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本の感想|歌の終わりは海 Song End Sea

森博嗣さんの新作。
タイトルをダブルミーニングにする事が多い作家の一人で、今回も英語タイトルの音を日本語の意味のある言葉に引っ掛けているよう。

※以下ネタバレあり。



そもそも尊厳死って何?
ということで調べてみたところ。

尊厳死とは、人間が人間としての尊厳 (dignity) を保って死に臨むことであり、インフォームド・コンセントのひとつとされる。安楽死や蘇生措置拒否 (DNR) と関連が深い。日本では他国と異なり立法議論すら封じられてるために尊厳死を認める法律がなく、当事者本人が尊厳死を事前に希望する自発的安楽死も認めるべきと医療現場と当人の声は多い。
(Wikipediaより引用)

主に治癒の見込みのない患者さんなどで問題に上がることが多いようで。今作の物語のモチーフはずばり「尊厳死」であるものの、裏テーマ(?)として「人の意思とは何か」「美とは何か」「生と死を繋ぐものは何か」といったものを感じた。

綺麗なもの

どんな悲惨に見える状況でも綺麗なものは存在する。
というのが経験と観察による個人的な美の感覚なのだけど、本作のメインの登場人物である作詞家によって同じような価値観が語られる。

「姉さんとの思い出は、綺麗なものばかりだ」
という文章で始まるプロローグ。
綺麗なものばかりで終わらせたい、という意思がこの時点ですでに読み取れてしまい、ぼんやりと結末まで見えてくるような気もしないでもない。

生と死を繋ぐ不自由な「ロープ」

かつて、武士の切腹は立派な行いとして社会的に機能していた、というのが作中で語られる。
残された者の絶望は真実で、でも衝動だとしても本人の意思決定がそこに僅かでもあるのなら、私たちはどう受け止めればよいのだろう、という葛藤が生まれるわけで。
極めて微妙なそのあたりの感覚を、今作は描いてくれているのではないかと思う。

終わりは自由な海

「言葉はすべてつくりものだ」とひとり吐露する作詞家。作詞家が姉の最期について語ったインタビューの言葉を「あまりにも綺麗すぎて本当の気持ちを言葉にしていない」と評価する聞き手(加部谷)。

姉の最期は見せる必要のあるものであり、姉の「ロープ」でもあった弟と姉自身のためのもの。弟の最期は見せる必要のないものであり、彼の「ロープ」が消えた後は自由に落ちることもできる。

プロローグにあった山と空と海。
天井の高い姉の部屋。
三角のトラス構造は山、ブルーの梁は空。そして夜の海は暗い。

最後まで綺麗な言葉に包まれた姉、では弟は?


ちなみに今作は海がモチーフということで、なんとなく英語タイトルの各単語の頭文字を並べて、なんとなくモールス信号に変換してみたら、海の地平線に陽が沈むような綺麗な形になりました。

S E S
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