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『二人だけの戦場』

今更だけれど花組ブリリアホール公演『二人だけの戦場』の感想を。1994年の初演はもちろん、ライブ配信も見ず、前情報も殆ど入れない状態で劇場へ行った。架空の連邦国家を舞台にした、民族間の紛争の最中の恋や友情を描いた骨太なストーリー。

主人公が上官を殺害した罪で軍事裁判にかけられているシーンから始まり、いったい何があったのか、とミステリーのようですっかり引き込まれてしまう。収監されている主人公が過去の裁判についてインタビューを受けている現在、軍事裁判(10年前)、メインストーリーである事件の起きた当時(15年前)いう3層構造になっているのも面白い。
(以下ネタバレあり)


民族の違いに翻弄される恋人たちだけではなく、駐留軍司令官と民族指導者の間にある友情と駆け引き、古参兵との軋轢など様々な人間模様が描かれていて、更に政府中央の政治的駆け引きもうっすらと感じられてとても見ごたえがあった。

独立運動が活発になり緊張が高まる→連邦制崩壊に伴う内戦が起きる→旧連邦国家と独立した国との間で国交樹立と時代が移り変わり、主人公のおかれた状況も変化していく。そこを繊細に表現するシンクレア(柚香さん)のお芝居がとても良かった。上官を撃ってしまったことで、軍人としての自我が崩壊しかけるのを士官学校時代の思い出が食い止めるという気持ちの流れがリアルにエリート士官の挫折を感じさせて素晴らしかった。

ちょっと乱暴なしゃべり方の自由なライラが今まで見た星風さんの役の中でトップを争うほど良かったと思う。若さも強さも迷いも伝わってきた。可愛らしいイメージの娘役さんだけれど、こういう何かと戦っているような役の方が似合っているようで好き。

どこかノスタルジックな音楽やシンプルなセットに効果的な照明も素敵だった。旧ユーゴスラビアをモデルに書かれた作品だけれど、ちっとも古さを感じず、普遍的な物語だと思った。94年当時も今も民族問題がなくなっていない、という現実のせいもあるのだけれど。


鑑賞日:2023/5某日 東京建物Brillia HALL
2階C列13番

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