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優しい世界のまわしかた

豪雨明けの夜の街を散歩。雨の匂いが色濃く残っている。

住宅街の真ん中でなにか小さなものがこそこそとうごめいてるのを見つけた。月明かりに照らされてよく見たそれはなんとカニだった。

恐らく、大量の雨に流されて迷子になってしまったのだろう。足元で逃げ回るカニを捕まえて、私は近くの川へと連れて行った。川は増水してごうごうと唸っていた。大丈夫かな、ちゃんとお家に帰れますように。

商店街の道端では、びしょ濡れでうずくまっているホームレスのおいちゃんを見つける。強烈な野宿臭。見慣れない顔。一瞬だけ迷って声をかける。

やっぱりはじめて会う人だった。少しだけ話をする。仕事がなくなったこと。〇〇県から2〜3日前に来たということ。なんとか食いつないでいること。見知らぬ街で雨にふられてさぞかし心細かったでしょう。

去り際に私の名刺を渡した。困ったことがあったらいつでも連絡くださいと伝えたけど、どうかな。また会えるといいな。




街を歩いていて、どうしても見過ごせない何かに出会うときがたまにある。

それは道端に捨てられた缶ジュースかもしれないし、泣き止まない子どもかもしれない。道に迷った外国人かもしれないし、寂れたシャッター街かもしれない。

同じ光景を前にしても、ある人にはみえていて、ある人にはみえていないということもある。しかし、そこに優劣は決してなく、感性というアンテナの多様性の不思議が広がっているばかりだ。

だからこそ、マルチプレーヤーにならなくてもいい。

他ならぬ自分にとって「これは…!」と引っかかるものを、ひとりひとりが見過ごしさえしなければいいのだ。ちゃんと見つけてあげること。気にかけること。そんなことの積み重ねで優しい世界はまわっていると思っている。

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