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◇配信前夜のエッセイ5――禁断のプレイ実況動画

ゲームの記憶
 自分でそのゲームはしないが、誰かがそれをプレイしているのを見ていたい、という人の気持ちはよくわかる。私の場合、ゲームセンターにある大方の「体感型」ゲーム、とりわけ音感やリズム感が必要となるような類は、もう見ているだけで十分満足できてしまう。
 誰かがゲームをプレイしている画面――。家庭用ゲーム機で「2PLAY」ができるソフトでも、対戦や同時プレイの形式でなければ、待機中に相手のプレイを横で見ている場合も多いだろう。それも「1PLAYER」は画面に向かって左側に、「2PLAYER」は右側にと、それぞれ定位置が決まっている。あるいはそこで三人目四人目は黙々と部屋にあるマンガを読み出す……それも「みんなで遊ぶ」ことにちがいないが、何人かで一人がプレイしている画面を見てワイワイするのも楽しいものだ。

 私にとって思い出深い『プロ野球?殺人事件!』(ファミコンソフト、カプコン)は、きっとそんなふうに複数人で遊ぶということに、まったくもって向いていないタイプのゲームなのだ。三人寄れば文殊の知恵だと、複数で協力して謎解きができればそれに越したことはないのだろうが、この「アドベンチャー&ロールプレイングゲーム」の地道な捜査にいちいち寄り添い一緒に知恵を絞ってくれるような、そんな奇特な人間がはたしているのかどうか……。
 元プロ野球選手の主人公がどこかの町を延々さまよい歩くところ。球場など関係各所をしらみつぶしに探索するところ。改めてそのあたりの記憶を探ってみて、そんなものを忍耐強く眺めていられる小学生などいたかどうか。世界を旅してモンスターたちとの戦いに明け暮れるといったオーソドックスなロールプレイングゲームでさえ、みんなで遊べるかはあやしいものだ。しかもこちらは謎解きの要素が多く遅々として進まず、敵が全国の警察官ときている。プレイは長期間に及ぶことが予想され、バッテリーバックアップ方式が採用されているのも肯ける。

実況動画
 私はそのときそこで、小学生同士で集まって別のゲームソフトで遊び、みんなと別れた後に一人、常に「行き詰まった」状態から捜査を再開したのではなかっただろうか……? この思い出深いファミコンソフトと一対一で向き合って。
 私が実際にプレイしたのは小学校時代、いまから30年近くも前のことだ。当時の記憶は修復の途上にあるとでもいおうか、自力でどこまで進めたか(どこで断念したか)、「プレイ実況動画」をじっくり視聴してみても、当時の状況になかなか確信をもてずにいる。
 スタート地点の横浜を皮切りに、犯人捜査で現地を探索する全国11球場7都市のうち、名古屋か広島あたりで行き詰まったかと、自らの過去を検証する。つまり関東5球場4都市では、小学生一人でもどうにか対処できていた、と。「動画」初見時の衝撃と感動(?)は、前々回に紹介した「すぴんおふ4」というエッセイ作品(電子書籍に収録予定)に詳しく書いていますので、そちらもぜひ!。

 この過去の検証を難しくしている原因としては、どの時点においてか、私はおそらく(これまでひた隠しにしてきた事実として)攻略本を購入し、再び捜査に復帰しているのだ。これも記憶があいまいながら、そうとしか考えられない。
 自分のことを棚に上げていうのも何なのだが、某投稿動画サイトを視聴していると、冒頭の横浜ステージの「クリア条件」だけでもかなりの難関で、自力で達成しているかどうか怪しい動画がいくつもある。それを疑わせる、ゲームのまともな進行ぶりと適度な再生時間……。純粋な目をした(私もそのうちの一人である)当時の小学生たちを前に、「便宜的措置」とか「非常手段」とか「情報の割愛」といったテクニカルタームについて、胸を張って説明することができるだろうか(?)。
 やはりこのゲーム、それ本来の「プレイ感」――まるで先を見通せず、何度となく行き詰まり、町を放浪することを余儀なくされる――をまともに実況中継するには、だいぶ無理があるのかもしれない(ゲーム開始直後の時点で、自宅に戻るだけで20分以上も掛けた正直な方の実況動画に、とても真実味がこもっていて私は大いに共感いたしました)。

 攻略本の存在がふと頭をもたげたのは、とある動画を見たときだった。ルート上は広島訪問後、いよいよ大阪の地に足を踏み入れることになるが、やっと辿り着いたかと思えばそこは完全な「敵地」。動画から現地での主人公の絶望的状況が存分に伝わってきて、私は懐かしさとともに当時の苦労を追体験することができた。
 現地では市民の誰に話しかけても、

「くんくん ガンアンツの においが
 するで!!こんにゃろー!!ボカボカ!!」

 と、まったく会話に応じてくれない。これまでは、道端やらレストランやらホテルやら、どこへ行っても見ず知らずの市民に話しかけ、どんな些細なことでも聞き出し情報を得ようとしてきただけに、本当にトラウマになりかねないほどショックを受けた。弁当屋で弁当を買おうにも、スタンドで新聞を買おうにも、新大阪駅のきっぷ売り場でも同じ言葉を浴びせかけられる。ずっと歩き回っているうちにライフポイントが減り続ける一方、回復手段となる宿泊施設や飲食店ではカウンターで殴りかかられる始末。

 動くものすべてに話しかけてみた挙げ句、埋め立て地の人工島らしきところにいる野良犬との会話だけは、

「きったねーのらいぬだな。」
「ぐるるる……」

 と、唯一パターンがちがってハッとさせられる。がしかし、ただそれだけのことであり、クリアには何の役にも立たない。ライフポイントが尽きかける頃には、疎外感からか、無感動になっている自分に気づく。
 このプレイの感触がとても懐かしく、過去に一度はこれを実際に味わっていると確信する。では、初めて大阪を歩き回ったとき攻略方法がわからずにいたということは、もしや当時私は、現地まで自力で辿り着いていたのだろうか。これが30年近く経って湧き出した疑念であり、過去からの宿題であり、「思い出迷子」からの脱出の鍵となるやもしれない……(ただし残念ながら、本件はいまだに解決がつかずにいる)。

攻略本を探せ!
 本編の執筆当時、某投稿動画サイトでゲームの実況動画もいろいろ見ていたが、同時に攻略本のことも気になっていた。そこで私はある日、攻略本を一目見ようと、勇んで上野へと向かったのである。
 ゲーム内の東京ステージでは、ドーム球場や「じんぐうきゅうじょう」を始め、皇居らしき場所から靖国神社、青山墓地などもマップ上に再現されているものの、上野公園はなかったように思う。現実の上野公園内の片隅に建つその歴史的建造物、前身は帝国図書館たる旧上野図書館、現「国際子ども図書館」は、児童向け資料を収集する国立国会図書館の支部館だという。するといよいよ、国会図書館東京本館の場合と同様、カバーを外した状態で書庫に保存された『プロ野球?殺人事件!必勝攻略法』(双葉社刊)にお目に掛かる機会がやってきた(どうもお世話になりました!)。
 全ステージのマップ付で、横浜と東京と大阪のステージでは下水道ダンジョンまで載せている、まさに禁断の書である。検索サイトで調べた結果だが、何か隠された宝でも見つけ出したような気分なのだ。ともあれ、今月で発売30年を迎えた同ファミコンソフトは、今後も一部で語り継がれる存在であり続けるだろう。これである種の思いは遂げられたとはいうものの、肝心の攻略本の記憶の件はどうかといえば、「よくわからない」という状態に留まっている。

 そしてここに、【2018‐2019限定無料公開】と銘打ちまして、明日12月27日より、新刊電子書籍収録の表題作中篇「プロ野Qさつじん事件」の無料公開(分載)をスタートします!

 なお、今後はもう1冊「プロ野球小説」が電子化される予定となっています。そちらは文芸誌発表分の中篇に300枚ほど加筆した、著者最長長篇でお届けいたします。乞うご期待!