見出し画像

ケース30.ゴーレム効果〜人の成長可能性を潰さない組織風土〜

▶︎自己の未来に希望を持ち続けられる組織の特徴は?

入社時は希望に溢れていたはずなのに、気が付けば無気力に陥ってしまっている場面に遭遇したことはないでしょうか?

経営の視点:
・成長して組織に貢献してほしい
・成果を出すために適度なプレッシャーの加減が難しい

現場の視点:
・自分の力を発揮して活躍したい
・許容度を超えた叱責を受けると苦しくなる

人生100年時代が警鐘され、労働市場の流動性が活発化していることで、会社と個人を繋ぐエンゲージメントにおいて成長実感の重要度が増しています。
成長実感が高ければ、仕事に対する満足度や達成感が高まり、さらに自身の成長を継続的に実感できる場所で働きたいという思いから退職意欲が低くなる傾向があります。一方、成長実感が低ければ、モチベーションが低下して新たな環境に機会を求める傾向が強くなります。

そこで、今回はゴーレム効果という概念に用いて人の成長実感を向上させる組織風土について考察します。

▶︎ゴーレム効果

人には無意識に周囲の期待に応えようとする性質があり、他者からの期待や評価を得られなくなると成果や成績が下がってしまう心理学的現象のこと。
アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタール氏が提唱。


ローゼンタール氏の研究において下記のように人は期待によって成長と成果が異なると証明されています。

1.生徒に知能テストを行い、成績の良いAクラスと成績の悪いBクラスに分ける
2.教師にはAクラスの成績が悪く、Bクラスの成績が良いと逆のことを伝える
3.教師がBクラスを成績の良い生徒たちとして、Aクラスを成績の悪い生徒たちとしてコミュニケーションを取る
4.BクラスがAクラスの成績を上回った

ゴーレム効果は成果や成績が重視されやすいビジネスシーンでも生じやすいとされ、組織開発と人材開発でも着目される心理効果の一つです。

ゴーレム効果には下記の2つがあります。

①絶対的ゴーレム効果
自己に対して否定を感じることで他者比較をせず自己の自信喪失によって生じる現象。

②相対的ゴーレム効果
所属する集団に対して否定を感じることで優秀な人が意欲を失うことによって生じる現象。

それでは、ゴーレム効果を防ぐにはどのような工夫ができるができるのでしょうか?

▶︎成長ロードマップを握る

成長支援のために「〇〇ができていない」、「もっと〇〇すべき」、「こんなものではないはず」と指摘や発破をかけることがありますが、受け手が否定と感じるのか、期待と感じるのかが成長の分岐点となります。
今の自分が次に進むために何が不足していて、何が必要なのかを想像できないままでは、指摘や発破に対する解釈が本来の意図とずれてしまい、「もういいや」と諦観が生じてゴーレム効果に陥ることがあります。

期待を揃えるためには、現状把握とネクストステップの共通認識を図ることがポイントです。
そのためには下記のような取り組みによって過去から現在、未来のマイルストーンの成長ロードマップを握ることが有効です。

①振り返りを通じて成功体験と失敗体験を言語化して記録していくこと
②ロールモデルとコンピテンシーを定めて1週間、1ヶ月、3ヶ月、年間の目標像を設定すること

例えば、5名程度のチームをマネジメントとして任せられるようになってほしいとの期待から「自分の目標すら達成できない奴にチームは預けられない」と叱責をするだけではなく、「メンバーから慕われている姿から人の育成責任を持てる素質があると期待している。だからこそ未達が勿体無い。自分チームを持った時に数字責任を持てるように数字をつくる力を高めてほしい」と過去→現在→未来の変化から個人に合わせた期待を伝える方が効果的です。
人にはそれぞれの特性に応じた成長スピードがあるため、焦りは禁物です。

ゴーレム効果に示されるように人は周囲からの見え方によって自信が左右されパフォーマンスが変わります。
パフォーマンスを追求させるために、未達前提のストレッチな目標を設定していては「どうせ評価されない」と投げやりになり、成功体験が持てずに学習性無力感に陥り、成長の機会を逃してしまうこともあります。
学習性無力感に関する記事

▶︎個人の習熟度に応じた活躍機会を設ける

ベンチャー中心に100社以上のマネジメント育成をサポートする株式会社EVeMの長村禎庸さんの著書『急成長を導くマネージャーの型』には下記の一節があります。

ーーーーー
マネージャーは、メンバーにとって最高の観客である必要があります。メンバーの活躍も失敗も「見る」のです。マネージャーが見ているから、メンバーはがんばります。「見る」というのは、マネージャーがやるべき最低限の仕事だともいえます。
ーーーーー


人は周囲から見られているかどうかで成長に影響を受けるため、見られていると実感ができる工夫がゴーレム効果を防ぐために必要です。
特にエース社員がパフォーマンスが芳しくない組織やチームの中で個人の貢献度に埋もれていて、対組織やチーム向けの叱責を受け続けると、「本来の自分はこんなものではない」と物足りなさが生じたり、「1人でどんなにがんばっても大して変わらない」と諦観が生じたりして意欲が低下してしまい、「もっと自分が報われるところにいた方が良い」と高い基準を持つ新しい環境に惹かれやすくなることに注意しなければなりません。

そのためには全体向けと個人向けの期待が切り分けられるように、個人の習熟度に応じた活躍機会を設けることが有効です。
例えば、エース社員を集めたプロジェクトチームを組成したり、習熟度に応じた職位を設けたりと、特別感を担保することで、個人の成果が評価されていると実感でき意欲が高まるでしょう。

ピア効果に示されるように人は人の組み合わせ次第で日々の刺激が異なります。
ピア効果に関する記事

▶︎人の成長を阻害する要因を取り除く

人には千差万別の感性があり、状況に応じた意志があります。
そのため、育てることには限界があり、むしろ自然と育つためにゴーレム効果のような成長を阻害する要因を取り除くことの方が組織開発と人材開発のアプローチとしてコントロール可能です。

リクルートのホットペッパー事業が潰れかけた状態から800名の業務委託社員の力を結集することで、4年で300億の売上、100億の営利を生み出したストーリーを題材とした書籍『ミラクルストーリー』では、組織づくりの技こそが重要として、下記の示唆が述べられています。

ーーーーー
彼らに主体的な仕事ができる環境を整えれば、自分の損得勘定のみに縛られずに、正しい事業を実行していくのである。要は彼らを信じるか信じないかである。その主体的働き方を引き出せるか引き出せないかである。
ーーーーー


いつ否定されるのかとの恐怖心や、そもそも見られていないとの孤独感が生じることなく、誰かが期待してくれているとの安心感から未来に希望を持って、成長実感できる組織風土をあってこそ事業は伸びていくのではないでしょうか?

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
他記事はぜひマガジンからご覧ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?