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奥さんの言うことはいつもよし(現代おとぎ話)


ある所に夫婦がおりました。

ある日旦那さんがハゼを釣ってきて、料理をすることになりました。
奥さんは「わたしがやろうか?」と言いましたが、旦那さんはむきになって自分でハゼをさばき、塩こしょうをふって粉を付けました。
調味料や粉は、そこらじゅうにとびちりました。

旦那さんは熱した油にハゼを乱暴に投げ込んだので、今度は油がとびちります。
「油はねガードをした方がいいんじゃない」
奥さんが言いましたが、だんなさんは言うことを聞きませんでした。
油はますます周囲に飛び散りました。

そのうち、その油に火が燃え移って、旦那さんはあわてて飛びのきました。
奥さんはこんなこともあろうかと、あらかじめ準備していた水にひたしたタオルをかけました。
(酸素を遮断し、小火ぼやであるうちに火事を防ぐ主婦の知恵)

シューシュー言う煙の中から悪魔が現れて
「一つだけ願いをかなえてやろう」
と言いました。

旦那さんが、10億円の宝くじに当たるのと、一つだけの願いを100個に変えてもらうのと、これからずっと株を買っても損をしないのと、どれがいいか考えていると、悩んでいる間に、奥さんが先に言ってしまいました。

「うちのだんなに、奥さんの言うことを聞く、素直な心を与えて下さい」

その通りになりました。

旦那は腹を立てて奥さんにくってかかりましたが、奥さんは落ち着いて言いました。
「とりあえず、片付けましょう」
旦那は、素直に片付けました。

次に、めちゃくちゃに油が飛び散った台所を二人で片付けました。

子どもたちが勉強をしようとすると、だんながテレビをつけましたので、奥さんは言いました。

「音を下げて、邪魔にならないようにして」

旦那は素直に音量を下げました。
今まではむきになってかえって音を上げていたのです。

家には平和が訪れました。

しかし奥さんの顔色はさえません。
悪魔が現れて言いました。
「その後満足しているかね」

奥さんは答えました。
「何か物足りないんです」

「確かに今の夫は変わりました。やってくれって言ったことは何でもやります。でも自分でやることはなくなりました。前は 自分で何かに挑戦しようとしたり 失敗はするけど その生活は私は楽しかったんです」

「ゴミを捨てに持っていってって言ったら、持って行ってくれるけど、前は何度言ってもかえって意地になって持って行ってくれませんでした。でも何も言わない時に何度か、私が一番大変な時にこっそり自分から持って行ってくれた。そういう、十回につき二度、三度の優しさが私は嬉しかったんです」

「今の生活はまるで人形と暮らしているようです」

悪魔は魔法を解きました。
夫は元通りになりました。

ただ変わったのは、十回に二、三回が、四、五回になったことと、揚げ物をするときには、必ず奥さんの言うことを聞くようになったことでした。



おわり。


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