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もったいない。バカじゃないのか。抱かれればいいのに。いい男に【読後感想】千葉雅也『デッドライン』

2019年
 シビレル本
 純文学
 80点
 3.5h

『私の恋人』に近い。そんな感想が浮かんだ。はっきり言えば、難しい。
だからということもあるが、読み終わってすぐに再読した。1回目は75点にした。たぶん次はもっと楽しく読めることだろう。次はきっと85点だと思う。そんな小説だった。

余談だが、下に貼り付けた『私の恋人』の記事について。
驚いたのは、これを書いたのは、わずか2か月と少し前の話らしい。読み返したが、よかった。自画自賛もどうかと思うが、とにかく僕はね、この記事はお気に入りのひとつだ。しかし、ずいぶん昔のことだと思ったんだ。ま、そもそもnoteをはじめて3か月と少しだから、当たり前の話と言えば、そうなんだけど。

よかったら読んでみて欲しい。ある意味自信作だ。いい記事になっている。というか、僕の偏愛があるだけで、とにかく楽しく書けたんだ。そのことはよく覚えている。

さて、ここからは『デッドライン』について。千葉雅也の小説デビュー作で、芥川賞候補作となった本作。ちなみに千葉さんは、今期も『エレクトリック』でも候補作となっていた。残念だが受賞は叶わなかった。彼は、哲学者らしい。僕は初読みだった。

ま、そんな背景云々、気になる方は他で調べてみて下さい。僕はね、正直あんまり興味ないんだ。別に背景を知ったところで作品が良くなることも、悪くなることもないからね。

で、『デッドライン』ですよ。冒頭繰り返しですが、難しかった。初読は、追いていかれた笑

でも、内容云々よりも、とにかくめちゃくちゃ飛びぬけてイイところがあった。専門すぎた。哲学なのか、ある意味てんこ盛りで、登場物もごっちゃになった。もちろん場面もそうだった。

でも、先頭に突き放されても、ちゃんと完走しよう。そしてすぐに再読しようと決めていた。そのくらい、よかったのだ。

そのかいもあって、2回目は1回目よりだいぶ楽しめたし、だいぶ読めた。

付箋、めちゃくちゃ貼ったんだけど、引用するの止めようかな。この記事を書きながら、そんな気持ちになった。

紹介が、定量的なプレゼンが、難しい小説だ。いいから読んでみて!
たぶん、そういう類。

また、文体にかなりクセもあった。と僕は思ったね。句点を連続して、かなり長い文にしていた。

アングラといっていいのか、ゲイの、でも平然とカムアウトしている主人公。名前はない。〇〇と書かれたところには気持ち悪さがあったが、ゲイの性交渉が、ゲイのルールが、よく書かれていた。

涼しい顔して(そんな描写はないが、かなりクールにすましている感はあった)、けっこうグロイ。グロイ?
いや、エグイ。の方が近いかな。

難しさ、という点は、主人公のゼミの先生の講義にある。この点、自己満足だと思った。こんな専門的なこと平然と書いて、僕たちがよく理解できないだろうことも、分かっていて書いている。確信犯的。この言葉の使い方はあっているかな?汗

難しいんだよね。本筋じゃないところなんだけど、でも、それが段々よくなってくる。講義受けている感が、ある。

分かってくる、分かってきたような感じがして、楽しくなってくる。

 ある近さにおいて共有される事実を、私は「秘密」と呼びたいと思います。
 真の秘密とは、個々人がうちに隠し持つものではありません。具体的に、ある近さにおいて共有される事実、それこそが真に秘密と呼ばれるべきものなのです。
(中略)
 つまり「なる」ということが、主観と客観の手前なのでしょうか?
⇒まさしくそうです。
 ただし、自己と他者が「同じになる」のではありません。あくまでも荘子は荘子、魚は魚なのであって、にもかかわらず、互いに相手に「なる」のです。
 そして、あの「胡蝶の夢」は知っていますよね、~

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋

ここの話じゃないが、改行にもクセがある。いわゆるルールを無視して、自由に書いてある節がある。文章は句点でおわり、改行し、その続きから始まる。「 」内の改行も多めだし、「 」内「 」なんかも、そうだな。

主人公は、哲学とは何をすることなのかを、こう説明した。

概念を純粋に、中途半端にではなく純粋な意味で捉えることが大事で、哲学とはそういうことなんだ。「純粋」っていうのは、「極端に」ってことだと思えばいい。哲学とは、要するに極論なんだ――まずそう言い切ることにした。
「だから、偶然というのは、極論で言って、まったく何の理由も意味もないのだということになる」

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋

ね、ムズイっしょ汗

そうだ、千葉さんは、村上春樹が好きなのかもしれない。それか海外文学。ま、後者かもしれないね、でも、渇いているし、どこかニヒリズムが見え隠れしているんだ。そう感じた。

ああ、そうそう、たとえばここよ。

 ある日、書斎にいるときに父から電話がかかってきて、ほとんど前置きもなく、
「お前さあ、周りにゲイだって言ってまわってるのか」
 と怒った口調で言われた。「言ってまわる」だなんて悪し様な言い方だし、きわめて不快だ。何を言われようと突っぱねなければならない。続けて、ママが参ってるんだと言う。
(中略)
「言ってるよ」
「冗談だったと言いなさい」
 とんでもない。僕は激昂した。
「なんで嘘をつかなくちゃならないんだ、ありえない」
 怒りをぶちまけると、父は急に弱腰になり、ミュージシャンの誰それも両刀だって言うしな、などと言葉を濁し始める。結局その電話がどう終わったのかは忘れてしまった。気をつけろよとか、曖昧な忠告が最後に添えられたような。とにかく父にとっては、妻が落ち込んでいるのが問題なのだ。

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋

ねえ、どう?
ううん、なんか適切な抜粋でもなかったかも汗

小説を読んでいるというより、論文を読んでいる感じもあるんだよなあ。そこで、ハッとされるような箇所に付箋も貼っていた。

もしかしたら、僕はけっこうこういうのがスキなのかもしれない。

『千のプラトー』によれば、人間/動物という対立は、マジョリティ/マイノリティという対立を含意している。人間とは、支配的なマジョリティである。西洋の言語では、しばしば人間を表す単語は「男性」も意味する。人間の支配から逃れて動物になる。それがひとつ。そしてまた、男性の支配から逃れる「女性への生成変化」がある。それがもうひとつ。
 人間=男性に対するマイノリティとしての、動物と女性。
「ドゥルーズは、生成変化を言祝いだわけです」
(中略)
 どう生きるか。という素朴な問いがのしかかる。それまでの僕に生き方の悩みがなかったわけではない。大学に入って一人暮らしを始め、実際に同性愛を生きるようになって、不安を感じるときに現代思想は助けになってくれた。世の中の「道徳」とは結局はマジョリティの価値観であり、マジョリティの支配を維持するための装置である。マイノリティは道徳に抵抗する存在だ。抵抗してよいのだ、いや、すべきなのだ。そういう励ましが、フランス現代思想のそこかしこから聞こえてきたのだった。
 だがその励ましは、男が好きだという欲望に対する外からの弁護みたいなものであって、僕は僕自身のありようを掘り下げて考えていたわけではなかった。
 僕は何を「言祝ぐ」のか。僕自身の欲望を内側からよく見なければならないのだ。ドゥルーズを通して。

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋

長っ!ww

あとね、先生のセリフがスキ。
引用する。

「論文というのはチャーミングでなければなりません」
とか、「少女の尻尾を探すんです」こんなところ。

もちろん、僕の言葉もよかった。

 僕の体は遅い。ノンケの友人たちは、僕とは絶対的に異なる速度で生きているかに思えた。安藤くんやリョウや篠原さんと同じく、Kもノンケなのであって、彼らは僕を無限の速度で引き離していく。安藤くんの眼差しのまっすぐさ。あれは速度なのだ。無限速度。だが僕の眼差しはカーブする。それどころかカーブしすぎて引き返し、眼差しは僕自身へ戻ってきてしまう。僕の眼差しは釣り針のようにカーブして男たちを捕らえ、そして僕自身へ戻ってくる。
 僕は、僕自身を見ている。
 そしてこれは僕だけのことではないと思う。男を愛する男は多かれ少なかれそういうものじゃないかと思う。男を愛する男の眼差しはカーブし、その軌道で他の男を捕らえ、自分自身に戻ってくるのだ。

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋

これに近いが、ここもスキだった。

 動物は早い存在だ。動物は身体に対する余計な自意識がない。というのはノンケの男と同じ。ノンケはこの意味で動物的なのだと僕は思っている。
 荒々しい男たちに惹かれる。ノンケのあの雑さ。すべてをぶった切っていく速度の乱暴さ。それは確かに支配者の特徴だ。僕はそういう連中の手前に立っていて、いや、その手間で勃っていて、あの速度で抱かれたいのだ。批判されてしかるべき粗暴な男を愚かにも愛してしまう女のように。

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋

ね、ヤバいっしょ。

長くなったし、気がつけばけっこう抜粋したねえ汗
なんだったのだ、あの、あんまりしないようにしよう宣言はww

さいごに、なんでもないセリフなんだけど、ちょっといいなって思ったとこを抜粋する。

 映画はね、何が見えるかを書くのが難しいってね、よく言われるよね。見たいものを見ちゃうから、実際には映ってなくても。感動しましたとか言う人がいるけど、「感動」なんてスクリーンのどこにも映ってないからね。

千葉雅也『デッドライン』本書より抜粋


ここまで読んでくれてありがとう。で、いったいどんな話だって? なんて野暮なこと聞かないよね。たぶん、純文学って、そういうの向かないね。筋とか、あるけどさ、大事なのはそこじゃない。本書は、けっこう難しいとは思う。だけどオススメする。とっても。


とりあえず分かったことは、僕は千葉雅也さんがスキだね。冒頭の『私の恋人』と同じ、買い小説。とうぜん、次作、千葉さんの他の小説も読みたい。やったね、またいい作家さん見つけちゃたよ。これで〆る。

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