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ブゥゥゥゥ・・・・・ン・・・・・・ブブゥゥゥゥゥ・・・・・ブブ。


 部屋に一匹の蠅が侵入した。積極的に退治するほど気になるわけではないが、無視できるほど気にならないわけでもない。随分前から網戸の立てつけが良くないので、恐らくその隙間から入ってきたのだろう。しばらく天井に留まったかと思うと、居心地が良くなかったのか、再び空中を飛び回った後、テーブルや、壁に留まったりと、なかなか安住の地を見つけられずにいる。

 網戸を大きく開け放したら気持ちよく外へ出て行ってくれるのではないかと思って、網戸に手をかけたところでふと思った。
「そんなに上手く、網戸の所まで移動してくれるものだろうか?むしろ網戸を開けることが、新たな二匹目の蠅を外から呼び込むきっかけになったりはしないだろうか」

 この狭い6畳の部屋などは、外の広い世界に比べたら、大海の中の一滴に満たない。つまり確率的に考えれば、新たな闖入者が入ってくる確率は、限りなく低く、すでにいる闖入者が出て行く確率は比較的高いように思われる。そうだ、ここは、外からの新たな侵入の可能性はひとまず置いておいて、今いる蠅を追い出すことを優先すべきだ。

 ・・しかし、本当にそうだろうか?では、「今現在、一匹の蠅がこの部屋にいる」という事実を無視して良いものだろうか?確かに「それはたまたま運悪く部屋への侵入を許しただけで、そういったことは然う然うあるものではない」という言い分も成り立ちそうではある。しかし、滅多に起こらないことが起きたからといって、次それが起きる確率が減るという理屈は成り立つのだろうか?

 もしかすると、この広い世の中、長い人間の歴史においては、部屋に入った蠅を外に追い出そうとして、次々と新たな蠅を呼び込んでしまい、部屋を蠅だらけにしている人間が一人くらいいてもおかしくないような気がする。


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