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女子100mハードル 「メダルの価値を決めるのは自分」 ケニー・ハリソン(米国) 

 女子100mハードル、12秒20の自己記録を持つ前世界記録保持者のケニー・ハリソン、12秒12の現世界記録保持者のトビ・アムソン、東京五輪金メダルのカマチョ・クインなど群雄割拠のレース。それを制したのは、ジャマイカのダニエル・ウィリアムズ。好スタートを切り、12秒43で逃げ切った。2位はカマチョ・クインで12秒44、ケニー・ハリソンは12秒46で3位に入った。

 ハリソンの世界大会の結果をみるとメダル常連になってきている。金メダルまではもう少しのところまで来ている。

2016年リオ五輪      代表になれず
2017年ロンドン世界陸上  4位
2019年ドーハ世界陸上   銀メダル
2021年東京五輪      銀メダル
2022年オレゴン世界陸上  決勝でDQ
2023年ブダペスト世界陸上 銅メダル

 レース後に報道陣に「望んでいた色のメダルではないと思いますが」と聞かれると、キリリとした表情でこう答えた。

「メダルはメダル。これは自分にとって価値があるメダル」
 
 
質問したリポーターははっと息を飲んだ。

 金メダルを一番欲しているのはケニー本人だ。そしてそれが本当に難しいことを知っているのも彼女だ。
 ケニーの武器は集中力、そして弱みは大一番で緊張して、自分を見失うことだ。メダル候補だったリオ五輪は、全米五輪選考会で敗れ、代表落ち。それから数週間後のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で(当時の)世界記録を出し、「プレッシャーがない試合では強い」と揶揄された。
 経験を積み、メンタルを整える努力をし、一戦一戦大事に戦ってきた。その成果は確実に出ており、世界大会でメダルを取れるレベルになった。

 今大会では
 予選  12秒24
 準決勝 12秒34
 決勝  12秒46
 
  コンディションも異なるので単純比較はできないが「決勝は肌感覚では(実際のタイムよりも)速く感じた」と話し、その理由を「プレッシャーのせいだと思う」と説明する。決勝ではハードルにぶつかるまではいかないが、何台かかすった。「体が硬かったんだと思う」と振り返る。
 
 予選のタイムや結果だけを見たら「もっといけるのでは」と思うかもしれない。しかしプレッシャーを感じながらもレースをまとめたのは大きな成長だ。特にハードルにかすりながらもパニックにならず(以前ならパニックになってボロボロになっていた)冷静に一台ずつ対処したのは今後につながるだろう。
 
 今季から名将ボブ・カーシーに指導を仰ぐ。カーシーコーチには「レース中にゾーンに入るな。10台あるハードルを4台ー3台ー3台に分けて、きちんと切り替えて走るように」と言われている。
 スタートからの加速面、トップスピードに乗る部分、そしてトップスピードを維持する部分という考え方なのではないかと思う。またケニーが集中しすぎてハードルにぶつかった時に対処できなくなる(いわゆるパニック)にならないように、熱さを持ちつつも冷静に、という指導なのだろう。
 まだ指導を受けて数ヶ月だが「今季は全レース12秒5以内で走れている」と話すが、安定感は確かな自信に繋がる。
 またカーシーコーチのグループは年下の選手も多く「皆、練習中も明るくて楽しそうで。リラックスすることを学んだ」と効果を話す。
 
 2017年に練習取材をした際、人見知りで緊張する性格なのかあまり話は弾まず、練習パートナーの400mハードルのコリ・カーター(ロンドン世界陸上金メダル)が一所懸命ケニーのフォローをしてくれた。取材スタッフみんなが楽しそうにしていたせいか、ケニーも徐々に心を開いてくれた。彼女はエンジンがかかるまで時間がかかるタイプなのだなと思った。
 
 大きな舞台でもそうなのだと思う。自分がいるべき場所と感じるまで時間がかかるのだろう。
 少しずつ、1台ずつ。1戦ずつ。
 人より時間はかかるけれど、成長している。昨日の銅メダルはその成長の証になった。
 


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