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ちゃんと勉強してないと、あんな大人になるよ

   幼稚園や小学校の頃に母と買い物をしている時に大工さんが家を建てている様子を見かけると、必ずと言っていいほど「ちゃんと勉強してないと、あんな大人になるよ」と言われていたが、全くと言うほど私はそれを理解できなかった。工事現場の人達を見ている皆、陽だまりの中で声を掛け合いながら、大きな立体物をせっせと作り上げていて、私は少なからずそれに、明るさや魅力を感じていた。なにより、大人というのは皆、自らが自由に選んだ道で胸を張って生きている人達だと思っていたから、目の前の光景を卑しめて見る母を不思議で堪らなかった。

   私は今年18になる。実際、年の功ってのはあるみたいで、特に建築業界の事を従事した事もちゃんと知ろうともした事も無いのに、ある程度イメージが改められた。人手不足で、たくさん働かなければならないのに、年収は少ないみたい。その上、ちょっとのミスが命取りになる。確かに、分の悪い仕事に見えるけれど、今になっても朝、学校に行く時なんかに工事現場で円になってラジオ体操なんかをしている姿を見ていると、すごく立派に見える。それに、高い場所でも恐れずにサクサクと作業をするのも、滑り台程度の高さで怖がる自分なんかには到底出来ないことだから、ほんとうにすごいと思う。勿論、力強いのもかっこいい。

   けれど、やっぱり現実は非情だろうな。母も家が貧乏で中学生の頃から年齢詐称をして働いていたと言うし、故郷の鹿児島は男尊女卑が激しいとも聞く。間違いなく、身をもって生きるつらさを体感してきたからこその言葉。
現実を知りたくない。理想は理想のままであって欲しい。近い将来、私はまともな人間では無いから、俗に言う底辺職に携わることになる。その時に幼少期に見ていた人達の実態を目の当たりにして、身をもって感じて、憧れとか尊さみたいなものが崩れていく予感がして、悲しくなる。

   コンビニ店員で生計を立てられると思っていたし、初めて付き合った人とはそのままずっと仲良しのままで結婚できると思っていた、大人になるにつれて自由に成れて、希望が広がるんだとも思っていた。まだ、人の世の暗い部分なんて知らない一人の子供のままで居たい。

2024/01/04

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