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”あの日の悪夢”を断ち切れ!【W杯 日本vsスペイン レビュー】

"あの日"って?

NHKのW杯中継で流れるKing Gnuの「Stardom」、めっちゃ好き。
メロディー、リズム、常田さんと井口さんの声、でもなにより歌詞が好き。

あの日の
悪夢を断ち切ったならば
スポットライトに何度でも手を伸ばし
続けるから
歌詞を一部引用

この歌詞の"あの日"ってどの日を思い浮かべた?

  • 2021 東京五輪 スペイン戦

画像引用 : 毎日新聞
  • 2018 ロシアW杯 ベルギー戦 「ロストフの14秒」

画像引用 : FOOTBALL ZONE
  • 1998 W杯アジア最終予選 イラク戦「ドーハの悲劇」

画像引用 : 日テレNEWS

候補を他にもあげたらキリがないけど、自分は「ロストフの14秒」を思い浮かべたかな。とにかく悔しい思いを何回もしてきたからこそ、スペイン戦の勝利は格別だった。
きっと日本サッカーを長く深く追っている人ほど、昨日の勝利は嬉しかったはず。何よりドーハの悲劇の当事者(スタメン出場)の森保監督は。

何かコンテンツにハマる時”点”でなく”線”でみる事が、より熱中し「沼」にハマる要因になる。
最近の韓国アイドルなんかはその最たる例で、キツいオーディションを乗り越える彼・彼女達を見てきたからこそファンは「推し活」に夢中になるのだろう。
アイドル達の苦悩から成功、その先を一緒に見守り育って行く過程を楽しむ人達、是非ともサッカーも「推して」いって欲しい。
イングランド代表が今年150周年を迎える中、日本のサッカーはたったの30年!まだまだ短い「線」だからこそ、これから味わう未知の興奮が沢山待っているはずですよ。

ここからは見なくていいです

スタメン

守備から入った日本

伊東は守備的なWBからスタート。相手の両WGには伊東、長友が対応し、モラタには吉田がマンツーマン、さらに2列目の飛び出しに対応できるように谷口、板倉を並べた。無条件で勝ち抜けの為には勝利が必要とはいえ、スペイン相手にまずは守備のリスク管理を優先したように見えた。
スペインが最終ラインで組み立てる時は、積極的にボールを奪いに行くことはせずに、ピボーテであるブスケツを隠しがら5-3-2でボールサイドのハーフスペースを閉じた。

スペインのビルドアップの特徴として、SBが低いポジションを取り続ける事が挙げられる。これは相手のSH(日本であれば久保、鎌田)を引っ張り出すことで、彼らが一番使いたいペドリガビにスペースを与えることができるから。
しかし日本もそこは警戒してか、久保や鎌田は安易にサイドに出て行く事はせず中を閉めていた。

FIFIAが発行する試合後のデータレポートは次のようになっている。

日本(左側)がプレッシャーをかける位置は圧倒的に自陣が多く、ボール奪取までの平均時間もスペイン6.34秒に対して日本は29.76秒。そして最もプレッシャーをかけに行ったのは後半からの出場となった三笘(13回)というのも前半はプレスよりもブロックを敷くことを優先していた証拠だろう。

引きすぎた故の失点

とはいえ、奪いどころが定まらずズルズルと下がりすぎてしまった。
ペドリは初戦のコスタリカ戦から、ボールが受けられない際にバックステップで自陣ハーフスペースに降りる動きを見せており、この試合でもそういった動きは見られた。連動するようにバルデはポジションを上げ、ダニ オルモは中に入る。
6分のスペインの攻撃。パウ トーレスがボールを受けるとペドリが落ち、バルデとオルモがローテーション、田中はオルモを気にして横スライドしたため僅かにガビへのパスコースが開いてしまう。僅かな隙ではあったがペドリの素晴らしいパスが通ってしまった。

こうしたスペースを作る動きと個のクオリティの高さに対応しきれず、日本のラインはどんどん下がってしまった。
その結果11分に失点を許す。日本の右サイド側からの攻撃を跳ね返すが、こぼれをガビにバイタルエリアで拾われてしまう。
谷口はその前の守備で下がっていたためプレッシャーが遅れ、右に開いたウィリアムスとのワンツーでガビにペナルティーエリア侵入を許してしまった。
折り返しは田中がクリアしたものの、またスペインに拾われ今度は浅い位置からアスピリクエタが上げたクロスに、モラタにフリーで決められてしまった。
流石に2回も3回も高い位置でこぼれを拾わてしまうと、いくら人数が揃っているとはいえギャップが生じてしまっていた。なによりアスピリクエタのクロスも絶品だった。

あれ、こんな試合最近みたぞ

早い時間に失点を許し、このままでは予選敗退まっしぐら。にもかかわらず日本は戦い方を変えない。
「何やってんだ!」
「だから森保は、、、」
いやいや、ドイツ戦の時にも感じたけど日本は敢えてこの戦い方を選択しているんだって。前半を最少失点で抑え、相手の出方を伺う。それを踏まえた上で後半の必殺「選手交代」で仕留める。1発勝負の舞台で森保監督の采配は冴えわたっている。なにより選手達が「今やるべき事」を120%理解し、200%の集中力でやれている。
どうやらこの試合の前半は「何が何でも次の一点をやらせない事」がミッションだったようだ。ゴールは奪えなかったがそれでいい。ハーフタイムでロッカーに戻る選手の表情は全く死んでいなかったし、むしろ83%ボールを支配しながらも1点しか奪えなかったスペインの方が消化不良感があったはずだ。

ハイプレス炸裂

後半開始と同時に、やはり森保監督は動いてきた。長友と久保に代わり三笘と堂安を投入。そしてこの日も交代投入の二人が大仕事をやってくれた。
後半からは、スペインのバックパスを合図にハイプレスを敢行。それも、相手がビルドアップで窒息しそうなくらい、次から次へとスペインの選択肢を制限していく。

堂安の得点シーンを振り返ってみよう。

  • 0:04 GKウナイ シモンへのバックパスに、前田が猛然とプレッシング。この時同時に他の選手達もポジションを上げているのがポイント。

  • 0:07 考える暇もないシモンはサイドにひらいたロドリへパスするが、ここにも鎌田がプレッシャーをかけ、選択肢をカルバハルのみに制限する。この時既に三笘がカルバハルに寄っている。

  • 0:09 カルバハルがトラップをしてヘッドアップする頃には三笘はもう目と鼻の先に到着。しかも鎌田も連続してプレスに来ているため、二人で挟む格好に。

  • 0:11 なんとかサポートに入ったロドリに戻すが三笘がまだ追ってくるため、ロドリはシモンへ。

  • 0:13 シモンはサイドを変える方向にトラップするが、そこには既に堂安が構えている。さらに後ろから前田が来ているため、向きを変える余裕はない。

  • 0:15 ロブパスで大外のバルデに逃げようとするも、伊東がマークを捨てて飛び出して来る。パスもふんわりとしたものだった為、伊東が間に合う。

  • 0:19 伊東のプレッシャーが気になったのか、バルデのトラップはミス。浮いたボールに伊東が競り勝ち、こぼれを堂安が拾う。「俺のゾーン」から見事なシュート。→ゴール

たった15秒にも満たない間に、これ程の緻密なアクションが詰まっている。しかも伊東が競るまで、日本はボールに触っていない。しかしこの間"攻撃"をしていたのは誰が見ても日本。
ボール保持≠攻撃という現代サッカーを体現したようなゴールで日本が同点に追いつく。

流れは逃さない

スペインが態勢を立て直す間を与えず、日本は一気に攻勢をかける。ドイツ戦の時もそうだったが、良い時のチームは11人がまるで一つの生命体の組織のように機能する。
GKのロングパントを田中が拾い、一旦伊東に預け、ハーフスペースで受け直す。フリーで受けた事でバルデが堂安のマークを捨て、そこを見逃さずに堂安へ。
1点目とほぼ同じ角度だったが、堂安は今度は縦を選択。バルデの股を抜けるグラウンダーのクロスを供給。前田は触れなかったが、三笘が決死の折り返し。GKとカルバハルは前田の対応で釣りだされ、ロドリはセルフジャッジをしたのかプレーを止めていたため、諦めずに突っ込んできた田中が押し込みゴール。諦めない心と見事な集中力が実った瞬間だった。

怒涛の反撃?いやそれほどでも、、、

裏のドイツvsコスタリカでコスタリカが逆転した情報が入ると、ルイスエンリケが鬼の反撃に出る。日本のトラウマ、アセンシオを投入し、モラタよりも深い位置で攻撃の起点にし、フェラン トーレスに幅を取らせる。さらにペドリは深い位置に留まり、ジョルディ アルバは高い位置でこちらも幅をとった。アンス ファティは10番的役割で積極的にペナルティーエリアに侵入しようとし、オルモはガビに代わり8番のポジションに入った。最後の方ではフェランが中に入りアセンシオは右のカットインから左足のシュートを狙ってきた。

めっちゃ攻めてきた感じだが、日本が逆転してから打たれたシュートは実は6本のみ。そのうち枠内は2本だけで、xGも合計0.30。後半4本のシュートで合計1.33を記録した日本と比べると如何に質の低いシュートだったかが伺える。
要は日本の守備が硬かったということ。89分まで枠内シュートを打たせず、権田のセービングも安定していた。

とどめの3点目を奪う事は出来なかったが、このまま逃げ切り勝利でEグループ首位通過を決めることができた。

俺達は知っている

前評判を見事にひっくり返しての首位通過となった訳だが、一番の要因は吉田をはじめとする選手達の集中力ではないだろうか。
4年前、14秒あれば1点決められてしまうサッカーの恐ろしさを知ったことで、一発勝負での集中力と、例え先制点を奪われようとも簡単には崩れない強さを手に入れた。
逆に後半45分もあれば、もっというと10分あれば2点とって逆転できる事も、身をもって証明してみせた。
逆転できると信じられるから、辛い時間も全員で同じ方向を向ける。流れがこっちに傾いた瞬間を逃さず、全員で刺しきる。死の組と言われたEグループでの2試合の成功体験はきっとこの先のクロアチア戦でも武器となるはずだ。

次の相手は前回準優勝のクロアチア。だけど今の日本にとってはビビる相手ではないはず。

さあ、新しい景色を見せてくれ!


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