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短編ーブランコー

こちら新刊BlancoBlancoのシチュエーション原案の小説になります。ご興味ある方、ひとつよしなに。
(現物はもっとポップな感じて出来上がっているのでご安心ください。)

愛奏さん曰く魔法のiらんどみがあるらしいので、苦手な方はお控えください。(魔法のiらんど知らない民)




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あー、またやっちゃったよ……
入社してもうすぐ1年経つのに何をやっても失敗ばかり。それだけならまだしも、先輩のあの呆れたような諦めたような鋭く冷たい目線はいつ思い出しても心が痛い。
これから報告しなきゃだなんでどういう心持ちでいたらいいのだろうか。
私は必死に言葉を考えながらブランコに乗っていた。
職場から歩いて20分程にある公園にあるブランコ、駅から反対側にあるためか滅多に職場の人と会わないので、何かある度ここに座っていた。
「私やっぱり向いてないのかなぁ……」
まだ1年とはいえされど1年、少しずつ結果を出している同期もいる中自分は何をしているのか、という焦りも最近だんだん出てきた。
こんな時はブランコの小刻みの揺れがその不安な気持ちを和らげてくれる。
時よ止まってくれっ……!!
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営業の帰り、特に上手くいった日はゆっくり歩いて帰ることにしている。少し帰りが遅くなってもこの成績なら誰も咎めないだろう。

……それに比べたらあいつはぁ!!

最初は元気ある新人だなと思っていただけだが、こんなに手のかかるやつだとは……
どちらかといえば自分は運はいい方だと思っていたが、今回はとんだ貧乏籤を引いてしまったようだ。

初めは営業スマイルでやりくりしていたが今ではそんな筋肉使うだけ無駄だと悟り素っ気ない対応しかしていない。
しかしまあ、あいつときたら諦めが悪いのなんので……
いつになったら私は落ち着けるのか……

考え事をしていたらもうそろそろ会社につきそうだ、リラックスしようとしたはずなのに全くできていない。仕方なく心を落ち着か寝ようと何処かで一服できるところを探して見る。
しばらく歩くと公園が見えてきた、会社近くに公園があったなんて……
いつもなら全く気にもならないのだが、今日はやけに惹き付けられる。近くに一服できるところは無さそうだからとりあえずここにしよう。

……誰かいる。こんな時間にスーツでブランコに乗ってる人がいる。暇なのか?もう少し近づいて見るとわかった。あいつではないか。
こんな時に関わりたくないのだが……
しかしやけに落ち込んで見える……珍しいことに。
気になってしまった自分はゆっくりと近くに歩いていった。
これも先輩の務めか……そう思いながら……
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……足音が聞こた、しかも足音が大きくなるにつれてスピードが落ちている。ここを通る人なんて滅多に居ないのに……なんだか不吉な予感がした。
気にしない気にしない。

『……何をしてるんですか?』
違う、私に言ったのではないから振り返ってはいけない……!!
『……あなたに言ってるんですけど。』
え、私?
声のする方を振り返るとブランコの鉄棒の所に腕をよりかけてこっちを見ていた。先輩だ。
(え、なんで?やばい!!ブランコに乗るところ見られためっちゃ恥ずかしい……!!それより報告もしなきゃいけないしどう言えばいいか全然まとまってないしどれから話せばいいか……)
「え、えっと……その……」
完全に頭がパンクした。情報が錯綜し言葉が出ない。あぁ、また怒られる。こんな自分が悔しくて悔しくて何度も何度もそう思ったのに何も変わらない。
感情を抑えきれなかったついに私は涙をこぼしてしまった。慌てて涙を見せないよう下を向いた、何か喋ったらブレーキが効かなくなる。

先輩はため息をついて、ゆっくりと隣のブランコに腰かけた。
『で、ここで何をしてるんですか?』
「…………」
『ちゃんと言わないとわからないのですが?』
「…………すいませんでしたぁ」

呆気なくブレーキは壊れた。
諦めて、私は全てをぶちまけた、今日の失敗したこと、自分の不甲斐なさ、これからへの不安。先輩への申し訳ない気持ち。
先輩は何も言わず、私の話を聞いてくれた。やはり営業の成績がいいだけあって相槌のタイミングが心地よい。しかし、いつもの雰囲気とは違いなんだか優しい……
ついつい話しすぎてしまった。

話し終えてしばらくの沈黙の後私は先輩の方を向き
「すいません、忙しいのにこんな話聞かせてしまって。」
先輩は前を向いたまま
『でも、頑張っていると思いますよ。不器用ですけどね。しかし、もう大人なんですから子供用なブランコに乗ってるなんて少しは恥ずかしいなんて思わないのですか?子供たちが遊べなくなるので控えた方が良いのでは?』
いつもの先輩に戻った。
「でもなんか落ち着くんですよね。元気が出るというか。」
私は目線を前に戻す
先輩は少し私の方を見てすぐにまた前を向き
『……そうですか。』
それだけ言って黙った。
気まずい、もう話すことない。
何か話しの種を見つけなければと思い考え込むように下を向く。
……しかしまだ外は明るいのに視界が急に暗くなった。

不思議そうに顔を上げると前に先輩が立っていた
(え……)
声にならないくらいの音量、何がどうなってるのか理解が追いつかない。

『もっと頼ってもらってもいいんですけどね。』
たったこの一言だけなのに、このひと時の時間が随分と長く感じてしまった。

『……では、私は続きの仕事があるのであなたも気が済んだらさっさと戻るように。』
「……はぁ」

そういうと、何事も無かったように颯爽と帰っていった。
私は心の混乱が収まらず腑抜けた返事をすることしか出来なかった。

しばらくして、何とか気持ちを持ち直したが、先輩の意図はわかならない。
けど、もう少しだけ頑張ってみようかな……?
少し晴れやかな気持ちで私はブランコを漕いだ。







だったらいいのにね……

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