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「掃除婦のための手引書」ルシア・ベルリン:読むべき短編に関する素っ気ない道案内

 大阪の書店を何気なく歩いていたとき、誰?って思いながら手に取った本でした。

 短編の名手レイモンド・カーヴァー氏も彼女の影響を受けたとか。

 それはぜひ読んでみたい。

 しかし、最近、本すら買わなくなってしまった私は、すぐに図書館でウェブ予約をし、待つこと半年以上、ようやく再びこの本を手にした。

 ルシア・ベルリンは、1977年に最初の作品集を発表し、90年代には刑務所で創作を教えるようになり、コロラド大学で准教授となった。

 かつて活躍した多くの作家と同じように、彼女も様々な職業と幾多もの苦難を経験した。

 それらが、見事に結晶化したものこそが彼女の小説だ。

 今回は、彼女の短編集「掃除婦のための手引書」の中から私が独断と偏見で”必読”と思った短編をさらっとご紹介します。

エンジェル・コインランドリー店:


 まず短編集のトップバッターとして登場するこの一篇にやられた。

 彼女の小説を特徴づけるものとして、色彩豊かであるということ。

 それは南米を舞台にした話が多いからかもしれないし、彼女独特の豊かな描写によるものかもしれない。

 この話を読んでいるとき、私の頭の中は、赤や緑が鮮明に浮かび上がり、飛び交った。

 もちろん、私は共感覚の持ち主ではない。

 コインランドリーでインディアンと短いやり取りをするこの短編を読めば、ぐいっと彼女の小説世界の魅力に足を踏み入れずにはいられなくなるはずだ。

ドクターH.A.モイニハン:


 私がこの短編集の中でイチオシの一篇。

 内容が内容だけに、きっと好みは分かれるだろう。

 だが、誰しもこの話の持つ凄まじく強烈なインパクトからは逃れられない。

 少女の祖父は腕のいい歯医者。入れ歯を作るのが上手で、祖父は自分のための入れ歯を作り、孫にあたる少女に助手をさせる。

 スティーブン・キングばりの衝撃の展開と祖父の娘の一言が放つ小気味のいいラストはとくに秀逸。

星と聖人:


 小説において初めの一文は本当に大事である。

”待って、これにはわけがあるんです。”

 この一文でこの短編は始まる。

 次に続く一文が、

”今までの人生で、そう言いたくなる場面は何度となくあった。”

 この二文があれば、誰でも何かしら小説を書けるのではないだろうか。

いいと悪い:


 ドーソン先生のキャラクターがとにかく出色である。

 少女の一言で素っ気ないラストを迎えるところも小気味がいい。ちょっとかわいそうでもあるのだけど。

苦しみの殿堂:


 家族のドラマが淡々と綴られている。

 ある家族を捉えたノンフィクションスタイルの映画を観ているようにせつない。

沈黙:


 誰にでもあるような子どもの頃の大切な記憶を丁寧に書き綴った小説。

”わたしは自分が悪くないときに母に信じてほしいだけではなかった。たとえ悪いことをしたときでも、自分に味方してほしかったのだ。”

 この一文に胸を打たれた。

 以上、短編に関する道案内はここまで。

 彼女は、素材を取り扱うことについて、次のように語っていたという。

”実際のできごとをごくわずか、それとわからないほどに変える必要はどうしても出てくる。事実をねじ曲げるのではなく、変容させるのです。するとその物語それ自体が真実になる。書き手にとってだけでなく、読者にとっても、すぐれた小説を読む喜びは、事実関係ではなく、そこに書かれた真実に共鳴できたときだからです。”

 なるほど、小説を書くときの真実はたしかにそうであると思った。

 彼女の短編集を読み終えて、私もふと短編を書いてみたくなった。

 そうか、レイモンド・カーヴァーが影響を受けたというのはこういうことなのかもしれない。

※もしも、何か書いてみたいと思った方、ぜひお手伝いさせてください!
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