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「世界でいちばん美しい沈黙」【詩】

世界中が浮かれていたのか
あのお祭りに
あのひと晩中鳴りやまぬ
太鼓や笛の音に
荒野の果てに閉ざされ
まるで廃墟のような病室の窓辺で
点滴の落ちるのをじつと見つめていた
美しきものたちには
遠すぎた祭囃子に……

強き人がいた
生まれながらのその運命に
逆らわなかつた幸運な人たちが
かれらはきょうも屈強な あの尖った顎の先に
真夏の汗の玉を光らして
汚染された列島をさわやかに駆けるだろう
名もなき国の三等兵や
亡命した女、そして
えらばれなかつた弱き人たちの
生涯の歌は忘れられ
あるいは
旅客機の巨大エンジンに巻き込まれた鳥のように
存在まるごと掻き消され
あの美しい沈黙に
あの世界でもっとも美しい罪に
塗り替えられてしまうだろう

きみがほんとうの勇者ならば
戦いに勝つための体躯でなく 怜悧な目をもつべきだ
勇敢と独善を見さだめる目を
きみがほんとうの勇者ならば
あの美しい沈黙の意味を
問いつづけるべきだ
そして二度と
ぜつたいに、沈黙すべきでない
そう、ぼくたちは、沈黙すべきでない
 (祭りのあとの静けさの街に
ほんとうの歓喜よ、おこれ!)

世界中が浮かれていたのか
あの美しい沈黙に……

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