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読書感想『もう一度 』(新潮クレスト・ブックス)

『もう一度 (新潮クレスト・ブックス)』トム マッカーシー (著),  栩木 玲子 (翻訳) 12冊/106冊

何らかの事故によって記憶を失った主人公。その事故について一切口外しないことを条件に、一生遊んで暮らせるような多額の賠償金を受け取る。これまでの記憶を喪失した主人公は、記憶以上に何かを失なったように、喪失感を抱きながら暮らしているけれど、あるときお風呂場のひび割れた壁を見て過去の人生がよみがえる。
それは情報としての記憶というより、日々を生きている実感のようなもので、主人公は得たお金を使って、人を雇い、舞台のセットのように過去の人生の再現を試みる。「生きる実感」を渇望するあまり、再現にとどまらない狂気に突き進んでいく。

読んでいる途中、何度も宝くじ6億円あたったら、と想像してしまって読む手が止まった。この物語はかなり極端でシュールでユニークだけど、「生きる実感を得たつもりになるためにお金を使う」って、実際世界中で多くのひとが行っている。その皮肉さがイギリス小説らしさかと思うと憎い。


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