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回顧2021 Football がライフワーク Vol.12

時計回りの180度ターンから一気に加速して送り込んだ三笘薫のクロス、右サイドバックでありながらボックスの中央へ侵入した山根視来のフィニッシュ。首位独走もそのはずだと、驚きとともに納得感を見せつけた圧巻の2点目だった。今年のゴールデンウィーク、ACLに伴う変則日程により、Jリーグで史上初めて実現した首位攻防2連戦。初戦の4-0に続き、冒頭のゴールが生まれた2戦目も3-0。堅守のイメージも板についた名古屋を粉砕した川崎の強さは、最終ラインの穴を埋めつつ前方へ効果的に配球するジョアン・シミッチの上下動や、アタッカー出身にしてサイドバックもインサイドハーフもこなす旗手怜央の「内外動」が象徴していて、自由自在かつ合理的な試合運びはマンチェスター・シティやバイエルンなど欧州のトップクラブと相通ずるものがある。リーグ前半戦にして、早くも予感した優勝争いの終焉。三笘や田中碧の欧州への流失を挟み、一時は横浜FMの追い上げを許したとはいえ、首位の座は明け渡すことなく最近5年間で4度目のリーグ制覇を成し遂げた川崎は、まさに黄金期を築いた。

3バックなのか4バックなのか、前線の配置はどうなっているのか。予想フォーメーションとの不一致は日常茶飯事、システムを読み解くうち先制点を奪ってゲームが動くこともあるスリルが、ペップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティを観る愉しみだ。監督交代の頻度は相変わらずでも、スカッドの特性と指揮官の戦術が噛み合ったジョゼ・モウリーニョやアントニオ・コンテ時代に成功を収めたチェルシーは、シーズン途中に就任したトーマス・トゥヘル監督のもとで再び好転した。昨季のプレミアリーグ第35節、優勝に王手をかけたシティは攻撃時の3バックが守備時は5バックにも変化し、中盤の底に入ったロドリの前で4人のアタッカーが変幻自在の動きを見せて先制したものの、後半に逆転してチャンピオンズリーグ決勝の前哨戦を制したのはチェルシーだった。絶対的な得点源を持たない代わり、どこからでも攻撃を仕掛けられる共通点を持つ両者の欧州の頂を懸けた再戦には究極の戦術勝負を期待したが、やはりリーグ戦とトーナメントは別物なのだろう。キャリア12年間で実に9度の優勝、国内リーグでは圧倒的な実績を誇るペップだが、シティでの悲願のチャンピオンズリーグ制覇にはあと一歩届かなかった。3度目となったプレミア勢同士の決勝は、ゲームメイカータイプの選手で中盤を構成したシティの攻撃的布陣は機能せず、鋭いカウンターで決勝点をもぎ取ったチェルシーが9季ぶり2度目の優勝。改めて、ビッグイヤーを初めて獲得すること、最高峰の舞台で新たな王者が誕生することの難しさを思い知った。

かつての指揮官が世界の最先端を歩み続ける一方で、著しく地位を下げてしまったのがバルセロナだ。経営難の煽りを受けてついにリオネル・メッシを失ったというのに、ホームで迎えた開幕戦、クラブは歴史上でも最大のスターへ何らメッセージを発することなく、ただ観客が自主的に、背番号にちなみゲーム開始10分に拍手したのみだった。一昨年のアジアツアーの最中、一部選手の言動が問題視された際の対応も含め、後ろめたいことと真摯に向き合わず冷淡になったクラブの姿勢が、21季ぶりのチャンピオンズリーグ1次リーグ敗退、宿敵マドリーに4連敗を喫したクラシコ、暫定7位に甘んじるリーガでの現在地、その全てと無関係には思えない。「貧すれば鈍する」を具現したような状況だが、スペインにも同じ意味の諺はあるのだろうか。停滞感が否めないのは、われらが日本代表も然り。カタールW杯アジア最終予選は序盤の3試合で2敗を喫して苦境に立たされ、直近の11月の2試合はいずれも1点かぎりの辛勝。それでも勝てば他力が味方してくれるようで、オーストラリアが下位の中国と引き分けたおかげで自動出場圏の2位へ浮上したことに、贅沢も言えず、ともかく安堵するほかないような現状にある。オマーン戦では後半の頭、先発復帰した柴崎岳に代わりフル代表デビューを果たした三笘が起爆剤となった。みだりに動かない相手の守備陣に一時は対応され始めたようにも見えたが、終盤、中山雄太の後方支援を受けてマークを引き剥がし、伊東純也の2試合連続決勝点をお膳立て。残念なのは、せっかくの起死回生とヒーロー誕生の瞬間が、テレビでは届けられなかったことだ。

テレビ中継からストリーミング配信へ、無料だったものが有料に。時代の移り変わりに応じて、フットボールの視聴環境も転換期を迎えている。昔気質ゆえの錯覚かもしれないが、どうも私は、この傾向を好意的に受け止められない。最近たまたま目にした記事は、3年前のロシアW杯当時は20代半ばだった選手たちが中堅ないしベテランとなり、現在の日本代表にはほとんど残っていないことをネガティブなトーンで伝える内容だった。日本代表に招集されなくなれば「消えたも同然」と言わんばかりの論調に白けると同時に、わが国のフットボールに関わる人びとが、そんな「世間一般の感覚」にもっと鋭敏になる必要を痛感する。対価さえ払えば、いつでもどこでも視聴できる環境の推進は、コアなファンにとっては望み通りにしても、ライトな層にはどうだろうか。地上波放送で観られるゲームの減少により、フットボールの「アングラ化」が深まれば、日本代表に招集されなくなった選手のみならず、やがて日本代表自体が「消えた」と認識されかねない。

わがヴィッセル神戸は、実り多き1年を過ごした。シーズンなかば、15ゴールを量産してリーグ得点ランクトップに立っていたエース古橋亨梧がセルティックへ移籍。相当な痛手になるかと思いきや、大迫勇也と武藤嘉紀に加え、かつてバルサの神童と謳われたボージャン・クルキッチまで獲得し、最大限の穴埋めを実現。エース離脱による混乱を回避し、例年より長いシーズンで過去最高の3位に上り詰め、2度目のACL出場を射止めた。セルティックでも主力級の活躍を見せる古橋は日本代表に定着し、来たる1月のメンバーには、加入後の蘇生が目覚ましい武藤が約3年ぶりに復帰。三浦監督がチームの「心臓」として全幅の信頼を置く山口蛍も健在で、ロシアW杯当時の一員は、断じて消えてなどいない。連敗や大量失点という年来の課題ともようやく決別できた反面、川崎や横浜FMとの対戦では完成度の差が露になった。客観的に見れば、最高の成果もいまやリーグ最大級となった戦力の賜物であり、来季へ、なお進歩の余地を残す実力を高めてくれることを期待したい。

最後に、国内外を対象とした自選の年間ベストイレブンを列挙する。
GK:ミッチェル・ランゲラック
DF:山根視来
  冨安健洋
  菊池流帆
  ジョアン・カンセロ
MF:田中碧
    稲垣祥
   ケビン・デ・ブライネ
FW:古橋亨梧
   三笘薫
   モハメド・サラー

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