さよならの心


ヒソヒソ声が聞こえる。

「随分と前のことなんだけど、僕は常に太陽の下にいたんだよね。僕はそれがストレスで、焼け焦げそうになったんだ。」

「それだけあなたは愛されていたということじゃないの?ずるいわ。」

「そう思うの?不思議だなぁ。君は一体どんなところにいたの?」

「私はとても暗い水の中よ。閉じ込めた人以外、誰にも気づかれずに過ごしていたの。あなたが私を見つけてしまってからは変わったけどね。」

「へぇ、それは羨ましい。僕とは大違いだね。」

「あなたこそ。」

「でも、僕たちは一緒だね。抑えつけられて生きてきたんだもの。そう思わない?」

「そうね、確かに。どうして誰かは誰かを抑えつけたくなるのかしら。そんなことしたって私は手に入らないのに。あなたも。」

「きっと、みんな寂しかったりするんだよ。でなきゃ自分だけにしかわからないところに僕たちをしまっておかないだろう?」

「こんなに人がいるのに寂しいのね。なんだかとっても可哀想だわ。」

「僕たちは、可哀想ではないのかい?」

「よく、わからないわ。だって、私は私しかいないもの。」

「そうだね。僕も、僕がいてよかった。」


そう言って二人は、目を、背をそらし2度と話すことはなかった。




end

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