ケン・モーチ(Ken Mauch)

最近見た映画の感想文を基本ネタバレありで書いていきます。オールタイムベストは『狼は天使…

ケン・モーチ(Ken Mauch)

最近見た映画の感想文を基本ネタバレありで書いていきます。オールタイムベストは『狼は天使の匂い』。

最近の記事

『No.10』感想文〜白人の作ったおとぎ話は地球外生命体をも救いうるのか?という問い

『ボーグマン』(2013)などのぶっ飛び映画で知られるオランダの奇才、アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督の長編第10作『No.10』(2021)を新宿のシネマカリテで見た。公開当初、各所から聞こえてきたのは「意味不明」だの「難解」だのいうネガティブなワードばかり。こともあろうに映画評論家ですら匙を投げてまともなレビューを書かない始末なので、ガチガチに身構えて見に行ったのだけれど、意外や意外、これはむちゃくちゃわかりやすくかつ非常に面白い映画だったのではないだろうか。以下、

    • 最近見た映画メモその5〜『正欲』『ニモーナ』『マエストロ:その音楽と愛と』

      今回もNetflix配信映画3本。例によってボロクソにこき下ろしてますが(『マエストロ』にいたっては生涯ワースト級に嫌いな作品です)、それじゃあNetflixの映画がすべからくつまらないのかというともちろんそんなことはなく、感想が一行たりとも思いつかなかったのであえて取り上げなかったウルグアイ映画『雪山の絆』(2024)はめちゃくちゃいい作品だと思いましたよ。パニック映画の新たな金字塔です。みなさんもぜひ。 『正欲』(2023)岸善幸 普通に学校に通って、普通に人付き合い

      • 最近見た映画メモその4〜『タイラー・レイク -命の奪還-2』『レッド・ノーティス』『虎を仕留めるために』

        今回Netflixの映画だらけなのは、Netflixに入会したからです🤪 『タイラー・レイク -命の奪還-2』(2023)サム・ハーグレイブ お金と引き換えに対象の家族を敵のアジトから逃がす凄腕の殺し屋タイラー・レイク。次なるターゲットは「DV夫に軟禁された奥さんと子供」だ! っていうといかにもしょぼそうな感じがしますがこのDV夫、じつは麻薬や武器の取引で財を成したジョージアきってのギャングで、現在はアメリカの要人を殺したかどで刑務所に収監されているとんでもない悪党なんで

        • 『ある閉ざされた雪の山荘で』感想文〜映画が2時間かけて伝えたかったもの…それは「歩きスマホの恐ろしさ」だった😲

          2024年暫定ワースト映画。原作は国民的作家の東野圭吾が1992年に発表した同名のベストセラー小説です。俺はむかしから東野圭吾の映像化作品が打ち出してくる偽善的なヒューマニズムが死ぬほどニガテで、日本映画史上屈指の傑作としてたびたび名前が挙がる『容疑者Xの献身』(2008)やなんかにもまったくノれず、「こんなの全然いい話じゃねえよ」と言い続けてきたわけですけど、ここへきてようやく時代の方が追いついたのかもしれません。というのも、これまたべらぼうな偽善的ヒューマニズムを振りかざ

        『No.10』感想文〜白人の作ったおとぎ話は地球外生命体をも救いうるのか?という問い

          『オッペンハイマー』感想文〜これは原爆映画ではない、アメリカ人の同調圧力についての映画だ!

          ・はじめに 遅ればせながら、クリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』(2023)を見てきました。しかし、いざ見終わってみると書きたいことがあんまり思いつかない(笑)。なぜ本作を語ることがこんなに難しいのかといえば、この作品がまごうかたなき「伝記映画」だからなのでしょう。ただ伝記的事実をつらつらと述べたてるのでは単に話のあらすじを書いているだけになってしまうし、実在した人物にむかって「コイツはあの場面でめちゃくちゃ苦悩していて〜」などと註釈をつけるのもためらわ

          『オッペンハイマー』感想文〜これは原爆映画ではない、アメリカ人の同調圧力についての映画だ!

          『愛にイナズマ』感想文〜美しき家族愛がインチキカルトへと反転してゆくメチャコワ宗教ホラー😱

          これまで石井裕也監督の映画を見るたびに(といっても3作しか見ておらないのですが)漠然と感じていた違和感の正体がようやっとわかったので、メモがてら書き残しておきたいと思います。 近頃ものすごい勢いで映画を撮りまくっている石井監督ですが、彼の作品からビンビンに伝わってくるのは「社会の不正義に対する怒り」です。腐敗した政治、アベノマスク、コロナ禍、業界の因習、ハラスメント行為、貧困、劣悪な労働環境、国民のモラル低下。それら理不尽な不正義にすり潰された結果、社会が要請してくる正常性

          『愛にイナズマ』感想文〜美しき家族愛がインチキカルトへと反転してゆくメチャコワ宗教ホラー😱

          最近見た映画メモその3〜『市子』『撤退』『Winny』

          こんな誰も読んでおらないようなゴミみたいな記事でいちいち但し書きをしなきゃならんというのもアホくさいのですが、シリーズ1本目の冒頭に「原則的にネタバレはしない」と書いてしまった手前、あらかじめお断りをしておかなければなりません。最初に掲げた『市子』のレビューの中ではいちおう致命的なネタバレを避けているつもりですが、物語の核心に触れるような描写やワードをいくつか含んでおりますので、神経質な方は気をつけてくださいね。 『市子』(2023)戸田彬弘※ちょいネタバレあり 「202

          最近見た映画メモその3〜『市子』『撤退』『Winny』

          『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』感想文〜「資本主義社会」という名のディストピアを描いたとんでもない傑作

          ・はじめに 株式会社サンエックスが展開する人気キャラクター「すみっコぐらし」を映画化した、劇場版1作目の『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(2019)と2作目の『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』(2021)に続くシリーズ3作目。いきなり結論から言ってしまうと、3月29日からAmazonプライムビデオで見放題配信が始まった本作『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』(2023)は、社会派映画としてもストーリー映画としても、ちょっとケタが違

          『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』感想文〜「資本主義社会」という名のディストピアを描いたとんでもない傑作

          最近見た映画メモその2〜『ドミノ』『ロジャー・ラビット』『ガンヘッド』

          文句ばっかりでスミマセン…😔 『ドミノ』(2023)ロバート・ロドリゲス 「いま見ているのは現実なのか?それとも虚構なのか?」と問うていった結果、最後に残るのは「そもそも映画自体が作り物なんだからそんなもんどうでもいいだろ」という感情だった。 俺はもともとロバート・ロドリゲスという監督がニガテで、画面作り、役者の演出、脚本、倫理観、そのすべてが受け付けないのだけれども、ロドリゲスが新境地を開拓した本作『ドミノ』(2023)においてもその印象はまったく変わらなかった。それど

          最近見た映画メモその2〜『ドミノ』『ロジャー・ラビット』『ガンヘッド』

          最近見た映画メモその1〜『アメリカン・フィクション』『パーフェクト・ドライバー』『ヴェルクマイスター・ハーモニー』など

          ここ最近、映画の感想文がどんどんどんどん長大化してしまい(この前の『ボーはおそれている』にいたっては7000字を超えてしまった)、さすがにこれはまずいだろうってんで、練習がてら短めの感想文をいくつか並べた記事を書いてみることにしました。こちらでは原則的にネタバレをしておりませんので、安心してお読みください。 『アメリカン・フィクション』(2023) コード・ジェファーソン うだつの上がらない意識高い系黒人作家がやけっぱちで黒人ステレオタイプてんこ盛りの小説を書いたらバカウ

          最近見た映画メモその1〜『アメリカン・フィクション』『パーフェクト・ドライバー』『ヴェルクマイスター・ハーモニー』など

          『君たちはどう生きるか』感想文〜アカデミー賞長編アニメーション映画賞受賞おめでとうございます🥳

          言わずと知れたアニメ界の大巨匠、宮崎駿監督のおよそ10年ぶりとなる最新作『君たちはどう生きるか』(2023)を見た。幸いにも今日までこの映画に関する本格的なネタバレや評論とほとんど接することなく生きてこれたわけだけど、先に見た人たちから漏れ聞こえてくるのは「意味不明」だの「エンタメ性に乏しい」だのといったネガティブなコメントばかり。 なんだけど、ちょっと待ってほしい。宮崎駿の映画が意味不明なのは果たして今に始まった話なのか、と。代表的なところでいえば、『紅の豚』(1992)

          『君たちはどう生きるか』感想文〜アカデミー賞長編アニメーション映画賞受賞おめでとうございます🥳

          『落下の解剖学』感想文〜あんまり相対主義を突き詰めすぎると何も言えなくなってしまうよ、というお話

          いきなりで申し訳ないが、俺は40歳を迎える前に自殺しようと思っている(まだだいぶ先です)。その際に家族や知人たちは「アイツはなんで死んだんだろう?」かなんか言って自殺の動機をあれこれ邪推してくるに違いない。けれども俺は遺書を残して死ぬつもりなんざないし、動機を前もって話しておくつもりもない。まして生前とくに親しくもしておらない奴輩にそれを勘繰られる筋合いなんか微塵もない。つまり俺が死ぬ理由は地球上の誰にもわからないわけだ。他者の頭の中は決して覗けない。いやさ、ことによると本人

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          『怪物』感想文〜マジョリティがでっち上げた価値体系からの軽やかな逃走劇

          ・はじめに 当方にわか映画ファンなので、是枝映画とのファーストコンタクトは、カンヌ映画祭の最高賞パルムドールを受賞するなどして話題になった『万引き家族』(2018)でした。当時は「観客に解釈を丸投げしてとんずらをかますふてえ野郎だ」みたいな印象が否めなかったし、似たカテゴリの作品なら、翌年の同賞をとったポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』(2019)の方がわかりやすくエンタメに振り切っていて断然好みでした。 ところが、是枝裕和監督のフィルモグラフィーを丹念に追いかけ

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          『ボーはおそれている』感想文〜チ◯ポをちょん切られる恐怖におびえ続けるアリ・アスター

          ・はじめに あえぎ声のような母親の悲鳴と怒号をバックに、胎内から引きずり出された赤ん坊が逆さ吊りにされるシーンでもって本作『ボーはおそれている』(2023)は幕を開けます。ちなみにこのショット、最初は赤ん坊の主観なのかなと思いきやそうではなく、じつは産道から見た主観ショットになっているところがポイントで、この映画が「母親」にまつわる作品であることをすでに予告しています。 本作の監督、アリ・アスターの映画を見て真っ先に目につくのが「母子関係のいびつさ」であることに異論を差し

          『ボーはおそれている』感想文〜チ◯ポをちょん切られる恐怖におびえ続けるアリ・アスター

          『瞳をとじて』感想文〜「撮られた映画」と「撮られなかった映画」の奇跡的交歓

          ・はじめに 1947年、冬のパリ郊外。ばかにでかいが今やすっかりくたびれてしまった屋敷に中国人の使用人と慎ましく暮らす「悲しみの王」ことトリスト・ル・ロワ。そこにフランコ独裁政権に敗北し没落したとおぼしきアナーキストのフランクがやってくる。映画はまず、2人の会話のそっけない切り返しからはじまるのだが、この時点の俺はもはや映画どころではなかった。というのも、眼前で展開される光景が「1990年代に突如として失踪した俳優を22年後に探す」という、あらかじめ聞かされていたあらすじと

          『瞳をとじて』感想文〜「撮られた映画」と「撮られなかった映画」の奇跡的交歓

          『Saltburn(ソルトバーン)』感想文〜「そういうふうにしか生きられない」ひとたちの狂騒曲

          妙ちきりんな風貌の男が裕福な家庭に入り込んで一家を破滅させてしまう。 主演をつとめたのがバリー・コーガンであることから、ヨルゴス・ランティモスの『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)を思い浮かべた人は多いと思う(なんなら鹿のコスプレやなんかもする)が、鑑賞中に俺の脳裏をたえずよぎり続けたのは、ピエル・パオロ・パゾリーニの『テオレマ』(1968)だった。「謎」としか言いようのない異様な男がある日とつぜん家族の一員として振る舞い、一家を籠絡しはじめ

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