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3月とビタミンと俵万智

3月は焼き芋が美味しい季節である。

と書いて、私は気をつけないと、食べ物の話題ばかりになりがちだと半分反省する。
この前、酒粕が旬だと書いたばかり。

昔々、小さなレシピ本も販売したことがあって、食べるものとか食べ方とか、材料とかにも語りたいことがたくさんあるのだ。
とはいえ、今日は芋のお話。食物繊維の。


食物繊維!といえば、と、小さい頃を思い出す。
私の両親は食べ物の名前を呼ばずに、栄養素の名前を子どもに伝える人たちだった。

「ほら、ビタミンC」
と手渡されるみかんだったり。
「ほら、たくさん食べなさい、タンパク質」
と言って指さす大きなハンバーグとか。
「はい、鉄分」
と言って食卓に出されるヒジキ煮も。

栄養素の名前だと美味しそうに思えないのはなぜだろう。
ビタミンが食べたいのではなく、私はみかんが食べたいんだ、と子ども心に思ったものだった。

ちなみに、私の亡き祖父の大好物はマクドナルドのハンバーガーだった。
祖父はいつも「マクドナルドのパン」と呼んでいて、いや、パンだけれども、間違いじゃないけれども、それは「ハンバーガー」なんだよ、と思っていた。
なんとなく栄養素と同じ響きを感じる。


なんというか、そうして育った環境の癖のようなものが私に残っているのか、まあ知識がついたのか、この食べ物の栄養分は何だろう?何に効くかしら?と、つい考えてしまう自分に気づくことがある。

サツマイモは食物繊維が豊富で、ビタミンもカルシウムも多い。とくにビタミンBが多いので疲労回復に良いとされている。
カリウムも多いので余分な水分を排出して、むくみにも良い。
皮にはアントシアニンがあり、ポリフェノールも取れる。
けっこう優秀な食べ物である。

さて、これをなんて呼ぶだろう。
「ほら、焼きビタミンだよ」
とか?
やはり、あんまり食べたくないような気がする。


今住んでいる土地では、焼き芋が焼き石の上に乗って、どの店の前でも売られている。
しかもどこでも全て「紅はるか」である。
甘さが特徴のサツマイモで、そのまま齧るだけで本当に美味しい!

紅はるか芋は、季節の最後に力を振り絞る。
今ごろからが一番美味しい焼き芋になるのだ。
今までギュッと引き締まっていた身が、とろとろに柔らかくなって味が濃くなり、甘みが増す。

物価上昇でたまにしか買えなくなったけれど、疲れた日などには「美容のため」「腸活」なんて言いながら、ほかほかにあったかい芋を、店から抱いて帰るのが幸せ。


娘たちと分け合って、美味しいね〜と言いながらハフハフ食べるのも楽しい。
こういう時すぐに、大好きな俵万智の『サラダ記念日』を思い出しては、心の中で口ずさむ。
 
美味しいね、と言えば
美味しいね、と目の前で返してくれる人がいる。
それは美味しさを何倍にも膨らませてくれる。
 
食事は空腹を満たすためだけにあるのではない。
栄養学の勉強のためでもない。
 
だからこそ、
「美味しいね〜紅はるかの焼き芋!」
と言い合いたい。
違和感と興醒めの栄養素は、ちょっと置いておくのである。
どこかでひっそり身体に効いていて欲しい。



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