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人類学者の日常

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人類学者の日常の振る舞いや雑感についてのエッセイです。
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記事一覧

道端で人骨をみつけた話【人類学者の日常】

道端で人骨をみつけた話【人類学者の日常】

自然人類学を学ぶ授業では,たいてい,レプリカでなく本物のヒト全身骨格を詳細に観察して,スケッチをする骨学の実習があります.自分と同じホモ・サピエンスの体のなかに,どのような形の骨があって,どんな働きをしているのか,こういう機会でもなければ,なかなか知ることができません*1.

道端に人骨が落ちている?さて,今回のお話は,私がそうした骨学の実習を1週間ほどみっちりと受けていたときのこと.いろいろな形

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論文の楽しみ方【人類学者の日常】

論文の楽しみ方【人類学者の日常】

研究者ってなにか、と聞かれたら、どう答えるか?ある分野のことについてよく知っている人、大学の授業をする人、実験をする人、フィールドワークをする人?

研究者とは論文を書く人のことだ、というのをどこかで読んだ。「論文書かなきゃ昼寝してんのと一緒だから」とおっしゃった先生もいた。たぶんそうなのだろう、その定義はしっくり来る。論文を書く、これは大変な作業だ。

しかしその前段階として、書くためには先人達

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カビ臭い書庫から【人類学者の日常】

カビ臭い書庫から【人類学者の日常】

人類学者の仕事場は,実験室やフィールドばかりではありません.それぞれの研究スタイルにもよるかもしれませんが,「はじめに」でtiancun氏も書かれているように,「カビ臭い書庫」も重要な仕事場なのです.今回は,そうした書庫にまつわるいくつかのお話を.

引用が私を思いもしなかった書庫へ連れて行く論文には,著者の実験や調査で得られたデータが示されますが,同時に,そのデータを解釈し意義付けるために,先行

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人類の苦悩と前衛的パフォーマンス【人類学者の日常】

人類の苦悩と前衛的パフォーマンス【人類学者の日常】

 普段生活していて、自分が「人類学者」の端くれであることを意識する機会はほとんどありません。けれど、時にその学問に囚われていることに気づくこともあります。例えばそう、前衛的なパフォーマンスを見た時に。

人類の苦悩を感じた前衛的パフォーマンス シルヴィ・ギエムという、100年に1人と言われるフランスのバレエダンサーがいます。その人が引退すると聞いて、最後の公演に行ってきました。普段ダンスを見ること

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はい、チーズ、【人類学者の日常】

はい、チーズ、【人類学者の日常】

人類学者であるからには人間のことや人付き合いが大好きなのだろうと思われる向きもあるかもしれないが、とんでもない。私は自他ともに認める人見知りのようで、また大勢の人ががやがやしているところはどうも苦手であることに最近気がついた。人に「迷惑」をかけることを恐れて、頼みごとを口に出せないことも、しょっちゅうである。

写真を撮るいつだったか、海外で参加したツアー旅行のようなもので、「先住民の村訪問」とい

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研究者の正義感【人類学者の日常】

研究者の正義感【人類学者の日常】

 先日インターネット上の掲示板で,ある研究者の論文盗用について,気になる(※1)やり取りを見つけた.

「コピペがなぜいけないのか.手間を省いただけだ」

「卒業論文だってコピペだらけじゃないか」

「コピペは少しならいい,全部コピペだからいけなかったんだ」

という意見のやり取りである.

 他社の著作物を「コピペ」するのは是か非か,というのが論点だ.研究論文に「コピペ」は許されない.「コピペ」

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気になっちゃう…【人類学者の日常】

気になっちゃう…【人類学者の日常】

人類学という学問は一般の人から興味を持ってもらいやすいため、ニュースやブログでよく取り上げられています。人類学はメディアに取り上げられるのは嬉しい反面、それを専門に勉強している身としては、間違った話を聞くと気になっちゃうのも事実です。

例えば…

・ヒトはたった1人のアフリカ人女性から始まったんだよね?「ミトコンドリア・イブ」って聞いたことあるし。
(うーん、違うんだなー。Wikipediaにも

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気になるあの子のお口の中は【人類学者の日常】

気になるあの子のお口の中は【人類学者の日常】

まずは,ご自身の口の中に思いを馳せてみてください.どんな形の歯が,何本あるか,即答できますでしょうか…? 鏡でのぞいたり舌でさわってみたり,毎日そんなことをしているはずなのに,私は自分の口の中の歯のことを,人類学の研究をするまでまったく知りませんでした.

永久歯の勉強と実生活への応用はじめは,研究上の必要があってはじめた歯の勉強ですが,学べば学ぶほどおもしろくなってきます.大人であれば,切歯,犬

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ち◯こ野郎の思い出【人類学者の日常】

ち◯こ野郎の思い出【人類学者の日常】

みなさんは、「◯◯学会が開催されました」というニュースを聞いた時、どんな場面を想像するでしょうか?スーツをびしっと着こなした紳士たちが、喧々諤々と議論しているシーン?それとも、白衣にメガネの集団が怪しげな宇宙語で会話しているシーンでしょうか?

学会の実態もちろん、分野によって学会の雰囲気は異なります。しかし、少なくとも、僕が参加したことのある人類学に関する学会では、上のふたつの例はどちらも当ては

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ゴリラ考【人類学者の日常】

ゴリラ考【人類学者の日常】

 ゴリラ,と呼ばれて喜ぶ人はあるだろうか。気分を害する者の方が多いのではないか。

 筆者がゴリラを見た記憶として印象深く残っているのは,小学生のころに校外学習かなにかで動物園を訪れた時である。そのときは一面の強化ガラスの向こうに,大きなオスのゴリラが一頭,のしのしと歩き回っていた。かれは我々子供たちに囃し立てられ,しばらく怪訝そうにしていたが,ついに拳を作ってガラスを叩いたのである。大きな音が響

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