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たまたま見つけたお店で知らぬ懐かしさを感じてしまった話

14時20分に予約した歯医者の治療を終えてジムに向かおうとした時、僕はこのお店を見つけた。

住宅地の一階の、角にある、真っ白な外壁に大きな暖簾がかかっておりそれが風になびかれている。看板にはコミュニティーバルと書かれていて、コミュニティーバルとはなんぞやと一瞬考えてしまった。少し目線を暖簾から横に向けると、ランチのメニューが書かれた紙とお弁当のメニューが書かれた紙が貼られていた。

ごはん屋さんだったのか、ここは。

実はこのお店が工事をしているとこを何度か見かけたが看板にはコミュニティーバルと書かれているのでてっきり老人が麻雀やるためのスペースを作っているのだなと勝手に勘違いしていた。
僕いるの町は老人が多いので、正直需要はあるからだ。

僕は正直自分の地元のごはん屋さんの味のレベルはわかっているつもりなので滅多に行くことは無いがランチの値段の600円と自分の中の好奇心が勝ってしまい、お昼ご飯も食べていなかったことから恐る恐る入ることにした。

ドアを開けると、出汁の匂いとともにおばちゃんのいらっしゃいませの声が聞こえた。声のした方向に顔を向けるとその人はすぐ近くにいた。
「どうする?何か食べていく?」
というチェーン店ではまず言われない一言に僕はペースを乱された。
内心は、『いやその聞き方、ランチ以外のメニューあるの!?』と思ってしまったが生憎他のものがあったとしても僕には見つけることが出来なかったので僕はおばちゃんに『ランチお願いします。』と伝えた。

「奥の席エアコン効いてて涼しいからそこ座りな。」と言われたので僕は奥の空いている席に座った。
先客が何人か、ビールを飲みながら楽しく談笑をしていた。僕を見て会釈する。失礼な奴だと思われたくないので反射的に僕も会釈し返した。
しかし、昼からビールとは贅沢だ。羨ましい。
僕も将来こんなのんびりした老後が送れたらいいなと思っていたところにお冷が来た。

僕は渡されたお冷に口をつけた。
喉を通るごとに段々落ち着いてきた。1人で初めてのお店に行くのはどうしてこんなにも緊張してしまうのか。
しかし、これが実は醍醐味だったりするのだ。

テレビのワイドショーの音がここを和やかな雰囲気にさせる。周りのお客さんと相まってまるで自分が夏休み中の小学生に戻ったような気分だった。
懐かしい…あの頃の僕はよくおばあさんの家に入り浸っていたな…としみじみしていたら…

料理が来た。

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ーお品書きー
サラダ
竹輪の煮物
昆布とさつま揚げの煮物
蓮根のきんぴら
鯖の塩焼き
しめじと大根の葉の味噌汁
ご飯


ご飯足りなかったらおかわりして!!
とのことで、僕に気遣って言ってくれたのでしょう。大変ありがたい。

大きなメインのお皿におかずがちょこちょこ乗せられている。文字にしてみると意外と品数が多い。決して華やかではないがおかずの多さにお店の方の性格が伺える。主菜は、鯖、鮭、唐揚げ、生姜焼きから選べるが僕は鯖が大好物なので鯖を選んだ。こうやって選べるというのはとても良い。

冷めないうちに食べてしまおう。

決して涙が出るほど感動するような味ではないが、砂糖と醤油で味付けされた優しい口当たり煮物達に僕はなんとも言えない気持ちになった。
いつもは1回の食事に時間をあまり掛けない僕だがこの時はこの味を頭の中に焼き付けようとゆっくり、しっかりと噛み締めた。
…これが母の味なのだろうか。

僕は自分の母の作った料理が好きではない、なので今までいかに母の作った料理を食べないように自分で料理をしたり、外食をしたりしていた。
なので正直母の味というのは自分にとってなじみの薄いものであった。
唐突にやってきた不確定な母の味というのは頭を混乱させる。

気持ちを落ち着かせようと味噌汁を手に取った。
……っげ、しめじが入ってる。きのこ苦手なんだよな。
しかしこの年になってこのようなわがままは恥ずかしいので渋々流し込む。
うん、しめじ独特の苦みと風味が来る。やっぱり苦手だなと思いつつ、しかし昔ほどそんなに嫌悪感を感じていない自分に驚いた。大人になったんだなとしみじみ感じた。嬉しいことやら悲しいことやら。

他のお客さんの会話をBGMとして聞きながら黙々と食べる。穏やかな時間が流れている。

いつもより少ない量ではあったが、ちょうどよくお腹がいっぱいになった。

少しぼーっとしていると店主のおばちゃんがコーヒーを運んできてくれた。なぜかコーヒーフレッシュが2つあって砂糖がなかった。多分間違えたんだろう。そんなところも微笑ましい。
コーヒーフレッシュを入れ、僕はコーヒーを楽しんだ。

しばらくダラダラしてからお店を出た。偶然見つけたお店だが、中々素敵なお店だった。たまにはこういう日があってもいいものだと再認識させくれる一日であった。



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