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「対話型鑑賞」で巡る旅の可能性/開催レポート

みなさん、こんにちは。淡路島在住のファシリテーター、青木マーキーです。昨日まで「対話型鑑賞」で巡る淡路島という小さな旅のファシリテーターをつとめ、無事終了。今日は朝のんびり起きて、窓に映る紅葉を見ながら余韻に浸っています。ご参加いただいた皆さんといっしょに、淡路島を北から南へ移動しました。

眺めのよいアート山で集合

まずは、淡路島の北に位置するアート山 大石可久也美術館に集合。この美術館は淡路島で生まれ育った画家・大石可久也先生の作品を中心に展示されている手作りの美術館です。集まった皆で自己紹介からスタート。
「対話型鑑賞は本では読んだことはあるけど、体験するのは初めて。楽しみで来ました」「アートは好きだけど、ひとりで見て回ることが多く、誰かと対話することはなかった」「青木マーキーが新しいことをやるというので来てみました」などなど、それぞれの動機や気持ちが話されます。

淡路島の東海岸にあるアート山美術館は、午前中の眺めがとくにオススメ

対話型鑑賞を楽しむための「4つのお願い」

最近、対話型鑑賞を習得すべく勉強中のファシリテーター・青木マーキーから、対話型鑑賞を楽しむための4つのお願いを提示。作家が心を込めてつくった作品を、敬意を込めて、すみずみまでよく見ること。いろんな角度から作品をたっぷり味わうこと。自分が感じたことや考えたこと、気になったことをお話しすること、そして、誰かが話しているときには、それらを丁寧にきくこと、この4点をお伝えしました。今回は、淡路島在住の彫刻家・久保拓也さんの彫刻作品を見てまわるのが主眼ですが、その前に、久保さんが淡路島の大先輩と仰ぐ大石先生の絵画を味わう時間をとります。

角度を変えて、じっくりと作品を味わう参加者

どんな感じがしますか?

対話型鑑賞を教わった時、ファシリテーターが発する一つ目の問いの重要性を痛感しました。いろいろ悩んだ末に、今回は「この作品を見て、どんな感じがしますか?」という問いからスタート。すると、「楽しそうな感じがする」とか「音が聞こえてくるような作品だ」とか「波やしぶきや鳥から動きを感じる」といった声があがります。それぞれに声に耳を傾け「それはどんなところから?」と、絵のどのあたりからそれを感じるのかを伺っていきます。ある参加者から「これは、僕が20代のころの原風景です」という声が聞こえてきました。なんと、この絵は、大石先生が北海道の礼文島という島にいった時のものですが、偶然にもこの男性が15才のころから20代にかけて、礼文島に通っていた経験があったそうです。「あのへんの岩じゃないかと思っていた」と語る男性。奇遇にもたまたま対話型鑑賞に選んだ作品は、ご参加いただいた方にとって、縁深きものだったのです。うーん、なんだかうれしいな。

触れる・座る・鑑賞する

いよいよ次は、彫刻家の久保拓也さんの作品の鑑賞です。このアート山美術館には、入り口に久保さんの代表作・チェアマンが3体並んでいるのです。久保さんご本人に了承を得て「どうぞ、作品には触ったり座ったりしてください」と言われていたので「遠慮なく作品に触れたり座ったり、上や下から眺めたりして、たっぷり味わってください」とお伝えしてからの、対話タイム。すると「固い素材なのに柔らかい印象がある」とか「この4つの足で、ふわふわ動きそう。とくに夜中に移動しているんじゃないか」「背中と座面とで触りごごちがまったく違う」「風化してひび割れたところが顔のように見え、いったんそう見えると3体とも顔がある感じがしてきた」などの声が聞こえます。ある参加者が「このチェアマンは何を見ているんだろう?」と気になったことを話してくれました。皆で、チェアマンに腰掛けて、目線の先を確認します。淡路島で一番眺めのよいミュージアム、アート山の魅力がたっぷり味わえる位置に、配置されていたようです。

作品に触れたり、座ったり、後ろに回ったりしていろんな角度から味わうことができるのが彫刻

あとから作家に直接聞けるツアー

今回の「対話型鑑賞で巡る淡路島」では、日中たくさん作品を見たあとに、夜、作家さんとお食事をかねた交流会の時間をご用意していました。なので、疑問に思ったことや、作家に聞いてみたいことは、質問リストをためておいて、あとで聞くことができます。「この3体の位置は、久保さんが決めたのだろうか? それともアート山をつくった大石先生が向きも含めて指定した?」「この作品はかなり重量がありそうだけど、ここで作ったのか、運んで来たのか? 運ぶとしたら、どうやって?」という素朴な疑問などは「あとから聞きたいこと」として、夜のお楽しみにとっておくことができます。そして日中は、この作品から感じること、味わえることを交わし合う時間をメインにとりました。

まちを歩くと彫刻に出会える

淡路島の中心のまち・洲本には、久保さんをはじめとする何人かの彫刻家の作品が配置されています。「ここに、こんな作品あったのか?」と普段スルーされている作品も、対話型鑑賞では、そこに立ち止まり、しっかり掘り下げ、おしゃべりしたり、角度を変えたり楽しむことができるのです。そういう意味では、対話型鑑賞は、埋もれたまちの魅力が再発見できる手段とも言えます。

洲本には狸の伝説があり、洲本八狸として個性ある8匹の彫刻が配置されている/お酒が好きな升右衛門

ぐるりと町を歩いた後は、洲本市役所の最上階・展望ロビーへ。なんと、ここには、旧洲本市役所を支えていた土台の杭をつかった久保さんの作品が展示されているのです。「洲本市民だけど、ここに作品あるのは気がつかなかった!」という声も。そうなんです。市役所や市の公会堂には、絵画や彫刻といった作品が置かれていることが多いのですが、多くの市民は素通りするばかり。僕は何度かそういう作品で、対話型鑑賞をしたことがあるのですが「うちの市役所に、こんな素晴らしい作品があったなんてまったく気がつかなかった」とか「我が市ゆかりの作家さんのことを深く知ることができて、誇りに思った」という声を聞くことも、何度もありました。市民のお金を使って買ったり飾っている作品も、放置したままだと、その意味や価値を発揮しないことが多いように感じます。作家に経緯を払い、作品をたっぷり味わうプロセスを通じて、まちのことをもっと知ることができるかもしれません。

市役所の最上階にあるチェアマン。木目が美しく、旧市役所を長年にわたって支えてくれた松の木杭に感謝の念が湧いてくる

買い出しすませて個展へ行こう

夜の食材をまちなかで買い出して、久保さんの個展会場へ向かいます。ちなみに洲本市内にある直売所・美食菜菜館(みけつさいさいかん)は、洲本市役所にも近く、洲本周辺の農家さんが丹精込めて作った農産物がたくさんあるのでオススメです。ここでネギや淡路鳥や太刀魚の干物などを買い込んで、夜の懇親会場、もとい久保さんの個展会場・日の出亭に向かいます。

たっぷり味わい、それらを語る


会場につくと久保さんが手がけてきたここ20年ぐらいの作品がたっぷり。コンクリートの作品や、石の作品、木の作品、なかには来場者が配置をかえたり動かしたりすることで変化する参加型の展示などもあり、皆、久保ワールドをたっぷり味わいます。個展会場は1Fと2Fに分かれていたので、1Fを比較的自由に散策し、2Fにある「108」という作品で対話型鑑賞を展開することに。日の出亭のロング・カウンターを活かした無数のチェアマンが並ぶ作品を前に「これは、一人の人間のなかに複数の人格がいるという話か、世の中には実に多様な人々がいるよね、という話なのか」などといった声が聞こえました。最後に、鑑賞を終えての感想を聞くと「一人では素通りしてしまうような視点も、他の方の発言から作品を見つめ直すことで、より深く作品に親しむことができた」「同じ作品を見ても、自分とは違う見方があるんだ、ということに驚いた」「うちの若い社員とかでも、自分の意見や、自分が考えたことを表現するのに抵抗がある、という声を聞くことが多い。こうやってアート作品を対話型鑑賞することで、自分が感じていることを話していい、っていう雰囲気をつくれるのでは」といった感想も聞かれました。何より「このメンバーで1日かけて久保さんの作品を見ることで、より作家のことが好きになった」という声をきくこともできて、僕としては、「好きなものを共有することができた」という素直な喜びがありました。

多数の個性的なチェアマンが一直線に並ぶ「108」という作品を最後に鑑賞

地酒とともに夜は更けて


そうこうしているうちに、作家の久保拓也さんがご到着。日中見て回った作品の感想や作り方に運び方、誕生秘話などを伺ってより深く作品や作家、あるいは淡路島自体について知ることができた夜でした。直売所で買ったネギと鶏肉でネギマをつくって焼いてくださる参加者も登場し、大いに盛り上がりました。ネギマ、美味しかったな。
こういう感じで1日かけて、作品や作家、そしてそれを生んだ土地のことを味わうことができるって、なかなか贅沢なことだなぁ。

淡路島の地酒・千年一を飲みながら参加者と語る久保拓也さん

対話型鑑賞を巡る旅の可能性


対話型鑑賞を巡る旅の可能性とした感じたのは以下の点です

1,対話型鑑賞をすることで、より深くその作家・作品のことを味わうことができる
2,旅と組み合わせることで、作家や作品を生んだ土地の魅力や風土を、味わうことができる(地域からすると、その側面をアピールすることができる)
3,ただ観光で訪れる旅と違って「アート作品を鑑賞する」という共通点体験をともなって滞在することで、豊かな横のつながりが出来たり、特別な旅になる
4,旅人がもたらす喜びの声や感動が、土地の人を元気にする
5,個展や企画展をきっかけに高付加価値のある旅企画を打つことができる、宿泊ニーズが増えたり、長期滞在を促すきっかけにもなる

うん、なんか他にももっとありそうだな。もう何回かやってみて、対話型鑑賞の可能性をさらに深めて見たいと思います。もしもこの記事をごらんの方で「うちの地域で対話型鑑賞で巡る旅を企画してほしい」などのお声がありましたら、こちらのメールまで、お気軽お問い合わせ下さい。僕は、対話型鑑賞をきっかけに、日本中・世界中を旅してみたいと思います。まだまだ勉強中なので、どんなに辺鄙なところからのご依頼でもOKです。

そして、僕が住む淡路島でも、もうあと何回かやってみて、感触を掴みたいと思います。次なるテーマは写真家・山田脩二さんを予定しています。山田さんは日本中の建築や風景を撮り、「日本らしい風景をつくる必要がある」と瓦の産地・淡路島に移住して、瓦師になった稀有なお方。僕の義父でもあるのですが、まだお元気なうちに、脩二さんゆかりの作品を訪ね、彼のパワフルな写真作品を鑑賞して、夜は一緒に酒を呑むという企画を考案中です。こちらも参加希望の方は上記のメールまでご連絡下さい。その方が参加しやすい日程で企画しようと思います。多分、来年の春から初夏に開催予定。関心あればぜひ。山田脩二さんがどんな人かについては、以下の対談が読みやすいかな。


というわけで、対話型鑑賞で巡る旅の開催レポートと、その可能性についてのメモでした。皆様、最後までご覧いただき本当にありがとうございました。対話型鑑賞にご協力いただいた久保拓也さん、淡路島アートセンターのみなさん、アート山大石可久也美術館のみなさん、本当にありがとうございました。またやりましょう。

同じ方向を見ている人も、違う方向を見ている人も、ともに対話することで何かつかみあえるかな


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