Alt.Mizukawa

蝶が花から花へ飛び回るように、私は本から本へと遊び回ります。本の旅と現実の旅を織り交ぜ…

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蝶が花から花へ飛び回るように、私は本から本へと遊び回ります。本の旅と現実の旅を織り交ぜて、ゆったりとした世界に浸るようなエッセイをこころがけています。著書「素晴らしき哉、読書尚友」(2021年)

最近の記事

31. 鯉のぼり風の吹くまま成り行きて

 見方を変えれば、成り行きは楽である。 短い人生、それほど深刻に考えても私のような人間の考えは案外、休むに似たりのレベルかもしれない。成り行きの中で、何を感じて何を会得することができるのかが大切なのだろう。まだまだ、成り行きが続きそうである。 31.鯉のぼり風の吹くまま成り行きて  朝起きて、いつものトマトジュースを飲みながら、自分の身の回りの出来事は「成り行き」だったなと思い、結果的にはそれで良かったのではないかと考えた。学校時代は父親の転勤にくっついて、いろいろ移り住

    • 30. 赤ワインのグラスの如き薔薇二輪

       チョコレートのカカオにポリフェノールが含まれているが、ワインのポリフェノールも有名である。有名になったのは30年ほど前に話題になったフレンチ・パラドックスだった。 30.赤ワインのグラスの如き薔薇二輪  ポリフェノールは、人間の体内で作られる活性酸素を取り除く効果があるという。活性酸素は免疫機能の低下を引き起こしたり、動脈硬化や癌の原因になったりするので、ポリフェノールを摂ることは体に好影響をもたらすのである。カカオ以外にも、コーヒーや紅茶にも含まれているが、日本人に馴

      • 29. 夕焼けにチヨコレイトの声溶けて

         山高帽子で、もう一人忘れてならないのはエルキュール・ポアロである。アガサ・クリスティーの小説の主人公である。NHKで放送された『名探偵ポアロ』でデビッド・スーシエ演じるエルキュール・ポアロは、整えられた口髭、プレスの効いたズボンに磨き上がられた革靴を履いて、常に服装には気を使っていた。そして、外出には洒落た山高帽子をかぶっていた。 29.夕焼けにチヨコレイトの声溶けて  エルキュール・ポアロはイギリスで探偵の仕事をしているベルギー人であり、ベルギー人であることだけでなく

        • 28. 蛙の子お揃いでかぶる山高帽

           映画『007 ゴールドフィンガー』でオッドジョブを演じたハロルド坂田にはセリフはなかった。しかし、その姿は目を引き、特に彼がかぶる山高帽は印象的だった。 28.蛙の子お揃いでかぶる山高帽  中学・高校の頃、本屋へ行くと海外ミステリーやSF小説などがずらりと並ぶ書棚の前を離れられなかった。創元推理文庫やHAYAKAWA MYSTERYがお馴染みだった。映画『007ゴールドフィンガー』の原作はイギリスのイアン・フレミングの同名小説で、翻訳はHAYAKAWA MYSTERYか

        31. 鯉のぼり風の吹くまま成り行きて

          27. 青空に甘夏が光跳ね返す

           福岡カルメル修道院のオレンジケーキには、オレンジピールがたっぷりと入っている。このオレンジはこの修道院で栽培されているという。福岡県はオレンジの生産地として知られ、金印で有名な志賀島のふたば幼稚園では、園児たちが島に自生している甘夏を使って甘夏シロップを作っているそうだ。 27.青空に甘夏が光跳ね返す 2023年6月2日のふたば幼稚園「食育だより【2023年3号】ふたばっこもりもり通信」には、  「志賀島には甘夏やびわなどが自生しています。旬(二月〜六月)の甘夏でシロ

          27. 青空に甘夏が光跳ね返す

          【番外編】転職、そしてU-turn

          35歳。当時、転職時期としてはギリギリの年齢だった。まだネットではなく新聞広告の時代である。10年間勤めた建築設計事務所からの転職を考えていた。設計事務所で設計をするという仕事は、創造性を求められる面白い仕事だったが、日頃接している発注者はどんなプロセスで事業を組み立て、建築を作ろうとするのかが疑問だった。生産施設であれば販売計画に沿って生産体制を整えるために工場を、賃貸ビルなら事業性を重視してビル建設を、本社ビルなら組織活性化や効率性を目指したビル建設などが考えられ

          【番外編】転職、そしてU-turn

          【番外編】市役所のアジフライ

           「横浜 たそがれ ホテルの小部屋」から市役所が見える。数年前に、桜木町の駅近くにできた新しい市役所である。32階の高層の事務所部分と少しとんがったような形になっている低層の議会部分とがある。著名な建築デザイナーが設計チームに加わっていて、いかにも横浜らしいお洒落な建物である。ホテルを出て、市役所に向かって歩くとみなとみらいに灯りがつき始めている。「街の明かりが とてもきれいね」と呟きながら市役所にたどり着いた。1階、2階にはテナントとして飲食店や物販店が入っているので、市役

          【番外編】市役所のアジフライ

          26. 修道院ローズマリーに風光る

          マリトッツオやボンボローネの他にも、イタリアには沢山のお菓子がある。シチリアのお菓子では、リコッタクリームのたくさん入ったカンノーロが美味しい。 26.修道院ローズマリーに風光る  佐藤礼子の『イタリア菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』には、「イタリアは、ほぼ全土で小麦が生産される穀物大国」とあり、イタリア菓子を「粉のおいしさを味わう」もので、「農民菓子」、「修道院菓子」、「宮廷菓子」の3つに分類されると書いてある。すべからく宗教行事や収穫に対する感謝につながっている。修道

          26. 修道院ローズマリーに風光る

          25 ボンボローネマリトッツオと秋ウララ

          25. ボンボローネマリトッツオと秋ウララ 1954年(昭和29年)、ゴジラの吐く白熱光で東京は火の海になった。戦後、GHQの管理のもと消防法や消防組織法が制定されたのが1948年(昭和23年)、1953年(昭和28年)には消防組織を警察の下部組織へ移行させるという議論などがあり、消防の体制は安定してはいなかったし、消火設備のレベルも低かった。ささやかに「消火器検定制度」が1950年(昭和25年)にできたが、1954年当時は一般にはまだ消火器は普及していなかったし設置

          25 ボンボローネマリトッツオと秋ウララ

          【番外編】花と龍の旅

          2023年12月初め、いつもの三人で北九州に出かけた。空路で博多へ入り、博多から小倉へ新幹線で向かった。小倉駅で待ち合わせである。まずは、駅近くの小倉城へ。松本清張記念館を横目に見ながら、小倉城に入った。映画のポスターが展示されているコーナーがあった。お城で映画のポスター? 何故かなと思ったのだが、説明を読むと北九州市は映画の街で数々の映画のロケ地になっていることが理由らしい。特に大きく展示されていたのは、「砂の器」「天城越え」「花と龍」「復讐するは我にあり」の4作品で

          【番外編】花と龍の旅

          24. 月島のゴジラ背中に秋時雨

          1954年(昭和29年)、勝鬨橋はゴジラに破壊された。ゴジラに壊されるほど有名な橋だったということかもしれない。現在、周辺の住所表示や地下鉄の駅名は「勝どき」となっている。「勝どき」では、意味が伝わりにくいと思うのだが。 24.月島のゴジラ背中に秋時雨 東京都産業労働局のHPにある「東京ロケーションボックス」には、ゴジラが東京を襲った様子が、  「国会議事堂を破壊したゴジラが、上野方面へと移動した後に隅田川を下り、東京湾へ戻る途中でひっくり返すようにこの勝どき橋を

          24. 月島のゴジラ背中に秋時雨

          23. 築地から勝鬨越しの島の月

           土と藁は、べちょたれ雑炊の食材というだけではなく、清八が言うように日本建築の土壁を作るのに必要な材料でもある。竹や藁、土、木などの自然素材は、人に優しい建築材料として見直されている。 23.築地から勝鬨越しの島の月  土壁の作り方は、まず竹や藁などで土をつける下地になる格子を組み、これに土と藁すさを混ぜた荒壁土を塗っていき、荒壁が乾燥したら少し目の細かい土と砂と藁すさを混ぜた中塗り土を塗り、さらに乾燥させたあと漆喰で仕上げをするという順番になる。手間隙がかかるのであるが

          23. 築地から勝鬨越しの島の月

          22. 雑炊の温かき香り広がって

           伊勢音頭の歌詞「伊勢は七度、熊野は三度、愛宕さんには月参り」を知ったのは、落語の『七度狐』である。この話に、喜六と清八が幽霊に「伊勢音頭を歌え」と言われる面白い場面が出てくる。しかし、その前に出てくる「けったいな雑炊」の話はもっと面白い。 22.雑炊の温かき香り広がって  喜六と清八の二人が伊勢参りの途中、宿屋のない寂しいところでなんとか尼寺を見つけて泊めてもらうのだが、そこで尼さんに御馳走になるのが「けったいな雑炊」である。なにせ狐に騙されるという話なのでな

          22. 雑炊の温かき香り広がって

          21.骨切りの音聞き澄ます鱧祭

           鱧の皮の二杯酢は、もちろん美味しいが、京都で食べる夏の鱧はやはり格別である。それでも、夏目漱石は鱧がお気に召さなかったらしい。 21.骨切りの音聞き澄ます鱧祭  夏目漱石は『虞美人草』の登場人物に、 「又鱧を食わせるな。毎日鱧ばかり食って腹の中が小骨ばかりだ。京都と云う所は実に愚なところだ。もういい加減に帰ろうじゃないか」  と語らせている。この人物は、泊まっている宿の台所から漂う魚を焼く匂いで、「又、鱧を食わせるな。」と想像した。昼食には、まさに鱧が出て予想は当た

          21.骨切りの音聞き澄ます鱧祭

          20. 肌寒きミナミの水面灯り映え

          大阪の宗右衛門町界隈は、今でも浪花らしさが残る場所である。派手目なネオンの灯りが道頓堀川に映ってキラキラと揺れる。法善寺横丁の石畳も水に濡れてキラキラと映える。夜は少し寒くなってきた。これからフグの美味しい季節である。 20.肌寒きミナミの水面灯り映え  「宗右衛門町ブルース」という歌がある。大阪のある会社で不動産開発の仕事していた時、キタ(梅田)へ飲みに行ったあとでも、最後にみんなで歌うのはミナミ(難波)を歌った「宗右衛門町ブルース」だった。正式には「そうえもんちょう」と

          20. 肌寒きミナミの水面灯り映え

          19. 冬港ブルースの如く鴎泣き

           神戸のような大きな港町があれば、身を寄せ合うように家が並ぶ小さな港町もある。そんな小さな町にもドラマが生まれ、歌が生まれる。鴎の鳴き声にさえ、切なさを感じる。 19.冬港ブルースの如く鴎泣き  津々浦々という言葉がある。津は港、浦は海岸のことを表している。津々浦々に広まると言うように使われるが、物事が日本中に伝わることを意味している。昔は、陸路で人や物・情報が伝わるのでなく海路で港町に伝わり、そこから内陸へ伝わっていったのだろう。港町は人や物・情報が集約され、そして分散

          19. 冬港ブルースの如く鴎泣き