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第6話 そよ風と木洩れ陽

語り手:ネコのきなこ 挿し絵:猫野 サラ


突然春が来た。

まだまだ桜が咲くのは先だけど、その日はポカポカ暖かくて気持ちのいい一日だった。マリアちゃんは目を覚ましてからずっと忙しそうにお掃除してた。お昼過ぎた頃だったかな、窓を開けて、キナちゃん、こっちおいでって窓のそばから誘ってくれたんだ。

気持ちのいいお日さまとそよ風がお部屋に入ってきて、挨拶をしてくれたんだ。

こんにちは キナコ

風やお日さまもおしゃべりをするんだね。

そよ風にゆれるカーテンを不思議そうにみてたら、キナコ、春が来たね、ってマリアちゃんがささやいた。春の匂いがするんだって。そのまま窓の横のソファに座って、気持ち良さそうにしてた。ボクもマリアちゃんのお膝でふわふわ気持ちよかったなあ。いっしょにおしゃべりしたんだ。彼女は春が大好きだって、いろんなお花が咲いて、新緑が清々しいって、ボクにはわからないことをいろいろ話してた。

木漏れ日でボクの毛がキラキラしてたよ。彼女の指がボクに優しく触れて、きなこの毛が金色に光って、きれいだね、って。

最近ボクの毛は本当にきれいになったと思う。鏡ってやつで自分を見たとき、ビックリしたよ。ボクじゃないみたいだった。ディーマイケルにも鏡があったけど、あの頃よりもずっときれいになったし、顔も変わったんだ。鏡を観ていると後ろからマリアちゃんが、ナルシスト!!って笑ってた。なんだよ、それ??前に彼女はボクのことを世界で一番イイネコ、って言ってたけど、ナルシストって世界一のネコってことかなあ? ふふふっ。

そよ風を感じながらマリアちゃんがボクの足をモミモミしてくれたんだ。体が溶けそうなくらい気持ちよくってね。曲がった足も、よしよし、って強くなれるおまじないをしてくれた。ボクの喉はグルグル、グルグル鳴ってね、ふうっと眠気が差して、そのまま眠ってしまったんだ。どれくらいそこにいたんだろう。ずっと彼女は撫でてくれてたよ。優しい優しい彼女の思いがこもってた。

目が覚めるとマリアちゃんがボクを見てた。ずっと見てくれてたのかなあ。いや、彼女もきっとお昼寝してたと思う。春って人間の心も優しくするのかなあ。いつもよりずっと彼女は優しかった。

その日は二人でずっとずっとお日さまの光とそよ風を楽しんだ。

お日さまが傾いてきて、空がきれいな朱色にそまったころ、マリアちゃんがボクを抱き上げて、そっと耳元で言ったんだ、幸せだね、って。この言葉を忘れないよ。気持ちのいい春は幸せなんだ。こんな春がたくさんあるといいなあ。



あとがき   

書き手 : マリア

キナコの美しい写真。

ノラから我が家のヌシとなり、余裕のオーラを出し始めた頃の一枚。私は初めてのネコとの共生、しかも障害を持つキナコにハラハラしながら、日々愛おしさが増し、離れるのが辛いほどでした。キナコのおしゃべりは止まらずウンザリすることもありましたが、本当にかわいい。


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