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「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか」 #2 ~お医者様にもきいてみた~

私が経験したドクターコールの件。前回のドクターコールはこちら↓

今回は国際線で起きたことについて。

また、こちらも、プライバシーなどありますので、私の経験を基にしたフィクションだと思って読んでいただければと思います。
今回は医者の友人に実際に聞いた「ドクターコールに対する考え」にも触れたいと思います。

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私が入社5年目、CAとしての仕事にも慣れ、一通りのフライトの業務が出来るようになった頃の話。それは国際線のLA発ー成田行きの飛行機で発生した。

乗客が全員搭乗し、飛行機の扉が閉まり、いざ、飛行機は成田へ向けて出発。

ボーディングゲートが飛行機から離れ、飛行機は滑走路へむけて走り出した。

機内の安全に関するVTRの放映中、CAは離陸へ向けての機内準備を進めていた。私は自分の担当のエリアを進めながらも、他のエリアが順調に進んでいるかも確認していた。

すると、別のCAがトイレの前で立ち止まっている様子が見えた。
そのトイレにお客様が籠っていることが判明したのだ。

安全に関するビデオはお客様には必ず見せなければいけないもの(これは航空法で決まっていて、どこの国の航空会社にも義務付けられている)なのでCAはトイレの中の乗客に声をかけた。

しかし、お客様が出てくる様子がないのだ。

「お客様、飛行機はまもなく出発いたしますので、お座席にお戻りいただけますか?」と再び声をかけると、

顔面蒼白の50代くらいの女性が、ヨロッとよろけながらトイレから出てきた。と、思ったら、そのまま手をつかずに顔面から床にドサッ!っと倒れこんでしまったのだ。

あまりにも不自然な倒れ方をしたお客様に、CAが驚きながら「お客様!お客様!」と肩を叩きながら呼びかけるも、乗客に意識はなく、体はグデンとしたまま、完全に脱力した状態だった。

CA3人がかりでお客様を運び出し、トイレの前で横に寝かすも、お客様の意識はなく、呼吸は確認できたが顔面蒼白な様子からも、明らかに異常な状態だった。

飛行機は滑走路に向けて走り出していたが、ターミナルへ引き返すことも考慮しコックピットへ連絡。

ベテランの先輩が私に「〇〇(私の名前)さん、ドクターコールをお願い。」と言った。先輩は他のクルーにも医療機器を取りに行かせたりなどテキパキと指示を出した。

インターフォン(アナウンスをする時に使う電話みたいなもの)の近くにいた私は「はい!」と言いながらも、焦り慄き、若干絶望しながら(あぁ、ついに訓練で何回もやったドクターコールをやる時がきてしまったか、、!)なんて思いながらインターフォンを手にしたその時、

トイレのすぐ後ろの席にいたお医者様が「なにか、僕に出来ること、ありますか?」と、駆けつけて下さった。

(神様!!!)と、CA全員が心で思った(に違いない。少なくとも私はそう思った。)

お医者様が患者の横に座り、倒れた女性のまぶたの下を裏返し、目を確認すると「あ〜、多分ね、貧血かもしれない。」と言った。
患者の足を高く持ちあげ、もう一度CAが「お客様!」と声をかけたその時、ゆっくりと女性の意識が戻った。

横になっていたお客様は朦朧としながらも、自分が置かれた状況に驚いたのか(そりゃそうだ、トイレの前で仰向けで横になりCA5名とお医者様に囲まれているのだから)

「...ぇ?、、、、、、ぁれ?」と動揺しながらも、女性は小さな声で「すみません。」と言った。

(こんな時でも謝ってしまうのがすごい日本人っぽいな、と思った。)

お医者様が簡単な問診をしてくださったところ、倒れた女性は元々血圧が低く、かつ貧血持ちで、滞在先のLAでは時差ボケが直らないまま観光を続けていた。飛行機に乗る前も体調が優れなかったが、どうしてもこの便に乗りたかったため無理をして搭乗し、貧血状態になって倒れてしまったのだ。

倒れた女性はまだ顔色が悪く、本当にこの便に乗って日本へ帰るのか、もしくはターミナルへ引き返し身体を休めるのかを聞くと「仕事があるから絶対にこの飛行機で帰る。」と頑なに言った。(正直、本当に大丈夫なの?!機内で体調良くなることないのに!と不安に思ったが)

お医者様も「この調子なら恐らく大丈夫でしょう。」と仰ったため、飛行機はそのまま滑走路へ向かった。女性の体調を伺いながらも、万一に備え、女性にはお医者様の近くの空いていた座席に着席していただいた。

ただの貧血で良かった。。。

あまりの顔面蒼白さに、ただごとではない、と思ったが。

良かった。

良かったけど。。。!

幸い、この日LAの空港は混雑していたため、病人が発生しても離陸に影響することはなかったが、万が一「ターミナルへ引き返す」となると、それはまた大変なことになるところであった。

引き返すだけの簡単な作業だと思われがちだが、実はもの凄〜く大変なことなのだ。。飛行機の扉がしまったその時点で、私たちは物理的にはアメリカにいるけれど、もはやアメリカにはいない状態。全てはパイロットの指揮下に置かれる。引き返すとなると、パイロットは管制や空港長と引き返すための煩雑なやりとりをし、飛行機の燃料を計算し直し、場合によっては燃料補給が必要になったり。。CAはドアを再度開けたり、乗客リストの再作成やら、荷物の取り下ろし依頼やら、イレギュラーの嵐、遅延確定、100名以上の旅客の乗継に影響し、大クレーム必須!しかもそこから10時間弱のフライトという地獄絵図なのだ。

まぁ、旅客が無事だったことがなにより。
良かったが。

これだけは言いたい。

体調が悪ければお願いだから便を振り替えてください...。

上空に行って体調が良くなる事は、絶対にないから。
格安航空とかでない限り、大手の航空会社は病人を飛行機に乗せるわけにはいかないので、必ず便を振り替えてくれます。(満席とか何かイレギュラーがなければ...ですが。)

体調不良の人にとって機内は地獄の環境だから

空港には必ず救護室や休憩室があるし、LAだったら、1日に何便も日本行きの飛行機は飛んでいるし。

教訓:
・飛行機では絶対に体調は良くならない。(何回でも言う)
・体調不良だったら、地上係員に便を振り替えてもらう。
・じゃないと飛行機がターミナルに引き返すことになり、数百名に影響が出る。

体調が悪い時は、身体を休めましょう。

ね。

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よく航空関係者ではない人から「お医者さんって結構普通にいるの?」という質問をされる。

答えとしては、「思ったより、いる。」といったところだろう。

北米やヨーロッパで学会があったりすると、お客様全体の4割がお医者様だった、なんてこともあるし、先輩や同期の話を聞いている限りでは、医者が乗り合わせていなかったと言う話はあまり聞かない。(もちろん100%ではないが)

それに加え最近では「医師事前登録制度」というのがあって、お医者さんが航空会社のマイレージ会員になる時に医師であることを申告し、事前登録すると、「医師」として顧客登録がされるため、チェックインをした段階から航空会社側が「あのお客様はお医者様だ」と把握ができるようにもなった。

(お医者にしか興味のないドクターフェチの同期は、フライト前に必ず顧客情報を確認し、どこの席にお医者様が座っているか確認をするらしい。もちろん彼女は「安全のために把握しているだけだ」と言い張るが。笑)

ドクターコールをせずともお医者様がいらっしゃることがわかるのは、いちCAとしては「本当にありがたい」の一言に尽きる。私たちも一応、救急看護の訓練を受けていて、ある程度の対処は出来るが、医療のプロフェッショナルではない。

ただ、医師の友人の話を聞くと、「面倒だから登録しない。」という意見が多かった。

CAは病人が発生した時にお医者さんや看護師さんがいるだけで(神様!)と思うのに...。

「なんで登録しないの?」と聞くと、

・「私が行っても良いかどうか分からない。」
・「僕のほかに医者がいるんじゃないか、(しかもその人の方が経験値が高いんじゃないか)と思ってしまう。」
・「専門じゃないかもしれないし、責任を取れない。」

また、それに加えて、ドクターコールが機内でされても「呼ばれても名乗り出ないと思う。」という。

私は今まで急病人が発生した時にお医者様が名乗り出てくれなかったことがなかったから、驚いた。

もちろん、これは私の友人の話であって、医師事前登録をしてくださるお医者様も多くいらっしゃるし、実際名乗り出てくれる人が多くいるのは事実だ。(というか私の友人も、こう言ったものの飛行機で実際に病人と居合わせたら、助けてくれると思う。)

私は声を大にして言いたい。

「お医者様、機内で病人が発生したら、是非、助けてください!」
あなたの力を必要とする方がいらっしゃいます。
私たちも、なけなしの知識で、お医者様が来てくださるまで、急病人の命を助けます。お医者様が来てからも、あなたを全力でサポートします。

「責任を取れない」と友人が言ったけれど、ほとんどどこの航空会社でも、機内で医療行為をして下さって、万が一不幸な結果となってしまっても、(故意でない限り)お医者様に責任を取らせることはないと思います。
機内は病院じゃないから、医療機材も限られているし、お医者様だっていつもの力を100%発揮できる状況じゃない。

それでも医療の知識を持ち合わせてる方が、病人の近くにいるだけで、私たちは、そして患者の方も本当に救われるのです。


と、熱く友人に語ってみたら。

苦笑いをされた。笑







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