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蒼き夜のよだかのおもいで

日がのびて、まだ蒼い時の夕餉刻
ファミリーレストランは少しだけ冷房がきつい
文庫を片手にごはんを召し上がるおばあさん
勝手に寂しそうと想像する先入観を
あたたかな黒豆茶で飲み込んで、ずいぶんと昔に
亡くなった祖母のことを思い出した

本を読んでいるところなんて見たことがなかったし
孫である私を連れて買い物に出た時以外に
外食をしている姿を見たこともなかった
或いはまだ幼かった私の視界に入っていなかった
だけなのかもしれないけれど、自分自身に時間を
使うこともなく、よく働くひとだったと思う
亡くなったのは還暦を迎える前のことだったから
今にしてみればまだ、おばあさんなんて呼ぶには
若すぎたのかもしれない

よく働く人だったからなのか、夜中に体調を悪く
してその2,3日あとに亡くなってしまった
初孫だった私は大層かわいがってもらった
幼稚園児の頃に、目の上を切るケガをして祖母が
私を自転車の荷台に乗せて病院へ走らせてくれた
ことが、いちばんのおもいでだろうか
私の血がつくことなんかお構いなしにちゃんと
つかまってるように体をぴたりとくっつけさせて
走る自転車はとてもとても速かった

一生懸命に漕いでいるときの祖母の息づかいと
あたたかさと「よだかの星」の挿絵みたいな
空の蒼さは美化されてしまっているかも
しれなくても、忘れられない記憶
そう、ちょうど今時分の蒼い空だった

そんなことを不意に思い出して、失礼ながら
もう一度おばあさんに目をやると、
スマートフォンを器用に操作している
うん、きっと寂しそうに見えたのはきっと先入観
うん、そうであって欲しい

誰もがよるの寂しさを感じないで
眠りにつけますように

祖母に愛されていた幼き頃の私
私もよだかが抱いた罪悪感を捨てて、
もっと笑いながら生きていたいな
生きている限りは

たんなるにっき(その121)

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