見出し画像

52. 言葉の力で運命が変わる

 文は体を表す、と言われる。文章には書き手の性格や考え方、教養まで滲み出る。人間の有り様が分かるという意味だそうだ。手紙にしろ、電子メールにしろ、文字を書く時はこれらを思い出し、言葉の音(おと)を大事に綴る。届ける人の顔を思い浮かべながら、足したり引いたり、今の心に一番ぴったり合う言葉をみつけるように心がけている。

 では、話し言葉はどうだろうか。人は何げない言葉に救われたり、傷つけられたり、導かれたりしている。美しい言葉で丁寧に話す人は往々にして誰からも信頼を得ているようである。反対に陰口を叩いたり、噂話や人を揶揄をしたり。誰それを罵倒したりが多い人は、言葉を吐く時も苦しげであるし、歯をくいしばって闘わねばならない人生が多いのではないのか。〝口は災いの元〟というが、自身を含めて災いにならないよう気をつけねばならない。悪態が勝る人で、幸せな人を見たことがないから(歯に衣きせず自分の考えを発言する人は別です)。

 これは私の憶測だが、前者の人は口からこぼれた言葉を、声帯を通して自身の耳で聴き、心で捉え、肌感覚で感じ、当の本人がいちばんダイレクトに言葉を受け取ってしまう、だから、自身をも傷付けているのではないかしら、と思ってみたりする。言葉は返ってくるという恐ろしさがあるのだ。

 ああ言霊信仰である。言霊とは、言い放った言葉が魂をもち現実に起きることだが、1300年前に編まれた古事記や万葉集にも記述がある。神社で、お祓いや祈祷をする時に神主さんが奏上する祝詞は、神への崇拝が込められた最上級の祈りの言葉。悲観論はそのとおりに不運をもたらし、「よかったわ」「ありがとう」「あなたのおかげかも」「必ずやり切ります」と自分を肯定し、ポジティブな言葉や願いを口にすることは、どうにも幸運を引き寄せる、らしい。

 口下手な私は、なかなか思うように喋ることは難しいが、周囲に対する誠実な思いを飾ることなく伝えられたら、言葉の力に照らされて、心も豊かになれるかも……!いい本や美しいものに触れ、内面を耕すことで言葉の力は変わる!そう思って今日も心清く、あなたへ思いを乗せて、メッセージ(言葉)を届けよう。

トップの写真は、熱海の来宮神社の樹齢2100年のクスノキです。このエッセイは、季刊誌にて掲載されたものを一部加筆修正。


この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?