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8月29日 ふくの日

    口は災いの元と言うけれど、それって本当だった。


 昨日、祖母とケンカした。

 ケンカと言うより一方的に私が悪いのだけれど、本当、意識もなくポロッと出た。

「だって、ばあちゃんのお弁当、煮物多いんだもん」


 私は今、高校生であり通学の事情から祖父母の家で暮らしている。昼食にと祖母はお弁当を作ってくれている。大変だから学食を利用すると言ったが、作れるときには作ってあげたいと言ってくれたのでお願いしているのだ。

 けれど、最近私はとても食欲旺盛と言うのか、がっつり食べたい欲が強い。そのため、正直野菜よりも肉が食べたい。そしてその気持ちがピークになってしまったために昨日、言った。明日の模試はお弁当はいらない、コンビニで買いますと。

 すると祖母はどうしてかと聞いてきた。それはそうだろう。私はちょっと食欲が、とか明日はちょっと、みたいに中途半端な言い訳を言ってのらりくらりしていたが、祖母は引かなかった。小さめにしようか?とか食べなくても良いからと、ひとまず弁当を持っていけと言う。それが続き、私はついうっかり先の通りポロッと言ってしまったのだ。煮物が多いと。

 言い方に大いに問題がある。事実、煮物がほぼ毎回出るので多いのだが、別にそれが不満な訳ではない。煮物がどうこうではなくて、ただ、肉をもっと食べたいだけなのだ。それなのに、あんなに意地悪な言い方をして・・・・・・。反省するしかない。


 そして今朝、祖母は普段と変わらない態度で接してくれ、家を出る間際に1000円くれた。

「コンビニっていくらくらいなのかあんまり分からないから、とりあえずこれ持って行きなさいね。それと、必ず食べてね」

 そう言って送り出してくれた。祖母は、私が昼食を食べないことを危惧しているようだった。

 心配してくれているのに、私はなんてひどい言い方をしたのだろう。そう思い、胸のなかにしこりが出来たまま、模試の終了後にコンビニに向かい、希望していた肉、牛丼を食べた。肉は大盛りだった。

 確かにそれは美味しかった。けれどどこか満たされないものもあったが何だか分からない。


 やっぱり悪いのは私だと思い、祖母にはちゃんと謝ることにした。

「ただいま」

 まだ明るいのに、玄関先のライトを付けていてくれた。

「おかえり。お疲れさま、お昼ご飯は食べた?」

「うん、ありがとう、食べられました」

 私は財布からお釣りを取って渡す。祖母は、いいのにと言ってそれを受け取った。

「それと、これ、ばあちゃんの好きな塩豆大福。おやつに食べよう。昨日、今日とごめんね。どうしても、こう、がっつり食べたくて・・・・・・。ばあちゃんの煮物が嫌いなわけではないから、また月曜日からお願いしたいです」

 気まずさから私は少し早口で言うと、途中から祖母は笑っていた。

「ばあちゃんこそごめんね、ボリュームが欲しかったんやね。ふふふ、お母さんの学生のころにそっくりね」

 そう言って笑うと、祖母が食卓に招いた。

「わたしも草餅の大福を買ってきたの、あなたの好きなやつ。お茶にしましょう」


 温かいお茶と柔らかくて優しい甘さの粒あんが口の中に広がり、私はようやく満たされる。


 口はなにも災いだけではない、口福にもなるのだ。

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【今日の記念日】

8月29日 ふくの日

総合食品商社の株式会社日本アクセスが制定。一年を通じてさまざまな季節の食材や景色を取り入れた商品があり幸福な気持ちになれる和菓子。その魅力を伝えることで小売業の和菓子の販売促進企画を進めるのが目的。日付は2と9で幸福な気持ちの福を「ふ(2)く(9)」と読む語呂合わせから毎月29日に。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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