【私小説】女教師に『いじめられっ子の親友になりなさい』と命じられたが、委員長の私はただのクラスメイトを貫き通す!
注意:子供の頃の体験談なので、胸のすくような結末ではありません。ご了承下さい。
私がクラス委員長?
(なにがどうして、こうなった??)
中学生になったばかりの私は、気が付いたらクラス委員長になっていた。
クラス委員長は、男女一人ずつだ。
別に立候補したわけではない。
中学校では、目立つつもりはなかった。
苦手な勉強をがんばり、あとはバスケをして過ごそうと思っていた。
漫画も描きたい。
私の願いは、友達を100人作ることではない。
少ない仲間と楽しくやれればそれでよかった。
なのに、なぜか女子のクラス委員長になっていた。
中学校での新しいクラスに、小学校で仲の良かったミユキちゃんがいたからだ。
担任の女教師は、各委員会の所属を決める前に、クラス委員を決めて司会をするようにうながした。
しかし、誰も立候補はしなかった。
そこで、先生が出席簿を見ながら無作為に数人指名し、推薦させた。
その中に、私の創作仲間のミユキちゃんがいた。
ミユキちゃんは、私の名を挙げた。
そうして、過半数の挙手によって気がつけば委員長になっていた。
もしかすると、眼鏡に三つ編み姿だったので、見かけだけは完璧な委員長っぽかった為かも知れない。
どちらでもない生徒
多くの生徒は、いじめられる側でも、いじめる側でもない。
大半は、どちら側でもない生徒だ。
私もそうだ。
人をいじめたこともなければ、いじめられたこともない。
*
中学生なって2か月の私には、悩みが二つあった。
ひとつは、バスケ部でのいじめ問題。
ふたつめは、クラスでのいじめ問題だ。
どちらも、私は当事者ではない。
私は、小学校でがんばっていたバスケを中学でも続けようと入部した。
しかし、とても練習が厳しく2か月でもう体が限界に達していた。
放課後、週に3回2時間程度の部活動があった。
その2時間の間に、新入生がすることのほとんどは走り込みだ。
基礎のパス練習が終わると、あとはひたすら体育館の中や外を走り続ける。
しかも、休憩も水も飲んではいけない。
練習試合も2か月間一回もなかったことは、私に大きなダメージを与えた。
公式試合ではなくとも、練習試合くらいはあると思っていたからだ。
試合がなければ残るのは苦痛だけだ。
部活の男性顧問は、若い体育教師で走れないなら辞めろと言わんばかりに、険しい顔で睨んでくる。
いつもバテている私は、睨まれるたびに体がすくんで泣きたくなった。
休みたい、水が飲みたいときは仕方なく、お手洗いに行くと言って、トイレの手洗い場で水を飲んだ。情けなく、最悪の気分だ。
それでも、試合に出るためには走らなければいけない。
(小学校でもチームメイトだったくーちゃんもがんばってるんだから。私もがんばろう!)
くーちゃんは、私が転校してきたときにはじめて友達になってくれた子だ。
中学校では別のクラスになってしまった。
とても、残念なことだったが部活で一緒なら友情は続くと思っていた。
だから、バスケ部をやめたくなかった。
けれど、中学校の部活動は楽しんだり、友達と仲良くするためのものではなかった。
とにかく勝つための練習だった。
私は、次第についていけなくなった。
そこに追い打ちをかけるように、いじめ問題が浮上した。
くーちゃんとの決別
くーちゃんのクラスからは、3人バスケ部に入っていた。
そのうちの一人が、とても性格が悪いらしい。
私は、くーちゃんや他の子からその話を散々聞かされていた。
しかし、私は人伝手に聞いたことは話半分としている。
自分が実際に目にしたことだけを信じるようにしているからだ。
その子は芹沢さんといい、みんなにはザワさんと呼ばれていた。
ショートカットで色黒でバスケ部にしては私と同じで小柄な方だった。
ザワさんは、クラスでは強気な発言をしたり、場の空気を読まない悪口にも聞こえるような意見を平気で言うことがあるらしい。
だから、中学に入って早々に『感じが悪い子』と嫌われてしまった。
ただ、私はクラスも違うし、バスケ部中はそう無駄な話もしないのでよく分からなかった。
だから、挨拶もするし、順番がまわってくればパス練習もする。
それは、くーちゃんや他の子の話を信じないという意味ではなかったが、目の前で同じような不快なことをされたのでなければ、私としては避ける理由にはならないため普通に接していた。
ただ、くーちゃんには変化があった。
くーちゃんは、部活中はいつも私と組んでパス練習をしてくれていたのに、気がつけばいつの間にか私ではない子とするようになっていた。
くーちゃんはくーちゃんのクラスメイトのフナちゃんとパス練習をするようになった。
私には声をかけてくれない。
練習に来ると、真っ先にクラスメイトである舟木さんことフナちゃんに声をかけるのだ。
そして、同じクラスにバスケ部員がいない私は、あぶれているザワさんとパス練習をするようになる。
それが、気付けば毎回になっていた。
くーちゃんと、バスケがしたいがために入ったバスケ部で、くーちゃんが嫌いだと言っていたザワさんと組まされる。
いくら私がザワさんのことが嫌いではないにしても、くーちゃんがさっぱりパス練習に誘ってくれなくなったことはショックだった。
くーちゃんは、今やフナちゃんが一番の親友と言わんばかりに、楽しそうにパス練習をしている。
一方で私はザワさんとのパス練習は、さほど嫌ではなかった。
意地悪なところにパスを出すような子ではなかったからだ。
しかし、くーちゃんとフナちゃんが無視しているザワさんと気がつけば組むようにされていることは、何か大きな意味があるような気がして気がめいった。
そして、くーちゃんとパス練習をするフナちゃんを見る度に『そこは私の場所だったのに』と恨みがましく思ってしまう自分も嫌だった。
(くーちゃんの言葉を信じなかったわけじゃない。けど、なにもされてない私がザワさんを無視したらおかしいじゃない。そんなことできない子だって、親友なら分かってくれてもいいじゃない?)
私は、ただただ悲しくなった。
(くーちゃんもいないし、走れないし、試合もないし、顧問の先生も怖いし、楽しいことがひとつもないのに、もうバスケをがんばれないよ……)
私は、部活の帰り道にしゃくりあげながら泣いた。
体力も気持ちも限界だった。
私は、入部後2か月でバスケ部を退部した。
それは、くーちゃんとの決別を意味していた。
クラスでのいじめ
その頃、もうひとつ、私の頭を悩ませていたことがある。
それは、クラス内でのいじめ問題だった。
少し気の強い、俗にヤンキーと言われる2人の女子が、根暗な感じの一人の子を無視したり、聞こえるように嫌味を言ったりするという物だった。
*
同じクラスに鈴本さんと言う女の子がいる。
小柄で真面目。小声で何を話しているのか聞き取りにくいところから、暗い印象があった。
そのせいか、少し気の強い子のグループから、気持ち悪いとひどく毛嫌いされていた。
私からすると、鈴本さんは知り合って日が浅いクラスメイトだった。
親友ではないし、友達というには微妙な感じだ。
挨拶をすれば返事をし、グループ作業があれば一緒にするだけで、好きでも嫌いでもない『クラスメイト』としか言えない存在。
少し小耳に挟んだ話だと、どうも鈴本さんは昆虫だの蛭《ひる》だの虻《あぶ》だのといった、話しばかりするそうだ。
(それは、さすがに私も苦手かもしれない……)
とはいえ、そんな話をするほどの仲でもない私は、グループ作業で鈴本さんがあぶれると私と親友のミユキちゃんのグループに入れてあげていた。
けれどそれが、私が鈴本さんと仲良くしていると思ったのか、気の強い子たちのグループから文句を言われたこともある。
ちょっと太めで迫力のある三波さんと小柄だが眼光鋭い木原さんが、体育館周辺清掃当番の私に詰め寄る。
「なんで、気持ち悪い鈴本を仲間に入れるの?いい子ぶってるんじゃない?」
(いい子ぶってると言うか、実際、私はいい子なんだけどな……)
と、口に出したら逆上されそうなことを考えながら、私は言う。
「別に鈴本さんのこと嫌いじゃないし、誰かと組まないとこっちも困るしね」
「そりゃそうだろうけど、嫌でしょ?」
「私の方は嫌ってことはないから、気にしないで。そっちで無理に入れる必要もないしさ、ちょうどいいんじゃない?」
私から、何かしら鈴本さんの悪口や困っている話を聞こうとした二人は拍子抜けしたようだった。
「まあ、委員長がそういうならいいか。その方が楽だし」
「うん。だからまあ、意地悪や無視はしないでさ、ほどよく距離をとってよ」
「分かってるんだけど、あいつキモイんだもん」
「あー、今のは聞かなかったことにする。本人の前では言わないでね。言ってるの見かけたら、止めに入るから。ウザいの嫌でしょ?」
そういうと、二人は意外なほど素直に帰って行った。
俗にいうヤンキーという子らだ、もしかしたら一戦交えないといけないかと思っていた私は正直ほっとした。
「蘭ちゃん、三波さんと木原さんが怖くないの?」
一緒にいたミユキちゃんが恐々聞く。
私はいつも2歳年下の妹の凛ちゃんと取っ組み合いの喧嘩や、聞くに堪えない口げんかをしょっちゅう繰り広げている。
私は同級生なら女子にでも男子にでも口げんかだけで泣かすこともできるだろう。
取っ組み合いの喧嘩をしても、女子ならたぶん勝てる。その自信があった。
「あんなの怖くないじゃん。同じ歳だよ?本当に怖いのは、先生や大人だよ」
私はそのことを十分知っていた。
責任感ではなく
そうして、1月期が終わった。
2学期に入ってしばらくすると、三波さんと木原さんが鈴本さんを無視したり、陰口を言っている場面に何度が出くわした。
(髪を染めたりしてる割に、無視や陰口を言うなんて子供っぽいな……)
正直、クラスメイトの大半が怖がっている二人を私は怖くは思っていなかった。
一方、鈴本さんにも少しいら立ちを覚えた。
(もう少し大きな声で呼べばいいし、無視しないでって強く言えばいいのに……)
私は、仕方なく三人の間に割って入る。
「三波さん、木原さん、鈴本さんがノート集めに来たって言ってるよ。出して」
「えー、声小さくて聞こえなかった~」
「はいはい。私の声は大きいから聞こえたよね。出して」
「委員長、うざい~」
「それが仕事だからね」
二人のノートを集めて、鈴本さんに『はい』と渡す。
「……ありが…と…」
小声でお礼を言われたようだが、確かに聞き取りにくい。
「気にしなくていいよ」
私は、お礼への返事なのか、無視されたことについてなのか、あいまいに返事をした。
ヒステリックな女教師
私の中学のクラス担任は引田先生といい、ぎりぎり30代位といった感じの女性の国語教師だった。
彼女は、少し気分屋で依怙贔屓が強いところがあった。
ちょっとカッコいい、気に入った男子生徒には猫なで声で呼んだり、やたらと褒めて頭や背を触ったりする。
セクハラだと思う。
小学校で同じクラスだった足が速くて見た目もカッコイイ池田君などは先生のお気に入りで、やたらと褒められたり触られたりし、気持ち悪がっていた。
「あの先生、俺や勝地に色目使うだろう?気持ち悪いんだけど」
「それは分かる……。見てるこっちも不快だけど、私や田辺君ではどうにもできないし……。みんな池田君が嫌がってるの分かってるから、がんばって」
「何をどうがんばれって言うんだよ。天城、なんで、俺たちは先生運がないんだ??」
池田君と勝地君は、小学校でも同じクラスだったから、呼び捨てで呼び合うくらいの仲ではあったが、中学になってまで呼び捨ては恥ずかしいような気がして、君付けで呼ぶようになった。
少し煩わしいけれど、特定の男子と仲が良さげというのも女子の間ではあまり歓迎されないため仕方がない。
「俺はイケメンじゃないから、あの先生にかまわれないけど、ああいうあからさまなのは嫌だよな」
一緒に聞いていた男子のクラス委員長の田辺君が言う。
田辺君は、四人兄弟の長男だとかで面倒見がよく、非常に頭がいい。
私とは違い、しっかりと人望でクラス委員長になったと後から知った。
「マジでゾワゾワするんだよ!」
池田君は、本当に嫌そうに腕をさすった。
結局、池田君はその後、授業中に引田先生が猫なで声で褒めちぎって肩に触れようとしたとことで、我慢の限界に達し授業中にブチ切れて暴言を吐く。
「そういう声で旦那誘うんだろ?キモイんだよ!」
ギョッとしたが、同時に『よく言った、池!!』と心の中で拍手した。
それは、たぶんクラス全体の総意だった。
しかし、引田先生は顔を真っ赤にして『子供のクセになんてこと言うの!』と、ヒステリックにわめき、教科書で池田君の頭を全力でボカボカと叩き廊下に追い出した。
二度とかまわれないと確信したのだろう。
追い出された池田君は清々した顔をしていた。
あの子の親友になりなさい
(まあ、そういう女教師だから鈴本さんの相談をしたくないんだよね……)
とはいえ、何度も見ないふりをすることはできず、さすがに言うしかなかった。
*
後日、職員室に呼ばれた私が言われた言葉は、耳を疑う物だった。
「天城さんは、委員長なんだから鈴本さんの親友になりなさい。仲良くなれば孤立しないでしょ?」
さも当然、さも名案とばかりに引田先生が私に告げる。
(は?何言ってんだこのアマ?寝言は寝て言えよ?)
思わず、ブラックな私が出てきてしまう。
(大体、委員長なんだからってどういう理屈なんだろう?
そして、親友って誰かに命令されてなるものなの?)
私は、あまりの衝撃でめまいを覚える。
私にはすでに、クラスの中にミユキちゃんという小学校からの親友がいる。
絵が得意で、一緒に同人誌を作るほどの仲だ。
バスケ部をやめてしまった私は、ミユキちゃんに誘われて、今は美術部にいる。
そのミユキちゃんがいるのに、いじめられているの鈴本さんと親友になれ??
(今までも、それなりにフォローはしていたのに、それ以上に何をしろと?ふざけんな!)
私も、池田君のように言ってしまいそうになったが、さすがに教科書で殴られている姿をが頭をよぎり、大人しく「がんばってみます……」と、言って私は職員室を後にした。
*
私は、とりあえず出来る限り鈴本さんに声をかけてみることにした。
確かに、ひとりでいることが多いし、気にはなったからだ。
ただし、親友になるかどうかは別だ。
ただのクラスメイトから、友達になれるかどうか、親友になれるかどうかは会話をしてみないことには始まらない。
「鈴本さん、いつも何か書いてるけど、何書いてるの?」
鈴本さんは、休み時間はいつもノートに何か書いている。
漫画や小説を書くことが好きなら、共通点があるかも知れないと思った。
「あの……オリキャラを描いてるの」
「そうなんだ?見せて?」
いいよと、見せてもらったのは、私が思っていたものとは違っていた。
「これが、血を吸うと性格が変わる蛭《ひる》のヒルちゃんで、こっちが血を吸うとすぐに弾けちゃう虻《あぶ》のアブ丸なの!」
オリキャラの設定を嬉々として語り始める鈴本さん。
いつもより声も大きいし、熱心だ。
けれど、それに反比例して私のテンションは下がっていく。
(思っていた創作と違う……。相容れないやつだ……)
デフォルメされて目が大きい蛭と虻のキャラがノートには何ページも描かれていたが、私の琴線には触れなかった。
「この二人は、仲が良くていろんな人の血を吸うのね。そうすると色々性格が変わるの、すごいでしょ!」
「あ、うん。お、面白い設定だね……」
私は、それ以上何も言えなかった。
私が好きなのは、キラキラとした少女漫画であり、基本恋愛物が好きだ。
ギャグ漫画やダークヒーロは好きではないのだ。
試しに、私も自分が描いているスケッチブックを見せてあげた。
目の大きな少女漫画の女の子が無数に描いてあるスケッチブックだ。
「これは、シュシュの恋愛漫画の真似で、こっちのは花とゆきのファンタジーの真似なの。で、これがオリキャラの男装の麗人のレンね」
私が、鈴本さんに説明すると明らかに引いているのが分かった。
「そ、そうなんだ。絵、上手だね……」
お互いの創作物を見て、相容れないことだけはよくわかった。
こうして、2学期はそれなりの現状維持で終わろうとしていた。
しかし、そうは行かなかった。
私は担任の引田先生に職員室に呼び出されたからだ。
ミユキちゃんの勇気
「天城さん、その後、鈴本さんとのことどうなった?仲良くなれたの?」
「ええと、そうですね。がんばってはいます」
親友になったわけではないので、言葉を濁す。
嘘はつきたくない。
「ふうん。そうなの?あんまり変わってない気もするけど?」
「空気、悪くないと思いますよ」
「まあいいわ。引き続きお願いね」
(何がだ?教師が頼めばなんでもすると思ってるのか?できることとできないことがあるんだ)
私にはゆずれないモットーがある。
嘘はつかない。
弱い者は守る。
悪口は言わない。
なのに、偽りの親友になることはそれに反し嘘をつくと言うことだ。
私が絶体にしたくないことだった。
いや、もしかしたら一時でも、そうした方が鈴本さんは救われるのかもしれない。
けれど、その後はどうする?
いつまでその嘘をつき続ければいいのか?
いつか露呈したときに、鈴本さんは今よりも傷つくのではないか?
ぐるぐると色々な考えがめぐったが、嘘をついて親友のフリをすることだけは絶対にしてはいけないことのように思えた。
(私だったら、そんなことはして欲しくない)
自分がされて嫌なことは、人にしない。
当たり前のことだが、大切なことだ。
*
担任の引田先生は、後日、私とは別に親友のミユキちゃんを呼び出していた。
そして、私は思いもよらないことをミユキちゃんから告げられる。
「蘭ちゃん……。引田先生に、蘭ちゃんのこと色々聞かれたよ。ホント、ひどい。引田先生のこと信じられない!」
ミユキちゃんは、怒っていた。
私のためにだった。
引田先生は、私がクラス委員長として鈴本さんの面倒を全然見ていない、仕事をしていないんじゃないかとミユキちゃんに問いただしたらしい。
「鈴本さんと蘭ちゃんは親友のなのか?って聞かれたよ。そんなわけないじゃん。私がいるのにひどくない?」
(何を考えてるんだ、あのビッチ教師……)
私のはらわたは煮えくり返った。
男子生徒に色目を使うだけでなく、私のミユキちゃんまで泣かせた。断じて許さない。
ミユキちゃんは、あまりにもショックだったのかめずらしくまくし立てるように話す。
「ごめんね。鈴本さんと親友だとはどうしても言えなかったよ。だって、違うよね?私と仲良しなのに」
「うん。ミユキちゃんとは親友。鈴本さんとはクラスメイト」
「だよね…!でも、蘭ちゃんはちゃんと鈴本さんの面倒見てたし、私、ちょっと嫉妬するくらいには優しくしてたよ。だから先生にはちゃんとそういったからね。蘭ちゃんは、ちゃんと委員長としてがんばってるって!」
「ミユキちゃん……。ありがとう」
先生が、私が委員長としての仕事をしていないと決めつけているところに、反論するのは勇気がいることだったろう。
私はミユキちゃんがかばってくれたことがうれしかった。
うれしかったが、この不利な状況をどう打開すればいいか、頭を悩ませた。
委員長の田辺君
状況はクラス内でのいじめから、教師から私へのいじめに発展していた。
教師から、まだかまだかと圧をかけられるのは非常に辛かった。
私は、いじめの現場に居合わせたら止めに入っていたし、鈴本さんが孤立しそうなときはさりげなくフォローをしていた。
もうそれ以外のことは本人にがんばってもらうしかなかった。
彼女に友達ができないのは、私の責任ではない。
けれど、担任の引田先生は影では私が悪いかのように言っている。
私がさも鈴本さんを見捨てたかのようにだ。
担任の引田先生が私に何を期待しているのかは分かってはいたが、それでも私は鈴本さんの『ただのクラスメイト』を貫き通した。
クラス委員長としての仕事をしていないといういわれのない罪を先生に着せられてはしまうが、偽りの親友になるくらいならその方がいい。
嘘というのは、人も自分も傷つける。
それは誰にでもわかる簡単でとても大切なことだ。
*
私はクラス委員会の集まりが始まる前に、同じ委員長の田辺君に相談した。
「ねえ、田辺君。男子でいつもふざけて暴れてる佐田君ているじゃん?そのことで、先生に面倒を見ろとかって言われてる?」
「あー、うん。まあ、ちょっとはね。でも基本、放置?人にケガさせたり、本人が危なくなければ、出来ることないでしょ?」
「先生に文句言われないの?」
「さあ、直接は言われてないよ。言われても生返事しておけばいいんじゃない?できることとできないことってあるし」
頭がいいだけではなく処世術にもたけている田辺君に、私は感心した。
「天城さんも先生になにか言われるの?」
「うん。まあね……」
「無理そうなことなら、やってる最中だとかいって一年引っ張るといいよ。どうせクラス替えで担任代わるし」
「うわ、そこまで考えてるんだ……」
「俺、優先順位あるし。兄弟と家のことが第一、次は勉強。それ以外は悪いけど余力でできる範囲。それでできないときは、池田とか勝地に助けてもらう。あいつらの方が顔は広いからね」
「人に助けてもらうか……。いいこと聞いた。ありがとう」
私は、田辺君のヒントで大切なことを思い出した。
担任の女教師に困らせられているのに、どうして自分一人で何とかしようとしていたんだろう。
大人に対抗するには、大人の知恵を借りればいい。
家に帰ると、私は堰を切ったかのように母親に今まで担任の女教師に言われた数々の理不尽な言動を怒りもあらわにぶちまけた。
作戦会議
「蘭ちゃんばっかり、なんで変な先生にあたるんだろうね……」
そして、母は困ったと首を捻りしばらく考えた後、何か思いついたのかニヤッとした。
「明日、お母さんが引田先生に電話しておくよ」
「はあ?そんなことされたら困るよ」
私は焦る。ことが大きくなると負担が増えて大変なことになるかも知れない。
「いいや、電話するよ」
「何て言うの?ひどいこと言って子供を困らすなって?」
「ううん、違うわよ『うちの子、家でも最近元気がなくて……。何かクラスのことや友達関係ですごく頭を悩ませてるみたいで……。何かありました?』って感じで」
なんだこの演技力?
母上、女優か??
「それを聞いた先生は、思い当たることあるあるだよね。蘭は先生に、悩みごとはないかって呼び出されたら、しょぼんとして『大丈夫です。がんばります……』って言えばいいよ」
「あ、そういうこと?私も問題児になればいいってことか」
なるほど、合点がいった私は母に電話を依頼する。
「その作戦でお願いします!」
親友にならなくてよかった
そうして、作戦通りに引田先生に呼び出された私は『がんばってるんです。けどクラスの役に立ってるのか不安なんです……』としょげかえったふりをして、目を潤ませて訴えた。
ふりとは言ったが、先生に圧をかけられて傷ついたし、自分ができるかぎりフォローをしていたことを踏みにじられたようで悔しい思いをしたのは事実だ。
引田先生は、青ざめながらおろおろと私を励ます。
「天城さんは、委員長としてよくやってくれてるわ。大丈夫よ。頑張りすぎないでね」
と、今までと真逆のことを言い出した。
本当に、私のこともクラスのことも、何も見てない先生だと思った。
もうこの人には何も期待しない。
こうして、先生から免罪符をともぎ取った私は、鈴本さんの親友ではなく、ただのクラスメイトを貫き通した。
そして、一年間クラス委員長として、体育祭も文化祭も宿泊学習も順調に成し遂げた。
その間、三波さんたちが鈴本さんをいじめている姿は私の目の届く範囲では見られなかった。
私がうざくしたことも功を奏したかもしれないが、たぶん鈴本さんの存在に慣れ興味や嫌悪が薄くなったのだと思う。
鈴本さんはといえば、親友ができたようには見えなかったが、私以外のクラスメイトとともそれなりには話す姿は見かけた。
*
一年が終わり。クラス替えがあった。
担任は、異動になって他校に行ってくれた。
そして、私と鈴本さんと三波さんたちはそれぞれ別のクラスになった。
二年生になって、しばらくすると鈴本さんが友達と楽しそうにおしゃべりをして、廊下を歩いている姿を見かけた。
親友と呼べる友達ができたようだった。
声が小さくいつも何を言っているか聞き取れないほどだったのに、合唱部に入ったとも聞く。
人は出会いで変るものだ。
私が何もしなくても、彼女は自分の力で親友を得た。
そして、私は鈴本さんの笑顔を遠くに見ながら、彼女の偽りの親友にならなくて本当に良かったと心の底から思った。
終わり