見出し画像

行儀が悪い女を描く、最高のテレビドラマ「フリーバッグ」

あまりの衝撃に息もつけないまま、最後まで一気見するドラマがたまにある。私にとってFleabag(フリーバッグ)はそんなドラマの一つだった。

アマゾンプライムで見れる『Fleabag』は、イギリスの女優・劇作家フィービー・ワラー・ブリッジが主演、制作総指揮、監督、脚本を務めたコメディードラマ。BBCでシーズン1が放送されてカルト的な人気を得た後、エミー賞を総なめしたことで爆発的人気を博し、ブリッジを一躍スターの座に押し上げた。続きを求める熱烈なファンの声をきっかけにブリッジが満を持して制作したシーズン2は、オバマ大統領のおすすめするテレビドラマ・映画のリストにも入った。

ドラマはロンドンに暮らす20代後半~30代前半の女性主人公フリーバッグの生活を描く。フリーバッグはお客の全然入らないカフェを崖っぷち状態で経営しており、なよなよした彼氏と別れたり寄りを戻したりを繰り返し、親には心配され、弁護士の姉くらいしか近い存在がいない。

人生のどこにも明るさが見当たらない痛みを、フリーバッグは、性欲に変えて発散する。セックスをすること自体ではなく、誰かに求められることに気晴らしと救いを求めて。

行き当たりばったりで、皮肉屋で自意識過剰、夜中に親を起こしたり好きでもない男といきなり寝たり、到底いい人には見えないフリーバッグだが、彼女の痛みやそれを所構わずぶつけてしまう傍若無人さには、正直、私自身が見ていて救われる部分があった。

女の子は小さい頃から、にこやかであれ、聞き分けよくあれ、いい子であれと、お行儀よく周りの人に迷惑をかけないように育てられることが多い。主語が大きすぎる気もするが、おそらくあながち間違ってもいないだろう。

でも誰だって人間であり、イラつくことや悲しいこと、辛いことだってたくさんある。それを、にこにこしてやり過ごすのが大人の女性ですよ、なんて言われたら、やってられない。

そんな世間体とか常識とかを全部ぶち壊して正直に生きるフリーバッグが、このドラマには素の姿そのままで描かれている。彼女は時々画面越しに観客に話しかけるのだが、その「分かるよね、こういう時?」みたいな語り口に、確かに…めっちゃ分かる….と思う時、私は、行儀が悪いことを考えてもいいんだ、それを行動にうつすかはともかく、心の中で思ってもいいんだ、とほっとする。

私自身、いきなりアメリカに留学したり、ニューヨークで遊びまわったり、そこそこお行儀の悪い部分もあったが、フリーバッグの行儀の悪さとは比べ物にならない。

そのお行儀の悪さは第一話の冒頭ですぐに分かるのでぜひ見てほしいのだが、でも全編を通して、なぜ彼女がそこまでの痛みを抱えているのか、そのもがき苦しむ理由も、人生を軽蔑したような彼女の態度の裏にうっすらと見えてくる。

フリーバッグがものすごい人気を博した後、多くの批評家が「いい意味で、好きになり難い女」と主人公のフリーバッグについて言った。好き放題やって、行儀が悪くて、開き直った態度の彼女は、確かに、好感度が高いとは言い難い。

でもそのことについて、フリーバッグの生みの親のブリッジは、インタビューでこう言っている。

彼女を「好きになり難い」キャラとして描くつもりは全然なかった。
他人がどう思うかを女性が微塵も気にしていない時、なぜかそれはその女性がすごく嫌なやつであることと同義だと思われがちだと思う。私はフリーバッグのことを、痛みを抱えて普通に機嫌がいい時も悪い時もある一人の人間であって、その行動だけでは規定できないと思っている。

VICE インタビュー

そう、女性が他人からの見え方を気にするベールをかなぐり捨てて好き放題行動することは、一般的に悪いことだと思われがちだが、痛みや苦しみを抱え、どうしようもなくて傍若無人に振る舞うしかないことや、それでも誰かに好かれていたい、求められたいと思ってしまうことだって当然あるし、それを全部抑え込んでお行儀よく生きることがハッピーだとは限らない。

それを突き詰めた例がどうなるかを見せたのがフリーバッグで、彼女の痛みや苦しみ、それを突き抜ける傍若無人さは、程度問題こそあれ多くの人に「ああ、確かにこうなりたい時も、こうなってしまう時もあるよね」と共感できるところが多かったのだと思う。実際にフリーバッグは大人気を博し、多くのファンを得た。私もその一人だ。

またここまで書いた感じだと、シリアスなドラマのように聞こえると思うのだが、実際このドラマはコメディなので、本当に全部が面白い。イギリスっぽいシニカルなそのユーモアは、見ていてつい吹きだしてしまうくらいだ。

辛い時、孤独な時、何か面白いものを見て笑いたい時、私はフリーバッグを見返す。彼女の圧倒的なお行儀の悪さが、私の心の支えになっている。

もし興味のある人がいたら、ぜひ見てみてほしい。

シーズン1も2もアマプラで見れる

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?