の気持ちはわかっていません。
わかろうと考えを巡らせたけれど、自分には思い当たるところがないのです。

「ぼく」の中では、うまく交際できていたつもりだけど、そうじゃなかったんだろう。
いい彼氏でいたつもりなのに、どうして彼女は離れていったんだろう。

このような自問自答が繰り返されていることが推察できます。
それと同時に、気持ちを冷静に考えられるほど時間が経っていないこと、「ぼく」が成長していないことも伺えます。

ここから「ぼく」は、少しずつ彼女への未練を募らせていきます。

■いつもよりながめがいい~

まだ自分のことばかり考える「ぼく」は、感傷的に自分の話しを続けます。
自分のことばかり考えているので、彼女の気持ちがわからないままです。

彼女との思い出にひたり、美化されていき、ロミオ化していきます。
さんざんわがまま放題やってきたのに、復縁したい気持ちが出てきました。

いつも左側にいてくれたっけ、そっと支えてくれてたんだ。
本当にこのまま別れてしまうの?
どうしてあなたは、あなたなの?

といった具合に、彼女と離れることが信じられないまま、とまどいを抱えて暮らしています。

■強がりを言わなくてはいけない

「君」が言ったとおり、何もできない男だったと認め始めます。
彼女がいなくなって困っているのは自分だけだった。
その事実をつきつけられたと分かっても、彼女が戻ってくることはない。

だから、これまで振る舞ってきたように男らしく、
「私がいないと何もできないくせに!」
と言った君に強がりを言うのです。

冒頭に出てきた「君がいないと何もできないわけじゃない」の部分が伏線となって曲のタイトルを回収していきます。

■もう恋なんてしない

「もう恋なんてしない」は、何かのセリフだと考えられます。
ふたりで一緒に見た映画やドラマに出てきたセリフがあったのでしょう。
「ぼく」と「君」にとって特別なセリフです。

「もう恋なんてしない」なんて、言わないよ絶対。
このようにカッコで区切れば、わかりやすくなるんじゃないでしょうか。

「ぼく」は、これを強がりで言っています。
ふたりが思い描くこのセリフは、ロマンチックなものです。

『あなた以上の人はいない。この恋を最後にするために、もう恋なんてしない』

つまり、「君」が最高の彼女だったと認めたくないので、最後の恋にしない。
そんなニュアンスのある強がりなのです。
だから、「もう恋なんてしない」なんて言わないよ絶対、となります。

歌詞読解Aメロ2

2本並んだ歯ブラシも 1本捨ててしまおう
君の趣味で買った服も もったいないけど捨ててしまおう
男らしく いさぎよくと ごみ箱抱えるぼくは
他のだれから見ても一番 センチメンタルだろう

「もう恋なんてしない」Aメロ2

■2本並んだ歯ブラシも~

あれも、これも、それも……。
彼女の思い出になるものをすべて捨てようと決心して、ごみ箱に入れていきます。
前に進もうとするんですが、あんまり手が進みません。
一緒に過ごした日々を記憶の中で追体験しながら、思い出に浸っているのです。

亭主関白を気取っていたのに、男らしく振る舞ってきたのに。
彼女の趣味で買った服を着たり、こんなふうにごみ箱抱えて立ち尽くしているのは、女々しくて滑稽だと気づきます。

男らしい人は、”男らしくいよう”なんて思わない。
『男らしく元カノの持ち物を捨てるぞ!』と決意しないと行動できないことで、本来の自分を思い知らされます。

過去の自分も否定され、いまの女々しい姿を自分で嘲笑し、かわいそうに思って、センチメンタル(感傷的)になっています。

歌詞読解Bメロ2

こんなに いっぱいの
君のぬけがら集めて
ムダなものに囲まれて
暮らすのも 幸せと知った

「もう恋なんてしない」Bメロ2

ぬくもり、におい、思い出。
すべてが薄れていくぬけがらを捨てられない描写です。
「君」の存在が薄れていく、時間の描写も表現されています。

1日、また1日と日が経っていく感覚です。

■ムダなものに囲まれて

自分では、絶対に使わないものをムダと表現しています。
それは「君」が置いていった歯ブラシ、ヘアブラシ、化粧品などでしょう。

そうした彼女の持ち物が残された部屋で、自分が孤独でかわいそうに思えていたAメロ2の気持ちを乗り越えていきます。

これでいい。
「このままでも幸せだと知った」と言い切って前に進み始めます。
女々しい自分も受け入れたのです。

しかし、彼女への思いは、まだ残っています。
少しずつ「ぼく」は、女々しく思うのを辞め、自分たちの恋について理解を深めていきます。
自分の小ささや、ダメな部分がわかり、別れを受け入れます。

ここではもう、Aメロで感じていたような怒りの感情は消えました。
彼女に対して、恋しい気持ちも断ち切れそうなところまできています。
あとは、前に進む勇気を持つだけ!

頑張れ「ぼく」!

歌詞読解サビ2

君あての郵便が
ポストに届いてるうちは
かたすみで迷っている
背中を思って 心配だけど
2人で出せなかった
答えは 今度出会える
君の知らない誰かと
見つけて見せるから

「もう恋なんてしない」サビ2

これまで自分の話ばかりだった「ぼく」は、やっと彼女のことを考えるようになりました。

■君あての郵便がポストに届く~

彼女がまだ住所変更をしていない描写です。
出ていくかどうか、彼女自身も悩んでいるのかもしれません。

だから、まだ別れるかどうかを心のかたすみで迷っていて、戻ってくると言い出すんじゃないか、心配になっています。

「ぼく」は大きく成長し、彼女を見送る決心がつきました。
それは自分が彼女に見合う男じゃない、と分かったからです。
このときには、「君」が自分にとって最高の彼女だったと自覚しています。

こんなにダメな自分ではなく、もっといい男と幸せになってほしい。
見送る気持ちなので、彼女の背中を頭に思い浮かべて心配になっています。

戻ってくるなよ。
戻ってきたら、「ぼく」はきっとまた「君」を不幸にしてしまう。

こんな願いも込められているでしょう。

■2人で出せなかった答えとは?

恋愛において出さなければいけない答えとは、おそらく結婚だと思われます。

同棲して長い付き合いになった。
彼女は、何から何までお世話して、お互いになくてはならない存在だと思った。
だけど、結婚について一切触れられず、食べ物がうまいだのまずいだの、そんな話ばかり。

そんな「ぼく」に対して、彼女は最後の勝負に出たのでしょう。
これがダメなら別れようと決心をしたのです。

それがきっかけで喧嘩になり、
「私がいないと何もできないくせに!」
と言って出ていってしまいました。
それがAメロの冒頭につながります。

■今度出会える君の知らない誰かと見つけてみせる

結婚するかどうかという答えは、別の人と見つける。
「ぼく」の未練は、思い出として昇華された。
「君」が自分を大事にしてくれてたこともわかった。
「君」の気持ちもわかった。
自分がどれほど「君」を好きだったかもわかった。
そして同時に、自分では幸せにできないこともわかってしまった。

次の恋では、失敗しない。
「君」が人を好きになるということを教えてくれたから。
今度出会える人で最後にすると決意できるのは、「君」のおかげだよ。
というメッセージになっています。

そんな最高の彼女に対しての感謝が、次のラスサビに込められます。

歌詞読解ラスサビ

本当に 本当に
君が大好きだったから
もう恋なんてしないなんて
言わないよ 絶対

「もう恋なんてしない」ラスサビ

「やっと自由を手に入れた!」と怒っていた「ぼく」だったけど。
「君」のことを心の底から大好きだったと言えるようになった。

彼は、彼女に感謝するようになり、成長しました。
皮肉なことに、彼女が去ったことで得られた成長です。

物語には、皮肉がつきものなのです。

■もう恋なんてしない

いつかふたりで話した、このセリフでお別れするのもいい。
だけど、自分が最高の彼氏じゃなかったことを自覚したので、これを最高の恋として安易に蓋をしてしまうのは「君」に対して失礼だと思ってしまいます。

男らしくもなく、いさぎよくもなく、女々しく、子供っぽく、君におんぶに抱っこの恋。

そんな恋のまま、自分勝手に恋愛人生を終わらせてはいけない。
自分のことを愛してくれた「君」に敬意を払って、素敵な恋をするという宣言をしています。

「君」との恋は、映画に出てくるような、ありふれた恋にはしたくない。
「もう恋なんてしない」なんて言わず、いい男になって次の恋をする。
だから「君」も安心して次の恋へと進んでほしい。

「ぼく」は、「君」のことを思いやれるほど成長しました。
強がりで言っていた「もう恋なんてしない」とは、まったく逆の意味に変わったのです。
最初と最後に同じ言葉が出てきて、その言葉の意味が変わるのは物語によくある手法です。

そしてエンディングは、伴奏もスッキリ終わります。
引きずって迷ってきた暗いマイナー調を経て、オープニングと同じ明るく幸せなエンディングになったのです。

「もう恋なんてしない」
この言葉が成長を表現するキーワードとなっている物語でした。

長々と書いてきましたが、僕なりに歌詞を読解し、考察しました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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