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【未完小説(完結を目指します】とびっきりの恋をしよう! 第三話 とびっきりの恋をしよう!  第一部完

前話

 レガーシの元で魔術の勉強が始まった。いつしか郷里の世界は遠い夢のように佐和子は感じ始めていた。しかし、文字は日本語だが内容はさっぱりだ。レンに口頭で教えてもらおうとすると今度はレンが文字で苦戦する。レガーシはよく足して二で割ったらちょうどよいとからかっている。よく出入りするサーラもレガーシの妻ということを佐和子は知った。

物静かな夫婦と静かに過ごしていると今、各地で争いが起こっていると信じがたかった。それほど人里はなれた環境に佐和子はいた。まるで砂糖でくるまれてみたくないことは見ないで済むように、と。佐和子も次第に外へ興味を持ち始めたが佐和子の存在は秘密だ。おいそれとレガーシは外出をゆるさなかった。それでも庭でレンと会話しているといつしか胸がときめくような気持になる。レンの笑顔にひかれ相変わらずのオレ様言葉につっかかりブスブスと言われているが今はもう慣例化していた。いろいろ話す中、佐和子も心の警戒を解いて本名や世界の事を話したくなる。レンは崇敬している長兄のことを誇らしげに語っている。長兄、次兄、末っ子と異母兄弟だが長兄とレンは仲が良いようだった。

 相当できた人間の様でレガーシもいい感じを持っているようだった。自慢の兄らしい。自分にはいなかった。一人っ子だった。両親は今どうしてるだろう。それを思うとなんとも悲しくなるが帰れないのならこのままというのが佐和子の気持ちだった。ある時点までは。

 

 楽しい時間はいつまでも続かなかった。ある日の朝、いつものように朝議の後に来たレンの顔は緊張していた。

「レン」

胸騒ぎを覚えながら名を呼ぶ。それは唐突に発せられた。

「出陣することになった。初陣だ」

シュツジン、ウイジン・・・。

 佐和子の中で音だけが残る。

「だから、もう会えないかもしれないから・・・これやる」

 突き出された手にはペンダントが握られていた。何かわっかがついている。

「母からもらった。サーコをまもってくれるはずだ」

「レン様。それは」

 何ごとかを察知したレガーシが近づく。

「覇王の指輪だ。サーコにしか渡したくない」

「今サーコに渡すということはいずれサーコにこの国で戦えといってるのと同じですよ」

 レガーシが忠告する。レガーシが取り上げようとするのを佐和子は止める。

「私この国で生きる。レンの言葉だから大切にしたい。でも。レン。死なないで。まだ話していないことがあるから」

「なんだ。今言ってもいいぞ」

「ひ・み・つ」

 そういって佐和子は笑う。本当は足が震えるほど戦争が怖いのに。

「サーコ」

 レンが佐和子を抱き締める。

「必ず帰るから。絶対に話を聞かせろよ」

「うん」

 そういってレンは城へ戻っていった。

 

 そうしてレガーシ夫妻と佐和子の静かな生活が始まった。時折覇王の指輪と言われるペンダントトップを見る。きれいな細工をされた赤い宝石が埋め込まれた指輪だった。まるでレンの血のような気がして時折怖くなったが、生きている証拠と自分に言いきかせていた。

 そんな中、静寂は突然終わった。レンが駆け込み佐和子の名を連呼する。狂いそうなその声に佐和子はあわてて部屋を飛び出る。血のついた鎧帷子をつけたレンが佐和子を呼んでいた。とっさに佐和子を見つけたレンは佐和子に抱きついた。血が付いたが、気にしていられない。レンはひたすらぶつぶつ言っている。

「何? 何が言いたいの?」

「兄上が・・・兄上が戦死した」

 そういって佐和子の足もとで泣き崩れた。

 しゃがんで佐和子はレンを抱き締める。

「レン。レン。大丈夫。思いっきり泣いたらいいわ。ここには城の人は誰もいない。私とレンだけ。思いっきり泣いて。私は素直に感情がでるレンが好き。このままでいて。帰ってきたからペンダントを返すわ」

 ペンダントを外しながら佐和子は語る。

「聞いたわ。覇王の指輪を持つ者が世界を統一するって。この指輪が再び大地を制するものを選ぶって。レンにはふさわしいわ。レンが持っていて」

 差し出したペンダントをレンは反射的に叩き落としていた。

「こんなもの! こんなものがあるから兄上が死んだんだ。兄上が持っていたらきっと死ななかった。俺は・・・。俺は・・・」

 佐和子に渡したのは間違いだったと認めたいが認めたくないレンの葛藤があった。

 床に落ちたペンダントを踏みつけて壊そうとしたレンの足の間に佐和子はとっさに片手をはさんだ。金属のブーツごと踏みつけられて佐和子は痛みで声が出そうになった。だが、守りたいという意志でなんとかこらえられた。はっとしてレンが足をどける。

 佐和子はレンをきっと睨みつける。

「覇王の指輪はレンのものじゃないの。お兄様はお兄様の大事なものを持っておられたのではないの? 覇王なんてただの伝説よ。そんなものに振り回されるなんてみそこなったわ」

 拾ったペンダントをレガーシに預けると佐和子は自室に駆け込んだ。ひそかに泣いているとサーラが薬と包帯をもってきた。

「痛いでしょう。薬を塗って血を止めましょう」

 佐和子の手は踏みつけられて血だらけだった。赤い血。生きているしるし。レンの兄は死んでしまった。

「大丈夫です。レンの心の痛みに比べたら」

 佐和子は手を隠しながら静かに言う。目には涙が浮かんでいる。痛いのか悲しいのかわからなくなっている。言うべき言葉も180度変わってしまった。この国でもう生きていけない。三人の王位継承者が二人になった。二択。城は紛糾するだろう。今まで通りなかよしこよしで魔術の勉強するよりも権力争いにレンは巻き込まれるだろう。そのうち自分の身分もばれる。異世界人とのかかわりを持っていれば不利になる。いい国の王女と結婚してレンは覇王になる。それが筋書きだ。あとでレガーシに聞こう。そろそろ帰る国はわかったかと。黒魔術の事は判明してないがいいものではない。何かに利用しようとしてレガーシとレンに助けられた。片思いは片思いでおしまい。身分違いの恋は終わり。

上の空で考えていた佐和子は控えめなノックも聞こえなかった。サーラがレン様と言ってはじめて扉の向こうにレンがいるとわかった。

「サーコ。怪我は・・・」

「大丈夫。レンもお城に帰って。もう目的は終わったわ」

「なんだよ。それ」

 レンの声がとんがる。

「私はレンの一番大切な時にいて役目が終わったから帰るの。レンが自分を見失わない時のためだけに来たの。レガーシもそろそろ私のいた世界をわかってるはず。帰るわ。お父さんもお母さんも待ってるから」

「んだよ。それ。俺を一人にするのか? この国で生きるって言ってたくせに。うそつき!」

「これから王権争いが始まるわ。レンは身分の高い女の子と結婚して覇王の指輪を持って王様になるの。覇王になるの」

 レンの成長した姿を想像しながら佐和子は語る。結婚という言葉にはちくり。と胸が痛んだが。いつのまにこんなにレンの事を思うようになったんだろう。片思いは片思いで終わろう。異界人の妃なんてありえない。

「バイバイ。レン」

 こぼれてくる涙をサーラにふかれながら佐和子は別れを告げる。

その途端、ものすごい音がしてドアが蹴倒された。

「それかよ。話って」

 怒り狂ってレンは佐和子に近づく。後ろ姿が震えて泣いているのに気付いたレンは佐和子の後ろから抱きしめた。

「バカ・・・。思ってないこと言うな。ずっと俺の隣にいろ」

「レン?」

 優しい声色に佐和子が顔を上げる。

「好きだ。サーコ。俺の妃になってくれ」

「レン。いいの?異世界人の妃なんて」

「この世界を作った神の文字を自由自在に読めるんだ。異世界でなく神の乙女だ。太陽の乙女だ。これ以上納得がいく説明はない。こんな最高の女を妃にするんだ。文句もでない」

「レン?」

 意図を測りかねて佐和子が問いかける。

「返事は?」

「返事?」

「受けるか受けないかだ。一世一代の求婚をしたんだぞ」

「きゅ・・・」

 あっけにとられて佐和子の涙もひっこむ。

「早くいえ」

 降参だ、と佐和子は思った。レンと一緒いたい。何があっても。もう自分の世界に帰るとは言えなかった。

「はい。レンのお嫁さんになります」

「よし。これからが大変だぞ。サーコの言った通り王権争いが起こる。次兄のサファン兄上がどう出てくるかわからないからな。ライン兄上もはぐれたサファン兄上を探しに行って戦死した。サファン兄上が殺してないという確証もない。サファン兄上は権力に興味がありありだからな。式は後でいいか?」

「う・・・うん」

 さっきまで動揺していたレンが今は頼もしい智将となって作戦を練っている。気晴らしになるのはいいがどんどんスケールが大きくなっていくのに佐和子は一抹の不安を覚える。「サーラ。サーコを太陽の乙女にするにはどうすればいい?」

「そうですね」

 佐和子を置いてどんどん作戦が練られていく。日本語が読めてよかったと日本の識字率に感謝する佐和子である。

 本当の使命はこれからなのかもしれない。呼ばれた理由はわからないけどいずれ明らかになるだろう。レガーシも寝る魔も惜しんで調べてくれている。佐和子は真剣な顔をして太陽の乙女の衣装をサーラと相談しているレンの頬にキスを送る。

「なっ」

 さっき恥ずかしい求婚をしたというのにキスには免疫はないらしい。

「これ。本当はこのことを話したかったの。私も世界でレンが一番好き。レンの事なら何でもする。よろしくね。ダーリン」

「ダーリン?」

 いぶかしげなレンに佐和子は頬を染めながら意味を教える。

「親愛なる旦那様という意味よ」

「返す言葉は?」

「マイハニー」

「じゃ、マイハニー。これからはそう呼ぶ」

「ブスサーコは?」

「封印した。お前結構かわいいから。だけど人前ではブスっていうかも」

「ツンデレー」

「だからなんだ。そのツンデレは」

「内緒。ちょっとずつ私の世界の言葉教えてあげる」

 レンの覇王の道は始まったばかりだ。結婚もしてない。王権を握ったわけでもない。土地を得たわけでもない。悲劇は起きる。これからも。それでも明るいこう。とびきりの恋はとびきりのヒストリカルロマンになりそうだ。レンとサーコの恋はまだ始まったばかりである。

 

とびっきりの恋をしよう! 第一部完


あとがき
読み直すと、第一部、一話から三話までプロローグの気がしてきました。第二部はどうなるやら。見出し記事画像がもっと恐ろしくなる。同じタッチで描ければいいですが。GTPに寄ってきます。今日の更新はここまで。
ここまで読んでくださってありがとうございました。

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