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22. 小説を書き始めてどういう景色が見えてきたのか。  (後編)


なぜ、小説を書いてみたくなったのだろう。いえ、書き始めてしまったのだろう。自信などひとかけらもなかったはずなのに……。ふーっとため息をつく時があります。ライティングやコピーは、ある程度は経験や訓練で上達できるものかもしれませんが、小説や随筆にはその人の人間力がでる。人に魅力がなければ…… (前編はこちらです)↓




それから、仕事の合間や、夜の1〜2時間くらい、小説を書く時間をつくってみました。

小説の読み方も変わりました。好きな作家のデビュー作をずらっと10本くらい読んでみました。小川洋子さんや、千早茜さんや、ジュンパ・ラヒリさんや、いろいろです。

誰もが、この作品を書きたくて作家になったと言わんばかり。その人の濃厚な澱を読んでいるかのよう。まさに温泉でいえば源泉の湧き出るところにどっぷり浸かって、見たこともない熱い夢をみせられているような凄い作品ばかりだったんです。

やっぱりそうだ。小説家は、なるものじゃなくて。スタート地点からすでに小説家だったんだわ。と圧倒された。

わたしはといえば……! 20 枚くらい書いたら、そこから「穴」に、どずーんと落ちてしまったのでした。
這い上がろうとしても、なかなか起き上がって進めなかった。

いまの男女がどんなことを会話し、どんな心理で向き合っているのか。書いても書いても、うそっぽくてうまくいかない。これを書いてみよう! という映像は鮮明にあるのです。イメージは浮かんでいるのに、登場人物が生きてこない。きっとこういう行動をとるという答えがあやふやで、おぼろげで、みえてこなかったんですね。どうしても主人公が「人形の家」から出られない……のです。

そのうち、他の仕事と両立していく難しさもありました。

午前中だけの2時間。深夜11時から2時間。そして、今日はなし。朝10時から1時間。歯をくいしばって時間を紡ぎました。
書ければぐっすり眠れるのに、書かない日は、悶々とする日々でした。


ある日。自分を追い込むために、エンターテインメントに特化した小説の学校に入学するんですが。そこから、がさらにキツかった。

これまでは、曲がりなりにもプロとして30年近く歩いてきていたのにも関わらず、文章以前の書き味のところで、(例えば、「凝った表現すぎる。形容が多い」)と、ぺしゃんこ。でした。

いまは編集者(講師)の方も、気を遣って話してくださっているし、小さなことを褒めてくださるようになりましたが……。

そうして、中編1本、長編、掌編と初稿は書き上がりました。が、まだまだ改稿・推敲の日々が延々と続いています。

始めて小説を書いてみた時にはあれほど楽しかったはずなのに。
「推敲」とは、自分のいたらなさや稚拙さと向きあわなくてはいけない。わたしの中の、本人も知らなかった苦々しいところを見せつけられるようでした。毎回、毎回、パソコンを開けるたびにがっかりします。穴だらけに。

従来までの仕事経歴はまったく役立たずであることがすぐにわかりました。自分が使い慣れた言葉で、安易に書いてしまおうとする。ブレーキを踏むことばかりです。

一体、いつになったら「これが人に届けたかったのだ」と思えるものに行き着くのでしょうか。


自分の読書経験がどちらかといえば「純文学」よりで、映画のジャンルもミニシアター系の作品が好き、そういうことについても、最近になって気づきました。これまでエンタメ、純文学などを意識した読み方もしてこなかったのです。

しかし、まあ、もう書かなかった以前には、戻れなくなってしまった
書いていきたいテーマや、文体なども……。むずかしいんですが。

けれど、ぼんやりとはあります。方向性は定まってきつつある。

「あれは、なぜ? こうなるしかなかったんだろう」とか。日常の違和感や、なぜか惹かれ合うものたち、などを物語のかたちにして問うてみたいと思っています。

そして。ここらで「自分の言葉」を探すことをキチンとやりたい。
言葉の手ざわりや、温度や。自分でしかつかめない感覚というものを貪欲に追いかけてみたい。のです。

まあ、先入観なく、諦めず。ふて寝は最小限にして。
強烈に書きたかった自分と、いま、誠実に向き合ってみようと思っています。

これまでの取材原稿やコピーワークの仕事も、全て好きであるし、本業を全て投げ打つ、予定にはしていませんが。なにを書いて生きていくのか、腹をくくって、見極めたいです。それぞれの「書く」という同じ行為が、影響しあって、共に伸びていってくれたなら、という祈りも込めて。

最近、読んだのが「トーベ・ヤンソン」の短編集です。あんな風に、大事なことを、ふわっとユーモアをもって書けたなら最高なんですが。



この内容の「前編」は最上段に貼り付けてあります。 (了)

       


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