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物語を、自分に溶け込ませること

 物語を味わうときに心がけていることがある。
 それは、そのキャラクターや舞台の価値観を、なるべくそのまま自分の中に取り込むことだ。
 それによって、現実世界の自分の持っている価値観から抜け出すことができる。つまり、自分の価値観を相対化することができるのだ。

 本を読むと、共感力が上がるといわれている。この世界にはたくさんの人々がいて、その誰しもが自分とは違う価値観や歴史観で生きているということが理解できるからだ。物語を味わうことによって、僕たちは現実では決してあり得ないこと経験をすることができる。
 例えば、宇宙飛行士になって遠い銀河の彼方まで旅することができる。例えば、古代の王になって、その時代の空気や人々の交流を味わうことができる。こうした経験は、物語だけに許された特権と言っていい。それは、それ自体が快をもたらすものであると同時に、自分自身を拡張してくれるものでもある。
 物語の筋を覚えていなくたっていい。忘れてしまっても構わないと思う。大切な事は、その物語を味わっている間に感じた「奇妙な感覚」、それを忘れないことだ。その奇妙な感覚は、自分の価値観と相容れないものが柔らかに自分の中に浸透してくることによって感じるものである。


 「人はなぜ物語を求めるのか」という本がある。この本には、人は、自分の都合の良いストーリーを現実として認識してしまうと書いてある。そしてその自分が作り上げたストーリー=価値観から抜け出すことで、生きていく上での不安や息苦しさから解放されることができると述べている。
 これも僕の言っていることと同じだろう。確かに物語は、自分の価値観をより堅牢にしてしまうかもしれない。自分に都合の良いものだけを選んでいてはそうなるだろう。しかし一方で、それを変える力も持っている。物語をそのまま受け入れれば、自分の殻から抜け出せるチャンスをくれるはずだ。

 
 自分の大切にしてきたものを手放す事は恐ろしく不安な行為である。それでも、僕たちは生きていく上でそれをせざるを得ない。なぜなら、自分のストーリーに縛られていては、自分が凝り固まり、やがて窒息してしまうからだ。
 物語をありのままに受け入れよう。そして、自分を広げ、より多様で面白い世界を見に行こう。


 最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。


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