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文化と行政に関わる人なら一度は読むべき「自治体文化行政レッスン55」

今日ご紹介する本はこちらです。

第1章は「自治体文化行政物語ー文化課に配属された私」という物語ではじまります。税務課から転属となった南田さんは着任初日に「文化なんて高尚なものには縁がありません」などとあいさつしてしまい、古参の職員にあれはまずい、と注意されたり、文化財団に市民文化祭の公演を手伝ってほしいと言ったら「指定管理者の仕様書には書いていない」と、下請け扱いされたように感じた財団から反発されるなど、実に細かな「あるあるエピソード」が導入となっています。
あー、これってうちの市だけじゃないんだ・・・と思うこと請け合い!?

第2章以降は、行政職員の疑問・質問に答える形でのレッスンが基本から応用まで55項目。「文化政策がなくても誰も困らないのではないでしょうか?」「災害や感染症の拡大の際には他の施策を優先すべきではないでしょうか?」「指定管理者制度は何が課題なのでしょうか?」「市民参加を進めたいのですがどうすればうまくいきますか?」等々。横浜市役所初の文化芸術の専門職員として、現在横浜市の文化観光局文化振興課長(主任調査員)を務められている鬼木和浩さんがかなりの部分を執筆されていることもあり、市役所のリアルがそのまま反映されています。

一番のリアルは、特別レッスン編の一番最後にある「あなたは背中から撃たれる」という項だと思いました。
文化行政のセクションに配属され、文化芸術サイドの利益拡大のために一生懸命取り組んでいるのに、ほかならぬ文化芸術関係者から激しい批判を受けることがよくあるということです。つまり、最善を尽くしても庁内や議会の理解を得られずたとえば予算削減になった時には「文化芸術関係者からの怒り、恨み、呪詛、懇願、罵倒などを一身に受けることに」なるのです。それでも自分の庁内での戦いを打ち明けることは自制し、自治体職員として「行政の決定に関して被告席に立つ覚悟が求められている」と述べられています。
こんなこと書いちゃったら、誰も文化行政なんかやりたくないと思ったりしませんか・・・なんて考えてしまいますが、これがリアルな話なんでしょうね。思い当たることはたくさんあります。

こうした立場の違いを理解するためにも、自治体職員だけでなく自治体文化財団や指定管理者も必携の内容だと思いました。これをテキストに研修をしてもいいかもしれません。
関係法令や文化行政の概念、用語集、年表、参考図書のリストまで充実しており、資料としても非常に役立つ一冊です。



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