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ろくでなし男で新境地を切り開いた香取慎吾の"役者力"

初めて予告映像を観た時、「見たことがない慎吾くんがいた…」と衝撃を受けた。その瞬間、この映画は何が何でも観なければと思ったのを憶えている。白石和彌監督の最新作「凪待ち」である。

この作品は東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市を舞台に、一人の男が大きな絶望を味わい、やがて再生していこうとする物語だ。
主人公・郁男を演じたのは、香取慎吾くん。郁男は根っからのギャンブラーで、大した仕事もせず毎日ふらふらと生きている男。しかし恋人を無残に殺され、自暴自棄になって更に人生が転落していく――それだけで、今まで慎吾くんが演じてきたキャラクターとは大きく異なる役ということがわかる。

"香取慎吾"といえば、大きな口を開けてにっこり笑う顔が似合う"陽"のパブリックイメージを持つ人。そんな彼がギャンブルで身を持ち崩し、気に食わないことがあれば相手を問わず見境なく暴力を振るう…そんなダークな役を演じている。しかもそれがものの見事に嵌まっていることに驚いた。
こんな香取慎吾、今まで見たことがない。郁男というろくでなし男を演じたことで、新境地を切り開いた感がある。

慎吾くんはかつてのSMAPのメンバーの中では、役者に軸足を置いている人では決してなかった。とは言え「新選組!」や「薔薇のない花屋」など代表作と言える作品もあり、多くの作品で印象的な演技を見せていた。彼が持ち合わせている器用さと勘の良さが演技に生かされ、役者としての力も確実に持っていたのだ。

そしてSMAP解散後、新たな香取慎吾として様々な仕事に挑戦する中、この「凪待ち」でかつて演じたことがないような役を演じた。
白石監督は、役者の新たな顔を引き出すことに長けた方だ。この「凪待ち」で慎吾くんを起用し、彼の役者としての新たな可能性を引き出したのは見事である。ぜひ多くの人に、新たな役者・香取慎吾を見ていただきたい。
そしてアイドルだった"香取慎吾"から脱却したことで、これから更にあらゆる役を演じられる役者としての活躍にも期待したいと思う。

「凪待ち」は、慎吾くん以外の役者さんも素晴らしかった。
特に郁男の恋人の父親を演じた吉澤健さんの演技には、とにかく痺れた…
唯一残念だったのは、前半かなり早いタイミングで事件の真相(犯人)がわかってしまったこと。ただこればっかりは…致し方ないのかなとも思う。だってどう考えてもあの人しかいないんだもの苦笑

白石監督の作品は、やはり見逃せない。外れない。
今年はもう1本公開が控えているようなので、次回作も楽しみに待ちたいと思う。

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