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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?【山口周】 書評


世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 山口周

タイトル通り、世界のエリートが「美意識」を鍛える理由を説明しています。
「忙しい読者のために」と称して冒頭に、その答えの結論がまとめられています。それをさらにまとめると、以下のようになります。


「美意識」を鍛えるべき理由は以下の3つの理由からです。

1.論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつあるから
多くの人が分析的・論理的な情報処理のスキルを身につけた結果、世界中の市場で発生している「正解のコモディティ化」が問題になっている。
分析的・論理的な情報処理スキルの「方法論としての限界」があり、「VUCA(=不安定で不確実で複雑で曖昧な)」問題には対処できない。
そのような問題を解決するには、全体を直感的に捉える感性と、「真・善・美」が感じられる打ち手を創出する構想力と想像力が求められる。
2.世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつあるから
「全地球規模での経済成長」が進展しつつある今、世界は巨大な「自己実現の市場」になりつつある。このような市場では、機能的優位性や価格競争力を形成する能力よりも、人の承認欲求や自己実現を刺激するような感性や美意識が重要になる。
3.システムの変化にルールの制定が追い付かない状況が発生しているから
社会における様々な領域で「法律の整備が追い付かない」という問題が発生している。そのため明文化された法律だけを拠り処にして判断を行うと、後出しじゃんけんのように罰せられる可能性がある。システムの変化の後に法律が制定される中で、クオリティの高い意思決定を継続的に行うためには、内在的に「真・善・美」を判断するために「美意識」をもつ必要がある。

要は、人の感性に訴えることで商材を差別化し、犯罪を犯さないようにするためには「美意識」が必要だということです。

第1~6章は上記の理由を詳しく説明しています。要点だけ簡潔に知りたいという方は、最初の「忙しい読者のために」を読んだ後、第7章の『どう「美意識」を鍛えるのか?』を読むと良いと思います。

第7章の『どう「美意識」を鍛えるのか?』では、その方法として

1.絵画を「観る」こと
2.哲学を学ぶこと
3.文学(特に詩)を学ぶこと

が挙げられています。詳しい説明は本書に譲りますが、私がとても納得したのは哲学を学ぶべき理由です。

真に重要なのは、その哲学者が生きた時代において支配的だった考え方について、その哲学者がどのように疑いの目を差し向け、考えたかというプロセスだからです。
その時代に支配的だったモノの見方や考え方に対して、批判的に疑いの目を差し向ける。誤解を恐れずに言えば、これはつまりロックンロールだということです。
繰り返せば、アーレントは、アイヒマン裁判を傍聴した末に、悪とは「システムを無批判に受け入れることだ」と指摘していました。一方で、過去の哲学の歴史は全て「システムへの疑い」を起点にしている。これはつまり、哲学を学ぶことで、「無批判にシステムを受け入れる」という「悪」に、人生をからめとられることを防げるということです。
エリートというのは、自分が所属しているシステムに最適化することで多くの便益を受け取っているわけですから、システムを改変するインセンティブがないわけです。
システムの内部にいて、これに最適化しながらも、システムそのものへの懐疑は失わない。そして、システムの有り様に対して発言力や影響力を発揮できるだけの権力を獲得するためにしたたかに動き回りながら、理想的な社会の実現に向けて、システムの改変を試みる。
これが実現のエリートに求められている戦略であり、この戦略を実行するためには、「システムを懐疑的に批判するスキル」としての哲学が欠かせない、ということです。 

理想論であることは否めませんが、私は非常に納得しました。

本書はテーマが面白いことに加えて、様々な哲学書や物語や詩、絵画など文学作品を引用・参照しています。文学作品の解釈を学ぶ視点から読んでも非常に面白いと思います。

とてもおススメの1冊です。ぜひ読んでみてください!



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